LADY GAGA事件に関する知財高裁平成25年12月17日判決(平成25年(行ケ)第10158号)は、著名なアーティスト名からなる商標の登録の可否について判断を示しました。
商標・意匠・不正競争判例百選 第2版(別冊ジュリスト no. 248)
事実の概要
原告(X)は、世界的に著名なアメリカ合衆国の女性歌手である「LADY GAGA」の文字を標準文字で表記し、第9類「レコード、インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル、映写フィルム、録画済みビデオディスク及びビデオテープ」を指定商品として商標登録出願しました。しかし、特許庁は、本願商標をこれらの指定商品に使用した場合、取引者・需要者は当該商品の収録曲を歌唱する者、映像に出演し歌唱している者を示す、つまり商品の品質(内容)を表示するものと認識し、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないとして、商標法3条1項3号に該当するとの拒絶査定をしました。また、LADY GAGAと関係のない商品に使用した場合は、商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるとして、商標法4条1項16号にも該当するとしました。原告はこれを不服として審決取消訴訟を提起しました。
判旨
知財高裁は、原告の請求を棄却し、特許庁の審決を支持しました。判決の要旨は以下の通りです。
- 「LADY GAGA」は、我が国を含め世界的に広く知られたアメリカ合衆国の女性歌手であり、本願商標に接する者は、上記歌手名を表示したものと容易に認識する。
- 本願商標を、指定商品である「レコード、インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル、録画済みビデオディスク及びビデオテープ」に使用した場合、取引者・需要者は、当該商品に係る収録曲を歌唱する者、または映像に出演し歌唱している者を表示したもの、すなわち商品の品質(内容)を表示したものと認識するため、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない。したがって、本願商標は商標法3条1項3号に該当する。
- 本件商品の取引においては、販売元・発売元であるレコード会社・音楽レーベルの名称・ロゴよりも、歌手名・音楽グループ名自体を目印として商品が選択されることが一般的であり、これは当事者間でも争いがない。これは、本件商品の性質上、取引者・需要者が、当該商品に係る収録曲を歌唱・演奏する者または映像に出演し歌唱・演奏する者に最も注目し、これを当該商品の品質(内容)と認識するためである。
- 取引される商品によっては、人の名称やグループ名が出所表示機能を有することは否定できないが、本件商品については、商品に表示された人の名称やグループ名を、取引者・需要者が商品の品質(内容)とまず認識する。著名な歌手名・音楽グループ名である場合には、取引者・需要者はこれを商品の品質(内容)とのみ認識し、それとは別に、当該商品の出所を表示したものと理解することは通常困難である。
- 本願商標を、本件商品である「レコード、インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル、録画済みビデオディスク及びビデオテープ」のうち、LADY GAGAが歌唱しない品質(内容)の商品に使用した場合、LADY GAGAが歌唱しているとの誤解を与える可能性があり、商品の品質について誤認を生ずるおそれがある。したがって、本願商標は、商標法4条1項16号に該当する。
解説のポイント
解説では、本判決の第一の意義として、著名なアーティスト名(歌手名・音楽グループ名)からなる商標を、音楽レコードや音楽ファイル等の媒体に使用した場合、取引者・需要者はそれを商品の品質(内容)を表示するものと認識するため、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないと判断された点が挙げられています。