
ハリウッドでも活躍する格闘俳優、ジェット・リーが超人的アクションで魅せるSFアクション作品。
某国の特殊研究機関で開発されていた殺人兵士、通称『701部隊』。彼らは身体の潜在能力を格段に覚醒させると共に神経節を切断して『痛み』を感じない身体となっていた。
しかし、その危険性を重く見た政府は計画を中止させ、部隊の解散そして隊員たちの処分を通告する。
部隊の中でも最も優れていた教官、にいち早く逃げ出すことを勧め、自らは政府の軍と戦い行方不明となっていた。
それから数年。
辛くも生き延びていた彼は『チョイ』と名乗り、図書館職員として静かに暮らしていた。
ブランド好きでミーハーな肉食女子トレイシーらが務めるその職場は読書好きのチョイにとって過去も詮索されることのない職場で、寡黙で誠実に働くチョイの姿も評価されていた。
そんなチョイの唯一無二の友人は香港警察のシェク警部。武術の達人で強面な彼は、現場主義で『石頭』と呼ばれるほどの堅物。しかし正義感が強く、不思議とチョイと馬が合った。
ある日、いつものごとく将棋に明け暮れる二人。チョイは気難しい顔をし悩むシェクの様子に気づく。
実は最近、香港中の麻薬組織が何者かの手によって壊滅させられ、その人員が惨たらしく殺されている事件が多発していた。
シェクたち香港警察や他の麻薬組織は狂人と呼ばれる新興組織のボス、カウの仕業と目論んでいたが、証拠は一切なかった。
そんな中でまたしても麻薬組織襲撃事件が発生。将棋途中のシェクは呼び出され、チョイを置いて現場へと急ぐ。
現場では一人生き残りの幹部がいたが、そんな彼は何者かによって外的手術が施され、心臓に爆弾が仕掛けられていた。
チョイはその様子をきき、表情を一変させる。
摘出手術が行われるなか、チョイはシェクの携帯に電話し、爆弾を取り出してケーブルを切らないように忠告するも時既に遅し、摘出された爆弾が爆発し、病院のフロアを吹き飛ばしてしまう。
爆弾のことを知っていたチョイにシェクは疑いの目を持ち始めるのだが、その間も与えず、シェクはとある場所に呼ばれる。
そこにはパンツ姿のカウが待ち構えていた。
警戒感を強めるシェクに向かって、カウは意外にも自分の命を守ってほしいと依頼してくる。
訳が分からないシェクが問いただすと、実は何者かが香港中の麻薬組織を壊滅に追い込もうとしているらしく、自分も命をねらわれているという。
疑心の思いを持ちながらもカウの警護にあたるシェクたち。すると入り口あたりで爆発音がなるとミリタリー服をきた兵士が突入し、銃を乱射し始める。反撃をするもこちらの銃弾を喰らっても敵は何事もなく向かってくる。
部下たちが交戦中のころ、カウは捕らえていたボンデージ風の美女とSMプレイに乗じていた。しかしその美女が突然カウの首をワイヤーで締め上げる。異変に気づいたシェクが突入し美女を逮捕確保するが、カウは意識不明の重体となってしまう。
一方、不死身の兵隊の襲撃で右往左往する中で突如黒覆面を被った男が現れ、兵隊たちを次々と屠っていく。
その人間離れした動きに圧倒されるなかシェクは彼を追いかけるのだが、帽子を残して逃げられてしまう。
翌日。世間は黒覆面の男のことで持ちきりであった。シェクは署長に黒覆面の男と勘違いされおどけるも心の内ではもどかしい気持ちであった。
そんな中、シェクを訪ねてチョイが警察署にやってくる。
彼は逮捕された謎の女との面会を希望していた。
自身の権限で連れ出し再会させるシェク。
チョイのことを教官とよぶその女はかつてチョイが701部隊にいた頃の教え子ユーランであった。
チョイは彼女から701部隊の生き残りが今回の麻薬組織の襲撃の首謀者で、かつての上司である『隊長』が指揮をとっていることを知る。
彼らは麻薬組織を襲撃し、そのシェアを支配する一方で香港警察のコンピューターをハッキングし、世界中の組織にいる潜入捜査官の情報を横流しすることで莫大な資金を稼いでいた。
その真なる目的は感覚を持つ人間への改造手術のためであった。
ユーランに知られたことで自分だけでなく周囲にも701部隊の襲撃の危険があると察したチョイは被害が及ばぬように図書館を辞職し、一人で立ち向かう決意を固めるが、追ってきたトレイシー共々襲撃に巻き込まれてしまう。
部隊を退けたチョイはやむなく自分のアジトにトレイシーを軟禁し匿うしかなかった。
そんな中、解放されたユーランは隊長のもとに戻り、教官の勧誘と説得の命令を受ける。断った場合は教官を殺害することも含めて。
彼女と再会したチョイは組織への勧誘を受けるが、断固拒否をする。
その瞬間油断したチョイはユーランのもつニードルナイフの一撃を受け、出血が止まらない重傷を負う。
フラフラになりながらもようやくアジトにたどり着くが、出血多量で瀕死状態に。
軟禁されている内に交流が深まっていたトレイシーはチョイのための輸血をもってくるなど献身的な看護をし、チョイは何とか回復し始める。
だがそこに再びユーランたちが。
再度勧誘を試み拒否されるが、手負いとなっているチョイに止めがさせず、反対に隊長に裏切り者として狙撃され、死亡する。
冷酷な隊長への復讐を決意したチョイは自ら黒覆面の男であることをシェクに告げ、敵は香港警察のコンピューターにアクセスしていることを教え、コンピューターウィルスの入ったディスクを彼に渡す。
ディスクによって敵のパソコンはアクセスが妨害され新な情報を引き落とすことができなくなっていたが、署長によって解除されてしまう。そんな中でシェクは敵がこの警察署の地下に基地を作っていることに気づく。
そしてチョイも敵が地下に潜っていることに気がついていた。
警察からの応援が見込めないなか、チョイとシェクはたった二人で隊長率いる殺人兵士たちが待ち受ける深部へと向かう。
陽動作戦を用いて遂に隊長を追い詰めたチョイたち。全てのデータを持って逃亡しよう図る隊長を倒すため、チョイとシェクは罠だらけのアジト内で最後の決闘に挑むのだが…
ジェット・リーがダークヒーローとして新たな境地を開拓したSFヒーローアクション作品。
『ワンチャイ』で華麗に復活を遂げたジェット・リーはこれまで古装片にしか起用されていなかったワイヤーアクションの可能性に拘り、現代アクション作品での起用を模索。同時に時代劇アクションからの脱却を図っていた。
その過程で生まれた作品群のひとつが本作である。
『ワンチャイ』では英雄、黄飛鴻が空中技で華麗に飛びまくり超絶技巧の必殺技を繰り出すのだが、これを現代にした時少しでもリアルな設定として取り入れることができるように主人公は改造手術によって超人化した元特殊兵士にしている。
そしてビジュアル的にはアクションファンであればピンとくるであろうブルース・リーの出世作『グリーン・ホーネット』での黒マスク・黒スーツの格闘術使いの助手『カトー』のオマージュ。ハリウッドではヒーローの相棒だったが香港ではその相棒こそが主人公よりも注目され話題になっていた経緯があり、以降黒マスクの戦士を題材にした作品は現在でも製作されている。
ドニー・イェンしかり、果てはイップマン系作品にも黒マスクのヒーローはモチーフとして使われ始めているが、その要因にこの作品のヒットも関連していることは間違いないだろう。
ストーリーを端的に表すと『怪人の出ない仮面ライダー』な感じ。
悪の組織から抜け出した最強戦士がその悪の組織と戦うというプロットは続編シリーズや亜流作品でも基本は同じである。
出演陣は意外に個性派が揃っており、ジェット・リーの友人シェク警部役にはアクションもこなすノワール系俳優ラウ・チンワン、ヒロインにはコケティッシュな魅力のカレン・モク、リーと同じ暗殺部隊出身で生徒だった女兵士には『レッドブロンクス』でジャッキーと共演以降アクション女優として開花してきたフランソワーズ・イップなど。
中でも別格に目立つのは特別出演枠として出ているアンソニー・ウォン。
本作では変態癖のある麻薬組織のボス役で、パンツ一枚にスケスケレインコート姿というインパクト十分な登場のしかたで一気に注目度をかっさらっていった。
そんな彼の渾身の変態演技は必見である。
アクションにおいてはジェット・リーのほぼ独壇場に近く、洗練されたマーシャルアーツの動きに時々入れ込むヒーローっぽい決めが流石の一言。
いわゆる超人同士の戦いなのでワイヤーばりばりの荒唐無稽な戦いかたもでき、スピードは申し分ない。
そして意外にも動けるラウ・チンワンとの手合わせ的な場面も地味だが見応えはある。
颯爽とした格闘アクションが売りではあるが、クライマックスのパトリック・ロン扮するラスボス隊長との一騎討ちは電線を使ったウェポンバトルや毒ガス室での防毒マスクをめぐる攻防など、バラエティにとんだ内容でなかなか楽しませてくれる。
しかしそれ以外のリーの格闘シーンにおいてはいわゆる特撮アクション的な感じで、他の殺人兵士たちは戦闘員のような扱い。
それどころか元生徒のユーランに油断して重傷を負うなど結構脇が甘い(^^;
本国ではヒットしたようで、アンディ・オンの主演デビューとなった続編が製作されたほか、亜流作品としてルイス・ファンがバットマン風の感じで見せるアクション作品があるなど、中国映画の新しきヒーローとして認知されつつある『ブラックマスク』作品。
その源とも呼べるジェット・リーのヒーローアクションは元々のネタであるブルース・リーの『カトー』とはまた違う魅力のキャラとしておさえておきたい。
評価…★★★
(ヒーローもののジェット・リーって特に動きの見栄が決まっている気がするのは僕だけ(^^;?)
関連作品
ルイス・ファン版はバットマン風ブラックマスクだった