チュニジアとモロッコにおける連帯経済・社会的経済(ESS)の比較

チュニジアとモロッコの両国において、**連帯経済・社会的経済(Économie Sociale et Solidaire: ESS)**は失業問題の解決策として注目されている。しかし、それぞれの歴史的・政治的・経済的背景の違いにより、ESSの発展や課題にも差異が見られる。以下、主要な点について比較する。


1. 制度的枠組みと政府の関与

チュニジア:制度の整備は進むが実効性に課題

  • 2011年の革命以降、ESSが雇用対策として積極的に推進されるようになった。
  • 2020年には**「社会的・連帯経済法(Loi sur l’ESS)」**が制定され、政府がこの分野の支援を制度化した。
  • しかし、実施機関の管理体制の弱さや、資金・インフラの不足により、多くの社会的企業が持続的な成長を遂げられずにいる。
  • 国家の介入は限定的であり、特に地方では行政支援が不十分である。

モロッコ:政府主導での推進が進む

  • モロッコでは、政府の積極的な関与のもと、ESSの推進が進んでいる
  • **「国家社会的・連帯経済戦略」**が策定され、政府は中小規模の社会的企業に対する支援を強化。
  • 職業訓練・資金援助などのプログラムが比較的整備されており、特に農村部での起業促進が行われている。
  • 政府と国際機関(EU、世界銀行など)の連携が強く、外部からの支援も受けやすい。

モロッコの方が政府の支援が手厚く、実効性のある制度が整備されている。


2. 雇用の質と労働環境

チュニジア:雇用の不安定さが続く

  • 大半の雇用契約が有期雇用であり、更新不可のケースが多い(特に協会や中小規模の社会的企業)。
  • 家族経営の小規模事業が多く、労働市場の流動性が低い。
  • 労働条件は脆弱であり、特に非正規労働者の社会保障が不十分。
  • 都市部と農村部での雇用格差が大きく、地方ではほぼ機能していない

モロッコ:比較的安定した雇用形態が確保

  • 協同組合や社会的企業の発展が進み、比較的安定した雇用が生まれつつある。
  • 農業、手工芸、観光業など、多様な分野での社会的企業が活動している。
  • 一部の社会的企業は、国や自治体との契約を通じて安定した収入源を確保している
  • ただし、地方では女性や若年層の参入が依然として困難であり、ジェンダー格差が続いている。

モロッコの方が雇用の安定性が高く、協同組合の発展が進んでいるが、地方格差は依然として課題。


3. 女性の参入とジェンダー格差

チュニジア:女性の社会的経済への参加が限定的

  • 女性の雇用機会が限られており、特に地方ではほとんど存在しない。
  • 既存の社会的企業の多くが家族経営型であり、女性がリーダーシップを取る機会が少ない。
  • 都市部では女性の起業支援プログラムがあるが、実際に成功するケースは限られている。

モロッコ:女性の起業支援が進むが、課題は残る

  • 政府が女性の社会的企業への参加を奨励しており、支援プログラムもある。
  • 一部の地方では、女性向けの協同組合(特に手工芸・農業分野)が成功している。
  • しかし、伝統的な価値観が根強い地域では、女性の経済的自立が依然として難しい

モロッコの方が女性の参入支援が充実しているが、地方では依然として格差がある。


4. 資金調達と持続可能性

チュニジア:資金不足が深刻

  • 多くの社会的企業が自己資金や家族資金に依存しており、成長が制限される。
  • 銀行融資を受けるのが困難であり、公的支援も限定的
  • 外国のNGOや国際機関からの資金援助に頼るケースが多いが、安定した支援は受けにくい。

モロッコ:公的・民間の資金調達手段が比較的充実

  • 政府が中小規模の社会的企業向けに融資・補助金制度を整備している。
  • 国際機関(EU、アフリカ開発銀行など)との連携が進み、長期的な支援が期待できる。
  • ただし、小規模事業者には依然として資金調達の壁が存在。

モロッコの方が公的・国際的な資金調達手段が充実しており、持続可能性が高い。


5. 地域格差と影響

チュニジア:都市と地方の格差が大きい

  • ESSの取り組みは首都チュニスや沿岸部に集中し、内陸地域ではほぼ機能していない。
  • 政府の支援も地方にまで行き届いておらず、地方経済の活性化にはつながっていない

モロッコ:地方での展開が比較的進む

  • 農村部における協同組合や社会的企業の発展が進みつつある(特に農業・手工芸分野)。
  • しかし、地方のインフラ(道路、金融機関など)が不十分なため、成長には限界がある

モロッコの方が地方経済の活性化に貢献しているが、インフラ整備が課題。


結論:モロッコの方が制度的に整備され、安定性が高い

チュニジア

  • 制度整備が進んでいるが、実効性に欠ける。
  • 雇用は不安定であり、社会的経済が失業問題を根本的に解決できていない。
  • 地域格差が大きく、地方での影響は限定的。

モロッコ

  • 政府の関与が強く、支援制度が整っている。
  • 雇用の安定性が高く、特に協同組合が発展している。
  • 地方での社会的経済の展開も進んでおり、農村部の活性化に寄与している。

モロッコの方がチュニジアよりも連帯経済・社会的経済が発展しており、実際の雇用創出にもつながりやすい。