こんにちは!

今回は、法律の勉強の中でも特に大切な「行政法」という分野について、身近な例を交えながら、少しだけ詳しく見ていきましょう。

今日のテーマは、「産業廃棄物処理施設の設置許可」をめぐるお話です。


 

身近な法律のお話:産業廃棄物処理場はどこにでも建てていいの?

https://www.moj.go.jp/content/001229925.pdf

 

 

みなさんの周りには、家を建てたり、お店を作ったり、いろいろな工事が行われていますよね。では、もし近くに「ゴミの最終処分場」が建てられることになったら、どう思いますか?

「環境が汚れるんじゃないか」「健康に悪い影響はないの?」と心配になる人もいるでしょう。

実は、このような大きな施設を作るには、法律で定められた手続きが必要なんです。これを定めているのが廃棄物処理法という法律です。

この法律には、「勝手に建ててはいけませんよ」と書かれていて、都道府県知事などから「許可」をもらう必要があります。


 

もし、知事が許可を出したら…?

 

今回のお話では、株式会社Aという会社が、甲県という場所の山の中に、ゴミの最終処分場を建てようと計画しました。知事のBさんに許可を求める申請をしました。

しかし、その場所の周りでは、高級なブドウを作っている農家さんがたくさんいました。そのため、住民や農家の人たちは、「処分場から出る有害な物質で、ブドウがダメになったり、健康を害したりするんじゃないか」と心配しました。

住民たちは知事Bさんに「許可を出さないで!」とお願いしました。でも、知事は、A社の申請を審査した結果、「法律の基準は満たしている」と判断しました。


 

裁判で「待った!」をかけるには?

 

知事がA社に「許可」を出してしまった後、住民たちが「やっぱり納得いかない!この許可を取り消してほしい!」と裁判を起こしました。

このような裁判を「取消訴訟」といいます。

では、どんな人でも「取消訴訟」を起こせるのでしょうか?

実は、誰でも訴えられるわけではありません。法律で「この裁判を起こすことができる人」と決められています。これを「原告適格」といいます。

つまり、「法律上、守られるべき利益」を侵害される可能性がある人だけが、裁判を起こすことができるのです。

この「法律上守られるべき利益」というのは、例えば「生命や健康」「財産」など、みなさんの生活に直接関わる大切なことです。

今回のケースでは、裁判を起こした住民は2人います。

  • C1さん:処分場の予定地から少し離れた場所に住んでいて、ブドウを育てている農家さん。

  • C2さん:処分場の予定地のすぐ近くに住んでいて、地下水を飲んでいる人。

この2人は、それぞれ「原告適格」が認められるでしょうか?


 

原告適格の判断基準:法律の目的と利益

 

裁判所は、この問題を考えるとき、以下の点を重視します。

  1. 法律(この場合は廃棄物処理法)は、どんな目的で作られたのか?

    • 廃棄物処理法は、「廃棄物の適正な処理を確保し、生活環境を清潔にすること」を目的としています。つまり、住民の健康や生活環境を守ることが大きな目的です。

  2. 法律は、どんな人のどんな利益を守ろうとしているのか?

    • この法律は、施設の設置によって「生活環境が影響を受けるおそれのある地域」に住む住民の利益を、特に守ろうとしています。

  3. 実際に訴えを起こした人は、その「守られるべき利益」を持つ人なのか?

    • 裁判で、本当に被害を受ける可能性があるのかを、具体的に判断します。


 

C1さんとC2さんはどうなる?

 

以上の考え方をもとに、C1さんとC2さんについて見ていきましょう。

 

C2さんについて

 

  • C2さんは、処分場の予定地のすぐ近くに住んでいます。

  • 「生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域」として、国が定めた指針の対象地域に含まれています。

  • 処分場からの有害物質が、風で飛散したり、地下水に影響を与えたりする可能性は否定できません。

  • C2さんは、その地下水を飲んでいます。

これらのことから、C2さんは、処分場が設置されることで生命や健康といった、法律上守られるべき利益を侵害される可能性が高いと判断されます。

したがって、C2さんには原告適格が認められると考えられます。

 

C1さんについて

 

  • C1さんは、処分場の予定地から少し離れた場所に住んでいます。

  • 国が定めた指針の対象地域には含まれていません。

  • 有害物質が地下水に浸透した場合、下流にあるC1さんの居住地に到達する可能性はあります。

  • しかし、C1さんのブドウ栽培という「営業上の利益」は、直接的に廃棄物処理法が守ろうとしている利益とは少し異なります。

営業上の利益」は、法律が直接的に守ろうとしている「生命や健康」よりも、守られるべき利益と認められにくい傾向があります。

したがって、C1さんには原告適格が認められない可能性が高いと考えられます。


 

まとめ

 

今回のケースのように、行政が「許可」を出したことに対して、不服がある人が裁判を起こすことは可能です。しかし、裁判を起こすには、法律が守ろうとしている利益を侵害される可能性がある人、つまり「原告適格」がなければなりません。

C1さんとC2さんのケースでは、同じ住民でも、処分場との距離や、どのような被害を受ける可能性があるかによって、裁判を起こすことができるかどうかの判断が変わってくるのです。

法律は、このように、公平なルールに基づいて、みんなの利益を守るために作られています。

 

 


 

廃棄物処理施設設置許可と取消訴訟における原告適格

 

本件は、産業廃棄物処理施設の設置許可をめぐる取消訴訟において、周辺住民であるC1およびC2に原告適格が認められるか否かが問題となる。

 

1. 原告適格の判断枠組み

 

取消訴訟における原告適格は、行政事件訴訟法第9条によって規定され、「自己の法律上の利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者」に認められる。この「法律上の利益」の有無は、当該処分の根拠法規(本件では廃棄物処理法)が、処分の相手方以外の第三者の利益を個別の利益として保護する趣旨を含むか否かによって判断される。

この判断にあたっては、以下の点が総合的に考慮される。

  • 根拠法規の目的趣旨

  • 保護されるべき利益の内容(生命・健康等か、営業上の利益か)

  • 処分の対象施設から原告への距離地理的状況

  • 被害の蓋然性(被害が生じる可能性の高さ)

 

2. 廃棄物処理法の目的と保護される利益

 

廃棄物処理法は、その第1条において、廃棄物の適正な処理を確保し、生活環境の保全および公衆衛生の向上を図ることを目的としている。この目的を達成するため、同法は、産業廃棄物処理施設の設置に際して、周辺地域の生活環境に影響を及ぼすおそれがある場合の調査を義務付け、その結果を公衆の縦覧に供する制度を設けている(法第15条第3項、第4項)。これらの規定は、施設の設置が周辺住民の生命・健康等に与える影響を未然に防止し、周辺住民の生活環境上の利益を個別の利益として保護する趣旨を含むと解される。

 

3. C1およびC2の原告適格の検討

 

上記の判断枠組みと廃棄物処理法の趣旨を踏まえ、C1およびC2に原告適格が認められるか否かを検討する。

(1) C2の原告適格

  • C2は、本件予定地から上流側に約500メートル離れた場所に居住しており、地下水を飲用している

  • 本件調査書において、C2の居住地は、廃棄物処理施設の設置が生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域として指定されている。

  • 有害物質が風等の影響で飛散した場合、C2の居住地に到達するおそれがないとは断定できず、また、飲用している地下水に影響が及ぶ可能性も否定できない。

これらの事情から、C2は、本件処分場の設置によって、生命や健康といった法律上保護されるべき利益を侵害される蓋然性が高いと認められる。

したがって、C2には原告適格が認められる

(2) C1の原告適格

  • C1は、本件予定地から下流側に約2キロメートル離れた場所に居住しており、地下水を利用して新種の高級ぶどうを栽培している

  • 本件調査書において、C1の居住地は「生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域」に含まれていない

  • 本件処分場の有害物質が地下水に浸透した場合、下流側であるC1の居住地に到達するおそれは認められる。しかし、C1の主たる不利益は、ぶどう栽培という営業上の利益の侵害である。

廃棄物処理法は、周辺住民の生命・健康といった生活環境上の利益を個別に保護する趣旨を持つが、営業上の利益までを直接的に保護する趣旨とまでは解されにくい。また、被害の蓋然性についても、処分場からの距離が離れており、国が定めた指針の対象地域にも含まれていないことから、C2に比べて低いと評価される。

したがって、C1には原告適格は認められない可能性が高い。

 

4. 結論

 

以上のことから、本件においては、C2には原告適格が認められるが、C1には原告適格が認められないと解するのが妥当である。