
近代中国の原点となった『辛亥革命』のきっかけを作ったとされる女性革命家、秋瑾の一生を描いた歴史アクション。
19世紀末の中国清朝末期。
アヘン戦争に敗れ、欧米列強の侵略を受けていた清朝は西太后のもと封建的な社会制度を進め、女性は幼い頃から足を小さくさせる纏足を強いられ、学問すらもまともに受けさせない文化にあった。
浙江省紹興に生まれた秋瑾は幼い頃から勝ち気な性格で、纏足を拒み、詩を嗜むと同様に兄たちに交じり、剣術や乗馬などに明け暮れる毎日を過ごしていた。
やがて成長し年頃となった秋瑾に婚約の話が持ち上がる。
男女と噂され、勇猛果敢さは大の男すらも震え上がらせるほどの胆力をもつ秋瑾。彼女は奴隷のような生活から身を引き取った友人、復生の支えもあって湖南の富豪である王家に嫁ぐことが決定する。
好きな詩を読みながらも役人たちの腐敗で困窮する国の状況を常に憂いでいた秋瑾であったが、一男一女をもうけながらも夫は富豪の息子という立場を利用して毎日贅沢気ままに暮らすばかり。
家庭のことも省みない夫に秋瑾は国家を建て直してもらうために夫に清朝の役人として働いてもらおうと北京に移住することを決意する。
しかし想像以上に首都の北京は貧困に喘ぐ国民とそれを犬猫のごとく痛め付ける役人たち。そして傍若無人に蹴散らそうとする外国人たちによって混沌と化していた。
思わずその役人たちの蛮行に拳を振り上げる秋瑾であったが、そこには彼女だけではどうすることもできない現実があった。
北京につき、夫は清朝の役人職に就くのだが、今まで以上に家庭を省みず夜な夜な遅くまで女郎宿で遊び呆ける日々を続けていた。
業を煮やした秋瑾は夫を問い詰めるのだが、夫は今の封建的な社会を盾に逆ギレし反対に秋瑾を責め立てる。
そんな夫の姿に絶望した秋瑾は自身の理解者である慈英の協力のもと、幼い二人の子供を復生に託して、女性の学問推進が進んでいると言われる日本へ単身渡るのだった。
女性も平等に学問を学べる環境であった日本で、秋瑾は学問を学ぶうちに中国人として次第に国を変えなければならないという考えに傾倒し始める。
積極的に日本に渡っている中国人留学生たちを前に講演を重ね、団結を訴える秋瑾。さらに虐げられた女性達の立場を向上させるために女性だけの会『共愛会』を立ち上げ、運動家として次第に注目されることとなる。
そんな彼女は運動をしている最中に同じく日本で『光復会』の副会長を務めている徐錫燐と出会う。お互いに今の中国を憂い、未来のために団結しようという思想のもと意気投合した二人は互いに牽かれあうものがありながらも革命を志す同士として共に行動するようになる。
しかし、運動家である孫文の活動が活発化すると清朝は日本に渡っている中国人留学生達にも干渉をはじめ、国外での革命運動を阻止するために政府が内部の分裂を画策。秋瑾たちを国賊として排除するよう働きかける。
秋瑾たちは留学生排除反対運動をかかげ猛抗議をするのだが、交渉は決裂。日本で暮らす穏健派の中国人とも仲間割れを起こし徐たちと中国に強制的に帰国することとなるのだった。
幼い二人の子供を残し出ていった秋瑾は、何年かぶりに夫の待つ実家へと戻ってくるのだが、既に故郷にも自身が革命運動に参加しているという噂は届いていた。
よそよそしい態度を示す子供や母の言葉に妻としての幸せに限界を感じた秋瑾は子供たちを復生に任せ、夫には悪評によって迷惑がかからないようにと家族で劇を見ていた最中に抜け出し、離縁状を送るのだった。
革命運動家として生きていくことを決意した秋瑾だが、国内では清朝による弾圧のためにかつての仲間達が小規模の蜂起をしても鎮圧され犬死にしていくだけであった。
そこで晴れて『光復会』メンバーとなった秋瑾は徐の指導のもと、来る一斉蜂起に向けて準備を整えることになる。
徐は清朝の役人として潜り込み、官兵の指導者として軍を鍛練する一方で、秋瑾は徐の跡をついで『大通学堂』という教育学校の校長として就任。表向きは清朝のための教育学校として軍事訓練なども行うことで州知事の目を欺く一方で虎視眈々と武装蜂起のための訓練を続けていた。
そんなある日、徐の別名が記された革命運動家の文書が出回っていることを徐は知る。
運動家粛清の任命を受けた徐は秋瑾にこれを告げ、近いうちの武装蜂起の計画を練るのであった。
二人は官兵学校の卒業式の日に武装蜂起することを決定する。
そこには運動家粛清の中心人物である恩銘が来賓として現れるためで、彼を暗殺してそのまま安徽地方を制圧し、秋瑾と一緒に湖南を制圧することで一気に革命運動を全国規模に拡大させようという狙いがあった。
しかし運命のいたずらか卒業式の日程は計画よりも一日前倒しとなってしまう。
引くに引けない状況となった徐は秋瑾に変更を告げないまま武装蜂起を起こしてしまう。
虚をついた蜂起により恩銘暗殺には成功したものの壮絶な死闘の末に武装蜂起は鎮圧されてしまい徐は捕まり、処刑に処されてしまう。
そしてその訃報が届いたのは不幸にも計画日当日であった。
蜂起を察知した官軍が大通学堂に押し迫る中、秋瑾はわずかに残る仲間達と共に清の大軍相手に戦うことを決意する。
押し寄せる大軍相手に悲愴の決意で戦うも多勢に無勢で秋瑾は捕らわれてしまい罪人として裁判にかけられることとなる。
かつてもてなした役人たちが拷問をする中で、一人秋瑾に賛同する地方判事の李は痛め付けられてなお国の行く末を想う秋瑾を何とか助けようとするのだが、運命の時は迫りつつあった…
辛亥革命の起因を作った歴史的女傑を『イップマン誕生』のスタッフで描いた歴史アクション大作。
本作が公開された2010年代は近代中国の立国のきっかけとなった辛亥革命からちょうど100年ということでそれに関する歴史的作品がアジア映画として公開された。
ジャッキー・チェンが戦闘シーンに拘って作ったとされる孫文の腹心の話である『1911』や香港にきた孫文を守るために名もなき義士たちが暗殺者たちから守り抜くドニー・イェンらが主演した『孫文の義士団』などが主なところ。
そして本作もその系列となる作品のひとつである。
本作の主人公は詩人であり女性革命家として中国では知られる秋瑾という人物。
日本では馴染みは薄いかも知れないがのちの辛亥革命のきっかけを作った人物として中国では知られていて、日本にも留学経験のある女傑である。
現存する写真にはドスを片手に和服で写る姿が有名で、このエピソードは彼女の猛烈な性格を表すものとして本作でも描かれている。
31歳という若さで国家反逆の罪で斬首による刑死というまれに見る仕打ちから孫文らが清朝を倒す動きが加速化したとも言われていて中国の歴史的にも重要な人物であったことには間違いない。
そんな秋瑾の一生を描いた本作はおおよそ伝えられる彼女の生涯のエピソードに沿って描いてあるためストーリー上はよりアクション色の濃い内容ではあるが、歴史ドラマとして忠実性の高いものではある。
ただよりエンターテイメント性を出すためか秋瑾たちの格闘シーンなどをふんだんに取り入れていて退屈させないようなテンポを保っているのは流石である。
アクション色が濃いと前述したが、本作は主演を務めるクリスタル・ホワンもアクションをこなすが、やはり注目となるのは彼女の心の支えとなる革命家役を演じたデニス・トーのアクション。
主演デビューである『イップマン誕生』では若き頃のイップマンを演じ、アクション巧者ルイス・ファンと壮絶な戦いをみせるなど実際の詠春拳の達人らしいアクションを見せてくれていた。
特に注目なのはクライマックス前の官兵卒業式での戦闘シーン。
ここでの清朝の将軍役であるアクションスター、熊欣欣とみせるハイスピードのカンフー対決は事実上の本作の最大の見所といってもいいレベルの仕上がり。爆破に巻き込まれて槍を受けて壮絶に倒れる様は歴史の無情さを感じさせるがアクションのエンターテイメント性からすれば非常に見応えがある。
大通学堂におけるクリスタル・ホワン対熊欣欣の戦いも女傑らしい秋瑾の激しさを表すような格闘シーンで注目である。
歴史的にも何度も映画化されている秋瑾だが、今回彼女の役を演じたのはクリスタル・ホワン。
どことなく日本の若手女優の永野芽郁を彷彿させるようなキュートさと清楚さを持ちながら本作では凛とした男勝りの強さを見せていて魅力的である。
こちら拳法服姿のクリスタル・ホワン
こちら注目の若手女優の永野芽郁、似てない?
『イップマン誕生』ではヒロイン役として演じていて、よくよく見れば本作はルイス・ファンやサモハンらがいないだけで殆どがその演者で占められている。
徐錫燐を演じたデニス・トーの他にも秋瑾の生きざまをみて法と正義の間で葛藤する判事にアンソニー・ウォンが重厚なたたずまいで魅せるほか、こうした香港B級作品では欠かせない名バイプレーヤーのラム・シューなどいぶし銀の脇役陣が歴史的アクション作品を盛り上げている。
歴史ドラマとしてもエピソードを取り入れて上手く描いてはいるのだが、アクション的には注目なのがデニス・トーくらいなのが勿体無いといえば勿体無い。もちろんクリスタル・ホワン自体も格闘シーンは演じているが、ワイヤーのせいもあり力強さに欠けるところもある。
また、欲をいえばあまりに手堅く作りすぎている感は否めない。
政治的メッセージ性はそこまで強くはないので見やすいことは見やすいが、本当の平等の社会とは何なのか?真の敵は誰なのか?という目線でみるとより深みを感じて見ることができるだろう。
評価…★★★
(ドラマとしては手堅いがアクションはもう少し欲しいか?せっかく熊欣欣が暴れていることだし(^^;)