若年性認知症と診断され、管理職として働くことは、ご本人にとっても、会社にとっても、多くの課題と考慮事項を伴います。以下に、それらについて詳しく解説します。
若年性認知症とは
一般的に65歳未満で発症する認知症の総称です。アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症など、様々な種類があります。高齢者の認知症と同様に、記憶障害、見当識障害、遂行機能障害、言語障害、行動・心理症状などが現れますが、発症年齢が若いため、仕事や家庭生活への影響がより深刻になる場合があります。
管理職として働く上での課題
若年性認知症の方が管理職として働く場合、以下のような課題が考えられます。
- 認知機能の低下による業務遂行の困難さ:
- 記憶障害: 指示や会議の内容を覚えられない、重要な情報を忘れてしまう。
- 遂行機能障害: 計画を立てられない、複数のタスクを同時進行できない、優先順位をつけられない。
- 判断力の低下: 状況に応じた適切な判断が難しくなる。
- コミュニケーション能力の低下: 部下への指示や報告がうまく伝わらない、誤解が生じやすい。
- 集中力・持続力の低下: 会議や作業に集中できず、長時間業務を続けることが困難になる。
- 周囲の理解と協力:
- 認知症に対する周囲の理解不足から、怠けている、やる気がないなどと誤解される可能性がある。
- 症状の変動により、できることとできないことの波があり、周囲が対応に戸惑うことがある。
- 部下や同僚がどのように接して良いか分からず、コミュニケーションが円滑に進まないことがある。
- 自己認識と葛藤:
- 初期には自分の変化に気づき、不安や焦りを感じることがある。
- 病気の進行に伴い、これまでできていたことができなくなることへの喪失感や葛藤を抱えることがある。
- プライドの高さから、周囲に助けを求めることをためらうことがある。
- キャリアと経済的な不安:
- 病気の進行により、管理職としての職務を続けることが困難になる可能性がある。
- 退職や異動により、収入が減少し、経済的な不安を抱えることがある。
会社側の考慮事項と対応
会社側は、若年性認知症と診断された従業員が管理職として働き続ける、または他の職務で能力を発揮できるよう、以下の点に配慮し、適切な支援を行う必要があります。
- 早期の相談体制と連携:
- 従業員や周囲が異変に気づいた際に、気軽に相談できる窓口を設ける(人事部、産業医など)。
- 医療機関や地域包括支援センター、若年性認知症支援コーディネーターなどの専門機関と連携し、情報収集や支援体制の構築を行う。
- 本人の意向の尊重と個別支援計画:
- 本人の希望や能力、進行状況を丁寧に把握し、可能な範囲で働き続けられるよう支援する。
- 職務内容の見直し、業務量の調整、作業環境の整備、補助ツールの導入など、個別の支援計画を作成する。
- 定期的な面談を行い、困っていることや不安なことを共有し、計画を柔軟に見直す。
- 周囲への理解促進と研修:
- 管理職を含む全従業員に対し、若年性認知症に関する正しい知識や接し方についての研修を実施する。
- 当事者の体験談などを共有し、共感と理解を促す。
- 職場のコミュニケーションを円滑にするための工夫を行う(報連相の徹底、指示の明確化など)。
- 柔軟な働き方の検討:
- 時短勤務、在宅勤務、フレックスタイム制など、柔軟な働き方を検討する。
- より負担の少ない職務への異動や、専門性を活かせる新たな役割を検討する。
- 情報提供と社会資源の活用:
- 利用できる社会保障制度(傷病手当金、障害年金、介護保険など)や支援サービスに関する情報を提供する。
- 障害者手帳の取得や障害者雇用枠での就労など、選択肢を提示する。
- 精神的なサポート:
- カウンセリングや相談窓口を設け、本人の精神的な負担を軽減する。
- 社内外の当事者会や家族会への参加を勧める。
管理職本人が心がけること
若年性認知症と診断された管理職ご本人が、働き続ける上で心がけることも重要です。
- 早期の告知と協力要請:
- 信頼できる上司や同僚に早期に diagnosis を伝え、必要な支援や協力を求める。
- 自分の状態やできること、できないことを具体的に伝え、周囲の理解を得る努力をする。
- 自己理解と工夫:
- 自分の認知機能の変化を理解し、得意なこと、苦手なことを把握する。
- メモを取る、スケジュール管理ツールを活用するなど、業務を円滑に進めるための工夫を取り入れる。
- 無理をせず、疲れたら休息するなど、自分のペースで仕事を進める。
- 周囲への感謝とコミュニケーション:
- 周囲のサポートに感謝の気持ちを伝え、良好なコミュニケーションを心がける。
- 不安や困っていることは抱え込まず、積極的に相談する。
- 専門家との連携:
- 医師やカウンセラー、支援コーディネーターなどの専門家と連携し、適切なアドバイスやサポートを受ける。
- リハビリテーションや認知機能トレーニングなど、維持・改善に向けた取り組みを行う。
- 前向きな姿勢:
- 悲観的にならず、できることに目を向け、前向きな姿勢で生活を送る。
- 趣味や興味のある活動を続け、社会とのつながりを保つ。
若年性認知症の方が管理職として働き続けることは決して容易ではありませんが、ご本人、会社、そして周囲の理解と協力、適切な支援があれば、能力を発揮し、充実した社会生活を送ることは可能です。諦めずに、それぞれの立場でできることを模索していくことが大切です。