2024 年度演習 憲法設問集20250316-3

 

Xさんの本件処分取消訴訟および執行停止申立てにおいて、憲法上の主張は、以下の点を中心に構成することが考えられます。

1. 生存権(憲法25条)に基づく主張

  • 最低限度の生活の保障:
    • 憲法25条1項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めています。
    • 本件において、Xさんは長年の労働により足腰を痛め、就労が困難な状況にあります。
    • Aさんも病に倒れ、Xさんの生活を支えることが難しい状況です。
    • このような状況下で、Xさんの生活保護を廃止することは、憲法25条が保障する最低限度の生活を侵害する可能性があります。
  • 生活保護基準の妥当性:
    • 生活保護法は、憲法25条の理念を実現するための法律です。
    • 本件において、福祉事務所は問答集を根拠に自動車の借用使用を一律に禁止していますが、Xさんのような個別具体的な事情を考慮していない可能性があります。
    • Xさんの状況を考慮せず、自動車の借用使用を一律に禁止する運用は、生活保護基準として妥当性を欠き、憲法25条に違反する可能性があります。
  • 個別事情の考慮:
    • Xさんのように公共交通機関が衰退した地域では、自動車は生活必需品となりえます。
    • Xさんの足腰の状態やAさんの通院の必要性を考慮すると、自動車の借用使用は最低限度の生活を維持するために必要不可欠であったと主張できます。
    • 福祉事務所は、Xさんの個別事情を十分に考慮せず、一律の基準を適用しており、裁量権の逸脱・濫用にあたる可能性があります。

2. 人格権(憲法13条)に基づく主張

  • 自己決定権:
    • 憲法13条は、個人の尊重と幸福追求権を保障しており、自己の生活に関する重要な事項を自ら決定する権利(自己決定権)が含まれると解釈されています。
    • 本件において、Xさんが自動車の借用使用を選択したことは、自身の生活状況や健康状態を考慮した上での自己決定です。
    • 福祉事務所がXさんの自己決定を尊重せず、一律に自動車の使用を禁止することは、憲法13条に違反する可能性があります。
  • 尊厳の保持:
    • 生活保護は、受給者の尊厳を保持しつつ行われるべきものです。
    • Xさんのように、やむを得ない事情で自動車を使用せざるを得ない場合に、一律に禁止することは、受給者の尊厳を傷つける可能性があります。
    • 福祉事務所の対応は、Xさんの尊厳を十分に尊重しているとは言えず、憲法13条に違反する可能性があります。

3. 平等原則(憲法14条)に基づく主張

  • 合理的な理由のない差別:
    • 憲法14条は、法の下の平等を保障しており、合理的な理由のない差別を禁止しています。
    • 本件において、Xさんのように自動車が必要不可欠な地域に居住する者と、そうでない地域に居住する者を、一律に同じ基準で扱うことは、合理的な理由のない差別にあたる可能性があります。
    • 地域の実情を考慮した柔軟な運用をすべきであると主張できます。

4. 手続き保障(憲法31条)に基づく主張

  • 適正な手続き:
    • 憲法31条は、適正な手続きを保障しています。
    • 本件において、福祉事務所は、Xさんに対する十分な説明や弁明の機会を与えないまま、保護廃止処分を行っている可能性があります。
    • Xさんに対する手続き保障が十分に行われておらず、憲法31条に違反する可能性があります。

これらの憲法上の主張に加えて、生活保護法の解釈や運用に関する主張、行政事件訴訟法上の主張などを組み合わせることで、Xさんの権利擁護に努めることができます。