有期雇用契約と解雇:国内外法
有期雇用契約における解雇は、期間の定めのない雇用契約と比較して、より厳しい制限が課せられています。以下に、日本法と主要な外国法における有期雇用契約と解雇に関する規定の概要を説明します。
日本法
有期雇用契約の解雇
日本の労働契約法第17条1項は、有期雇用契約について、**「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」**と規定しています。
この「やむを得ない事由」は、通常の解雇(無期雇用契約の解雇)における「客観的に合理的な理由」および「社会通念上相当である」という要件よりも、さらに厳格に判断されると考えられています。裁判例でも、有期雇用契約期間中の解雇を認めるケースは限定的です。
解雇権濫用法理
無期雇用契約の解雇については、労働契約法第16条に解雇権濫用法理が明記されており、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。
有期雇用契約の解雇においては、上記のように労働契約法第17条でより厳格な要件が定められているため、解雇権濫用法理が直接適用されるわけではありません。しかし、判例においては、有期雇用契約の解雇の有効性を判断する際に、解雇権濫用法理の考え方が参考にされることもあります。
雇止め
有期雇用契約が満了した際に、使用者側が契約を更新しない(雇止め)場合も、一定の要件の下で解雇と同様の規制が及びます(労働契約法第19条)。具体的には、以下のいずれかに該当する場合、雇止めは客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。
- 有期労働契約が過去に反復して更新されていて、期間満了時の雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められる場合
- 労働者が有期労働契約の更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合
主要な外国法
有期雇用契約と解雇に関する法規制は、国によって大きく異なります。以下にいくつかの例を挙げます。
アメリカ
アメリカでは、多くの州で「雇用は原則自由(at-will employment)」の原則が採用されており、雇用主は正当な理由の有無にかかわらず、いつでも従業員を解雇できるのが原則です。ただし、有期雇用契約を結んでいる場合は、契約期間中の解雇は契約違反となる可能性があります。また、連邦法や州法で、人種、性別、宗教、年齢、障害などを理由とする差別的な解雇は禁止されています。
イギリス
イギリスでは、一定期間(通常2年以上)継続して雇用されている従業員は、不当解雇に対する保護を受けられます。不当解雇と認められた場合、従業員は復職または補償金を請求できます。有期雇用契約の場合、期間満了による契約終了は通常解雇とはみなされませんが、契約期間中の解雇は不当解雇に該当する可能性があります。
フランス
フランスでは、有期雇用契約は特定の限定的な目的(臨時の業務、季節労働など)でのみ認められており、無期雇用が原則です。有期雇用契約期間中の解雇は、重大な不正行為または不可抗力があった場合に限定的に認められます。不当な解雇の場合、雇用主は従業員に対して損害賠償を支払う義務があります。
ドイツ
ドイツでは、解雇保護法(Kündigungsschutzgesetz)により、一定規模以上の企業で一定期間以上勤務している従業員は、社会的に正当な理由がない限り解雇されません。有期雇用契約の場合、原則として期間満了前に解雇することはできません。例外的に、契約書に解約条項が定められている場合や、重大な理由がある場合にのみ、期間中の解雇が認められることがあります。
まとめ
有期雇用契約における解雇は、国内外の法律において、無期雇用契約と比較してより厳格な制限が課せられています。日本においては、「やむを得ない事由」がなければ期間中の解雇は認められず、雇止めについても一定の要件の下で解雇と同様の規制が及びます。海外の主要国においても、有期雇用契約の特性を踏まえ、期間中の解雇を制限する法制度が存在します。
有期雇用契約の締結や解雇を行う際には、各国および日本の労働法制を十分に理解し、適切な手続きを踏むことが重要です。