2025 年度演習 憲法設問集 5 月号(536 号
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Xの立場から、東京都青少年健全育成条例15条の4第1項(以下「本件条例」という)に関する憲法問題を論じます。本件条例は、保護者に対し、正当な理由がない限り、深夜に青少年を外出させないように努めなければならないと規定していますが、その影響はXの自由にも及ぶため、以下のように憲法上の問題点を指摘することができます。
1. 日本国憲法第13条(幸福追求権、自己決定権)との関係
- 日本国憲法第13条は、「すべて国民は、個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めています。この規定は、個人の人格的自律権や自己決定権を保障する根拠と解されています。
- Xは、高校2年生であり、自己の興味関心に基づいて深夜に昆虫採集を行うという計画を立てています。これは、Xが自己の個性や能力を発展させ、充実した生活を送るための活動の一環であり、幸福追求権の範囲に含まれると考えられます。
- 本件条例は、保護者を通じてXの深夜の外出を制限することにより、Xの自由な行動の選択肢を狭め、自己決定権を侵害する可能性があります。
2. 日本国憲法第22条(自由権的側面)との関係
- 日本国憲法第22条は、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定めています。この自由は、広く個人の行動の自由を保障するものと解釈されています。
- Xの深夜の昆虫採集は、直接的には居住や職業選択の自由に関わるものではありませんが、個人の自由な行動の一環として、この自由の保障を受けるべき側面があります。
- 本件条例が、正当な理由がない限り深夜の外出を一律に制限することは、Xの自由な行動を不当に制約するものであり、憲法第22条に違反する可能性があります。
3. 本件条例の目的の正当性と手段の合理性
- 本件条例の目的は、第1条に示されているように、「青少年の環境の整備を助長するとともに、青少年の福祉を阻害するおそれのある行為を防止し、もって青少年の健全な育成を図る」ことにあります。青少年の健全な育成という目的自体は、公共の福祉に適うものと考えられます。
- しかし、その目的を達成するための手段である深夜の外出の制限が、Xのような特定の状況にある青少年に対しても一律に適用されることの合理性が問題となります。
- Xの昆虫採集は、健全な趣味活動であり、必ずしも青少年の福祉を阻害するおそれのある行為とは言えません。むしろ、自然に触れ、学習意欲を高める機会となる可能性もあります。
- 本件条例は、Xの具体的な状況を考慮することなく、一律に深夜の外出を制限しようとする点で、目的達成のための手段として過剰であり、合理性を欠く可能性があります。
4. 規制の必要性と代替手段の検討
- 青少年の深夜外出を一律に禁止することが、本当に青少年の健全な育成のために必要不可欠な手段であるか疑問があります。
- 例えば、保護者による適切な指導や、時間帯や場所、活動内容に応じた柔軟な対応といった代替手段によっても、青少年の健全な育成という目的を達成できる可能性があります。
- 本件条例は、このような代替手段を十分に検討することなく、一律の制限を課している点で、規制の必要性に疑問が残ります。
結論
Xの立場から見ると、本件条例は、Xの幸福追求権や自己決定権、自由な行動の自由を不当に侵害する可能性があり、目的達成のための手段としても過剰で合理性を欠く疑いがあります。青少年の健全な育成という重要な目的は理解できるものの、Xのような特定の状況にある青少年に対してまで一律に深夜の外出を禁止することは、憲法上の問題を含んでいると言えるでしょう。条例の適用にあたっては、青少年の個性や具体的な状況を十分に考慮し、より柔軟な対応が求められるべきです。