
ジャッキー、サモハンらと共に活躍し人気の高いユン・ピョウ主演のカンフーアクション作品。
仏山の大富豪ワンの息子のチャンは自らを『仏山一の暴れもの』と称して喧嘩負けなしを鼻に言いがかりつけるものを自慢のカンフーで撃退していた。
しかし実のところはたったひとりの跡取りに怪我をさせないようにとワンがチャンの使用人に命じ、相手をお金などで買収して負けてもらっていた。
チャンはそんなことなど知るよしもなくいつものごとく街をうろついては喧嘩の相手を探す毎日であった。
そんなある日、仏山に旅芸人一座である『豊年座』がやってくることになり、チャンの友人のマンは使用人と共に観覧。そこで女役に一目惚れした彼は場所を選ばず楽屋まで押し入りナンパするがその女役は凄まじい強さのカンフーで彼らを一蹴する。
マンが女と思ってナンパしたのは一座の女形であるルンであった。
マンは仕返しにチャンを呼び、ルンに立ち向かわせるがルンはチャンのカンフーを素人以下と罵倒し、対戦相手は買収されて忖度したのだろうといい放つ。
怒り心頭のチャンは猛然とルンに掴みかかるがルンは鮮やかな技の数々で反対にチャンをこてんぱんにやっつける。
自身が今まで裸の王様状態だったことに気づいたチャンはカンフーを教えていた先生たちも買収されて教えたことを知り、全く実力がないことを思い知らされ、庇護させていた父親に嘆くと本当のカンフーの達人となるべく力を貸すよう懇願する。
そんなチャンが師として仰ごうとしたのは他でもないルンであった。
しかしチャンの振る舞いに印象の悪いルンは頑なに彼の弟子入り願いを固辞し続けるのだった。
豊年座が広州に渡ると聞いたチャンは一計を案じ、父親に豊年座をまるごと買い取ることで自身がルンの付き人として入り込み、何とかルンからカンフーを習おうとしつこく付きまとう。
使用人のチャイ共々ルンの好物の焼豚飯を買うなどご機嫌を取るにつれて、頑なだったルンも付き人としてならと心を許し始めるのだった。
そんな広州には皇族の子息であるガウが自身の腕を試すため見初めた強い相手と戦うことを日課のようにしていた。
豊年座の噂を聞いていたガウはその劇場へと足を運ぶ。
しかし劇場では主役の関羽役の役者が女性トラブルを起こし失踪。代わりにチャンが代役として抜擢されるのだが、悪いことに主役が寝取ったのは地元のヤクザの妻。乗り込んできた彼らは役の験担ぎで喋れないチャンを袋叩きにし、舞台へと乗り込んでくる。
だが芝居中のルンは彼らを見事に撃退する。
ルンの姿をみたガウは達人である彼との対決を望み、豊年座ごと祝宴に招待する。
戦いたいガウは宴の席でルンを挑発し続け、挑みかかるのだが体調を崩していたルンは持病の喘息の発作に見舞われる。
それをみたガウは勝負をやめ体調万全なときに再戦しようと持ちかける。
宴は終わったかにみえたが、ガウの二人の側近には彼の父親よりガウを越える達人が現れた場合は即座に暗殺せよという勅命をうけていた。
そのため側近たちは刺客を雇い、就寝中の豊年座の面々を闇討ち。皆殺しにされてしまう。
療養していたルンにも刺客が襲いかかるのだが、チャンのおかげで辛くも逃げおおせるのだった。
腕を折られたチャンと喘息が悪化したルンは身の安全を確保するため山奥の長屋に身を潜める。
彼らが養生する家の隣にはカンフーの達人であるルンの兄が住んでいた。
ルンとは犬猿の仲ではあるがそれでも心配な彼は悪態つきながらも世話をやいていた。
そんな生活が半年を経過した頃、兄の一人娘トンメイと交流し始めたチャンはいまだにカンフーを教えてくれないルンに隠れて彼女と共に練習を始める。
娘にちょっかい出したと勘違いした兄が飛び出すもチャンの事情をきき、ルンにカンフーを教えるようにいうがいつものごとくケンカ別れ。
遂にはチャンもあまりに頑なすぎるルンの態度に疑問を投げつけ家を去ろうとする。
自身の意固地さを省みたルンは遂に自身のカンフーである『詠春拳』の基礎をチャンに教えだす。
それをみた兄も張り合うかのようにトンメイにより実戦的な詠春拳を教え込み、何かとルンよりも優れた面をみせようと必死になるのだった。
実力的には自分よりも兄の方が上と認めるルンはより強くなりたいチャンの意思を尊重し、兄を嵌めてより実戦的なカンフーの特訓を彼から教えさせる。
こうしてみるみるうちに腕を上げていくチャンはいつかルンをも越える域まで達していた。
それから数ヵ月後。
ルンの喘息はより悪化しもはや医者の治療がなければ命も危なくなるほど弱っていた。
ルンの兄の勧めで故郷仏山にルンと共に帰ることとなったチャンは数年ぶりに我が家へと帰り、ルンを養生させる。
そんな彼が戻ってきたことを知ったガウは見舞いでチャンの家を訪れるのだが、ガウの顔をみたルンは怒りの表情と共に彼の側近が起こした惨劇をガウに洗いざらい話す。
するとガウの側近たちはルンを刃物で刺し、それがもとでルンは死亡してしまうのだった。
自分が裸の王様状態であったガウは側近の二人を即刻処刑し、ルンへの詫びとして皇族としての権利も捨て武道家としていきる道を選ぶ。
だが無残に師匠を殺されたチャンはそれでもガウを許すことはできなかった。
ルンの仇を取るためガウと一騎討ちの決闘を訴えるチャン。
互いの生き残りをかけた最後の戦いが始まる…
サモハンが監督、総指揮に携わり遺憾なく持ち味を発揮したユン・ピョウ主演のカンフー作品。
ジャッキー・チェンが独自路線で活躍するなかで同じ七小福出身メンバーであったユン・ピョウはサモハンスタントチームのもとでその腕を磨き、『燃えよデブゴン』シリーズでもある『モンキーフィスト猿拳』で主演デビューを果たすのだが、まだまだ知名度は及ばずにいた。
そんな彼が業界内で一目置かれることとなった転機の作品が本作である。
物語の基軸となるのは師弟ものであり、復讐ものではあるのだが、そこに世間知らずのボンボンだった主人公の人間として武道家としての成長物語も加味されており、それがくどくならないギリギリのバランスで描かれているのはサモハンの監督としての経験と力量によるものだろう。
さすがはリーの遺作『死亡遊戯』を傑作にまとめ上げただけある。
アクションにおいては今回取り上げられているのは近年アクション界でも話題のジャンル『詠春拳』もの。
イップマンの作品などで目にしている方も多いと思うがその十数年も前にサモハンは独自の視点でアプローチしている。
本来足技が得意のユン・ピョウをギリギリまで足技を封印し、実直な詠春拳の素早い手技で持っていく拘りは流石。
そしてそんな傲慢な主人公に詠春拳を教えることとなるのが実際に詠春拳の使い手でもあったラム・チェンイン。
今回は女形の役のため眉を全剃りするという怪演ぶりをみせ、アクションにおいてはみごとな詠春拳の格闘シーンをみせており、正直キョンシー作品での道士役以上に輝いている。
途中からサモハンもコメディ要員としながらもユン・ピョウにさらなる技を教えていくのだが、あくまでもサモハンの役どころは脇役であり、いつもならば美味しいところを横取りするところを我慢してちゃんと立てている所にサモハンらしい拘りを感じられる。
ただ詠春拳主体だったアクションがクライマックスでは実戦的ではないという理由で頭突きや旋風脚など見映えのする派手な技のアクションに移行していたのは残念に思うところ。
ただ死力を尽くして繰り広げられるクライマックスのユン・ピョウ対フランキー・チェンはかなり壮絶で、攻撃を食らうユン・ピョウの受けの美学もさることながら歌手などの印象の強いフランキー・チェンがここまでアクション巧者であることが驚きである。
実際はフランキーも『デッドヒート』ではカースタントなどで活躍した経歴もあり、その香港映画に置けるアクションレベルの層の厚さに感嘆するばかり。
意外に豊年座襲撃シーンでの残酷さが際立っていたり、クライマックスにつなぐ動機付けの弱さなど一般受けにはマイナスとなる部分もあるもののカンフーファンとしてはハイレベルな格闘シーンが堪能できることは間違いない。
主人公と敵ボスとのトレースしたような環境の相似から引き起こされる悲劇もスパイスとしては効いているだろう。
ただ個人的にはフランキーの側近であったディック・ウェイやチュン・ファトの見せ場がもっとあればと思ってしまうのは求めすぎだろうか。
ともかくユン・ピョウファンであればぜひおさえておきたいコメディカンフー作品である。
評価…★★★★
(ラム・チェンインの見事なカンフーは主役も霞む鮮やかさ。圧倒されること間違いなしです)