モロッコ民法における契約の解釈に関する規定に触れています。具体的には、契約文言が明確であったり、不明確であったりする場合に、裁判所がどのように解釈を行うべきかについて説明しています。以下に要点を整理して解説します。

1. 契約文言が明確な場合

契約の文言が明確である場合、原則としてその意味を深く解釈することは必要ありません。モロッコ民法第461条に基づいて、契約文言が明確であれば、それ以上の意図を探る必要はないということです。しかし、実際には、契約当事者がその表現を誤って使っている場合もあります。このような場合でも、裁判所は「契約文言そのものの明確さ」を重視し、言葉の意味を特に掘り下げて考えることは求められません。

2. 契約文言が不明確な場合

もし契約の文言が不明確であれば、モロッコ民法第462条に基づき、裁判所は契約の「解釈」を行う必要があります。具体的には、以下のようなケースが考えられます:

  • 言葉が契約当事者の意図を十分に伝えていない場合
    言葉の意味が不十分であると、裁判所はその文言の背景や契約全体の文脈を考慮して解釈を行う必要があります。ここでは、単に使われた言葉そのものにこだわるのではなく、当事者の真の意図を明確にすることが求められます。

  • 文言が曖昧であり、その表現が当事者の意図を完全に表していない場合
    もし契約文言が意図を完全に表していない場合、裁判所はその表現に頼らず、契約当事者が本来意図していた意味を追求します。

  • 契約の他の部分と矛盾が生じる場合
    契約書全体の中で、複数の条項が矛盾している場合もあります。その場合、裁判所は全体の文脈を考慮して、どの条項が当事者の意図に最も合致しているかを判断します。

3. 「言葉」よりも「意図」を重視する原則

モロッコ民法においては、「言葉や形式よりも、その意図と意味が重視されるべきだ」という原則が強調されています。裁判所は契約文書を解釈する際に、単に契約書の表現だけを見て判断するのではなく、その背景にある当事者の本来の意図を探ることが求められます。

4. 最高裁判所の見解

モロッコ最高裁判所はこの原則を支持しており、契約を解釈する際には、その形式ではなく、その契約が持つ意味を重視すべきだと判断しています。これは、契約書の内容に誤解があったり、当事者の意図が十分に表現されていない場合に、その解釈が柔軟であるべきだという立場です。


要するに、モロッコ法では契約解釈において「形式」よりも「意図」を重視するという基本的な立場が採られています。このため、契約文言が明確でない場合や曖昧な場合には、その文言にとらわれることなく、当事者が本当に意図した内容に焦点を当てて解釈を行う必要があります。

 

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契約の解釈(Interprétation des Contrats)

モロッコ法の立法者が意図した解釈は、契約当事者が使用した表現からその共同の意図や目的を明確に理解することにあります。つまり、契約当事者の意図を契約書に記載された文言や条件を通じて解釈することです。この解釈には特定のルールがあり、裁判所は契約当事者の真意を理解するためにこれらのルールを遵守する必要があります。

モロッコ民法の規定に基づき、契約の解釈に関して以下の三つのケースが述べられています。

  1. 明確な契約文言
    契約の文言が明確である場合でも、必ずしもその文言が解釈できるわけではありません。求められているのは契約当事者の意図の明確化であり、単に文言が明瞭であること自体が重要ではありません。契約文言が一見明確でも、当事者がその明確な表現を誤って使用した場合が考えられます。モロッコ民法第461条によると、契約文言が明確であれば、その意味を探る必要はなく、表現から意図を確認することは求められません。

  2. 不明確な契約文言
    契約文言が不明確である場合、モロッコ法第462条が適用されます。このような場合、契約には解釈が必要となり、以下のようなケースが考えられます:

  • 使用された言葉が、契約当事者の意図を明確に伝えていない場合。この場合、裁判所は言葉の解釈を超えて、当事者が本当に意図した内容を判断します。
  • 言葉が曖昧であり、その表現が当事者の意図を完全に表していない場合。
  • 契約条項間に矛盾があり、異なる条項間でその意味が不確かである場合。

このような場合、裁判所は「言葉や形式よりもその意図と意味に重きを置く」という原則を適用します。裁判所は、契約書に記載された内容がどのように解釈されるべきかを判断する際に、当事者の真の意図を明らかにするために、契約全体の文脈に基づいて解釈を行います。

この原則に基づき、モロッコ最高裁判所は「契約の解釈においては、その形式ではなく、意味を重視すべきだ」と判断しています。

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この契約解釈に関するモロッコ法の規定(特にモロッコ民法(قانون الالتزامات والعقود, Code des Obligations et des Contrats, 以下「C.O.C.」)第461条・第462条)は、フランス法の影響を強く受けています。しかし、イスラーム法(特にマリキ―派のフィクフ)との関係も無視できません。以下の観点から、イスラーム法との関係を考察できます。


1. 「意図重視」の原則(نيّة, Niyyah)との共通点

イスラーム法では、契約解釈において 「意図(نيّة, Niyyah)」 を重視するのが基本原則です。

  • イスラーム法の契約解釈
    • 契約の文言よりも当事者の意図が優先される
    • 当事者が表現した言葉の「外形的な意味」に拘束されず、当事者の本来の意図を重視する
    • これは 「العبرة بالمقاصد والمعاني لا بالألفاظ والمباني」(言葉や形式よりも、目的と意味が重要である) という古典的な法則に基づく

この原則は、C.O.C.第462条(曖昧な契約文言の解釈) の趣旨と一致しています。つまり、契約の文言が不明確な場合、契約の本来の目的を重視して解釈するという考え方は、イスラーム法からの影響の可能性があります。


2. マリキ―派における契約解釈の手法

モロッコの伝統的な法体系は マリキ―派 に基づいています。マリキ―派フィクフ(الفقه المالكي)では、契約解釈に関して 「عرف(ʿUrf, 慣習)」 を重視する傾向があります。

  • マリキ―派の考え方
    • 文言が明確な場合でも、「当事者の意図」を考慮して解釈する
    • 社会慣習(ʿUrf)が契約解釈に影響を与える
    • 裁判官(カーディー)は契約当事者の発言や行動を考慮し、契約の趣旨を明確にする

このアプローチは、C.O.C.の解釈規定と一致しています。特に 「契約の文言が曖昧な場合、社会慣習を考慮して解釈する」 という考え方は、マリキ―派の影響を受けている可能性が高いです。


3. フランス法 vs. イスラーム法の影響

モロッコの C.O.C. は フランス民法(Code Civil) に基づいているものの、契約解釈の原則にはイスラーム法の考え方が混在している 可能性があります。

  • フランス法

    • 契約の解釈では 「明確な文言がある場合、原則としてその文言を厳格に適用する」
    • 「意図」よりも「文言」の客観的な解釈を重視する
    • C.O.C.第461条(契約文言が明確な場合、意図の考慮を否定) はフランス法の影響が強い
  • イスラーム法(マリキ―派)

    • 文言が明確であっても「当事者の意図」を重視
    • 文言に曖昧さがある場合、「契約当事者の発言・行動」「社会慣習」 を考慮
    • C.O.C.第462条(契約文言が不明確な場合、意図や慣習を考慮) はイスラーム法の影響が考えられる

このように、モロッコ法の契約解釈には、フランス法とイスラーム法の双方の原則が交錯している ことが分かります。


4. イスラーム法が適用される具体的な場面

モロッコ法において、契約解釈にイスラーム法が関係する可能性が特に高いのは、以下のような契約類型 です。

  • イスラーム金融契約(Murabaha, Ijarah など)
    • イスラーム金融では 「Riba(利息禁止)」 の解釈が重要
    • 契約の文言だけでなく、取引の「実質的な構造」が考慮される
  • 婚姻・相続契約
    • イスラーム法が適用されるため、契約の「意図」と「公正性」 が重視される
  • ワクフ(وقف, 信託契約)
    • 社会的な目的を持つ契約のため、契約者の意図と社会的影響 を考慮する必要がある

一般的な商業契約では C.O.C. の規定が優先されますが、イスラーム法が適用される分野(家族法・相続・ワクフなど)では、契約解釈の方法もイスラーム法の原則に従う傾向 があります。


結論:イスラーム法とモロッコ契約解釈の関係

  1. 契約解釈の「意図重視」原則(Niyyah)は、イスラーム法と共通する考え方
  2. マリキ―派フィクフの「慣習(ʿUrf)」重視の解釈方法が C.O.C. に影響を与えている可能性がある
  3. C.O.C. はフランス法由来だが、イスラーム法の要素も含んでいる(特に曖昧な契約解釈の部分)
  4. イスラーム法が直接適用される分野(婚姻、相続、ワクフ、イスラーム金融)では、C.O.C. の解釈方法にイスラーム法の原則が影響する可能性が高い

つまり、モロッコ法の契約解釈(特に C.O.C. 第462条)は フランス法の影響を受けつつも、イスラーム法(特にマリキ―派フィクフ)の考え方が部分的に反映されている 可能性が高いです。
特に 「文言よりも意図を重視する原則」 は、イスラーム法の影響を受けた部分と考えられます。