2024 年度演習 商法設問集10月

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(1) B が甲社の株主名簿に自身の株主名簿記載事項の記載を請求するために、A または B が甲社に対してしなければならない手続と、それに甲社が応ずる場合に必要となる手続

B が甲社の株主名簿に自身の株主名簿記載事項の記載(名義書換え)を請求するためには、以下の手続きが必要となります。

A または B が甲社に対してしなければならない手続:

  1. 名義書換請求: 株券の譲受人である B は、甲社に対して株主名簿の名義書換えを請求することができます(会社法133条1項)。通常は、B が単独で請求できますが、実務上は譲渡人である A と共同で請求することが望ましいとされています。
  2. 必要書類の提出: 名義書換え請求の際には、以下の書類を甲社に提出する必要があります。
    • 名義書換請求書: B の氏名または名称、住所、取得した株式数などを記載した書面。甲社の所定の様式がある場合はそれに従います。
    • 株券: 譲渡人 A から交付された本件株式の株券。
    • 本人確認書類: 請求者(B)の本人確認ができる書類(運転免許証、住民票の写しなど)。
    • 印鑑証明書: 請求者(B)が法人の場合は代表者の印鑑証明書、個人の場合は実印による押印が求められる場合があります。
    • その他: 甲社が別途要求する書類(例えば、譲渡契約書の写しなど)。

甲社が応ずる場合に必要となる手続:

  1. 株主名簿の記載・記録: 甲社は、上記の請求と提出書類に基づいて、株主名簿に以下の事項を記載または記録します(会社法121条)。
    • 株主の氏名または名称および住所
    • 株主が有する株式の種類および数(本件では普通株式100株)
    • 株式を取得した年月日(B が A から本件株式を譲り受けた日)
    • 株券番号(株券発行会社の場合)
  2. 株主名簿記載事項証明書の交付(任意): 甲社は、B の請求に応じて、株主名簿にBの株主名簿記載事項が記載されたことを証明する書面(株主名簿記載事項証明書)を交付することがあります。これは法律上の義務ではありません。
  3. 旧株主(A)の株主名簿の抹消または変更: 甲社は、B の名義書換えを行うと同時に、A の株主名簿の記載を抹消するか、A の保有株式数を減らす変更を行います。
  4. 株券への裏書(実務上の対応): 実務上は、甲社が株主名簿にBの情報を記載するとともに、A から提出された株券の裏面にBの氏名または名称、取得年月日などを記載することがあります(裏書)。これは法律上の義務ではありませんが、株券の連続性を明らかにするために行われることがあります。

(2) A が甲社に対する手続をしないまま、本件株式について、譲渡の趣旨で B に株券を交付した場合に、本件株式の譲渡の有効性

A が甲社に対する名義書換えの手続きをしないまま、譲渡の趣旨で B に株券を交付した場合でも、当事者間(A と B の間)における本件株式の譲渡は有効 と解されます。理由は以下のとおりです。

  • 株券の交付と譲渡の意思表示: 株式会社の株式の譲渡は、原則として、譲渡当事者間の合意と株券の交付によってその効力を生じます(会社法128条1項)。本件では、A が B に対して譲渡代金と引換えに本件株式の株券を交付しており、譲渡の合意と株券の交付があったと認められます。
  • 非公開会社の特例: 会社法130条1項は、「株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない」と規定していますが、これはあくまで当事者間の効力要件です。非公開会社の場合、定款で株式の譲渡制限を設けていることが一般的であり(会社法107条2項1号、124条)、その譲渡制限に違反する譲渡は、会社法137条の規定により会社の承認を得なければ会社に対して効力を生じません。しかし、本設問では譲渡制限に関する記述はなく、また当事者間の譲渡の有効性を問うています。
  • 株主名簿の記載の対抗力: 株主名簿の記載は、会社に対して株主としての権利(議決権の行使、配当の受領など)を主張するための対抗要件です(会社法130条1項)。B は、株主名簿に記載されるまでは、原則として甲社に対して株主としての権利を主張することはできません。しかし、これは会社との関係における効力であり、A と B 間の譲渡の有効性自体を否定するものではありません。

したがって、A が名義書換えの手続きをしないまま B に株券を交付した場合でも、A と B の間では本件株式の譲渡は有効に成立します。ただし、B は株主名簿に記載されるまでは甲社に対して株主としての権利を主張できないことになります。B が甲社に対して株主としての権利を行使するためには、(1)で述べた名義書換えの手続きが必要となります。