契約の一方当事者が単独で解除・変更できる場合
モロッコの債務・契約法(C.O.C.)第794条と第931条は、特定の契約において、一方の当事者が単独で契約を解除できることを認めています。
1. 寄託契約(第794条)
寄託契約とは、ある人(寄託者)が自分の物を他の人(受寄者)に預け、後で返してもらう契約です。
第794条では、次のように規定されています。
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受寄者は、寄託者に対して勝手に寄託物を返還することを強制できない。
→ つまり、寄託者が返還を望まない限り、受寄者は勝手に契約を終了できない。 -
ただし、寄託者が寄託物の返還を請求した場合、受寄者は必ず返還しなければならない。
→ つまり、たとえ事前に「1年間預かる」と決めていても、寄託者が「今すぐ返して」と言えば、受寄者は返還義務を負う。
結論:
寄託契約では、寄託者に契約を解除する権利があり、契約期間があってもその権利は制限されません。
2. 代理契約(第931条)
代理契約とは、ある人(委任者)が別の人(代理人)に対し、特定の行為を自分の代わりに行わせる契約です。
第931条では、次のように規定されています。
- 委任者は、いつでも代理契約を解除できる。
- この権利を制限するような契約条項は無効である。
結論:
代理契約は、委任者が一方的に終了させることが可能であり、契約でこの権利を制限することは認められません。
「契約は当事者の法」原則と司法の介入
契約法の基本原則として**「契約は当事者の法」**(pacta sunt servanda)があります。
これは、契約は当事者が自由に定めるものであり、原則として裁判所や法律は介入しないという考え方です。
しかし、次のような場合には、司法(裁判所)が介入し、契約の履行を調整することがあります。
1. 債務者に対する支払い猶予(猶予期間の付与)
- 例えば、借金の返済期日が明確に決まっている場合、債権者は返済を求めることができます。
- しかし、債務者が経済的に苦しく、すぐに支払うことが不可能な場合、裁判所が支払い猶予を認めることがあります。
- これにより、債務者は契約で決められた期日よりも遅れて支払うことが許される場合があります。
このように、契約の厳格な履行を強いると不公平が生じる場合、裁判所は当事者の事情を考慮し、一定の調整を行うことがあるのです。
まとめ
- 特定の契約(寄託契約・代理契約)では、一方の当事者が契約を単独で解除できる。
- 「契約は当事者の法」という原則があるが、裁判所が介入して契約の履行を調整する場合もある。
- 特に、債務者が経済的に苦しい場合など、裁判所が支払い猶予を認めることがある。
つまり、契約法では当事者の自由が尊重される一方で、不公平が生じる場合には法律や裁判所が介入する仕組みがある、ということです。
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雇用・解雇に関する可能性
上述の寄託契約(第794条)や代理契約(第931条)における一方的な契約解除の原則、および**裁判所の介入(支払い猶予など)**は、雇用契約や解雇にも影響を与える可能性があります。
1. 雇用契約における「一方的解除」
雇用契約も継続的契約の一種であり、特に労働者の解雇に関連して、雇用者(使用者)が一方的に契約を解除できるかどうかが重要な論点になります。
- **寄託契約(第794条)**では、寄託者は「いつでも契約を終了できる」権利を持っている。
- **代理契約(第931条)**では、委任者が「いつでも代理契約を解除できる」と明記されている。
この原則が雇用契約に適用されるなら、雇用者も労働者も自由に契約を解除できることになる。
しかし、モロッコの労働法では、雇用契約の一方的解除には制限があるため、これらの原則がそのまま適用されるわけではない。
2. 雇用契約と「契約は当事者の法」原則
モロッコの**債務・契約法(C.O.C.)**に基づくと、雇用契約も「契約は当事者の法」(pacta sunt servanda)に基づくべきですが、労働法はこの原則を制限する側面を持つため、完全な自由契約ではありません。
特に、使用者による解雇の自由は制限されており、正当な理由(cause réelle et sérieuse)が必要とされています。
これは、寄託契約や代理契約のように「いつでも契約を解除できる」とする規定とは対照的です。
3. 解雇に対する裁判所の介入
雇用契約において、裁判所が契約の履行に介入する場面として、以下のようなケースが考えられます。
(1) 労働者の解雇に対する救済措置
- 裁判所は、使用者が不当に解雇を行った場合に、労働者に補償を命じたり、解雇の無効を宣言したりすることができる。
- これは、**債務者に対する支払い猶予(第931条の趣旨)**と類似しており、労働者の権利を保護するために裁判所が介入する仕組みといえる。
(2) 労働者の退職権
- 労働者が自ら退職したい場合、寄託契約のように「いつでも辞められる」原則が適用されるかどうかは議論の余地がある。
- **特に、競業避止義務(non-compete clause)**がある場合、労働者がすぐに退職できないこともあるため、完全な自由は保証されていない。
4. まとめ
- モロッコの契約法では、特定の契約において一方的な契約解除が認められているが、雇用契約は労働法の規制を受けるため、この原則は限定的に適用される。
- 使用者による解雇には正当な理由が求められるため、代理契約や寄託契約のように「自由に契約解除できる」とは言えない。
- 裁判所が労働者保護の観点から解雇に介入する可能性があるため、契約法上の「契約は当事者の法」原則が制限される。
このように、モロッコの契約法の一部は雇用契約にも影響を与え得るものの、労働法によって制限がかかるため、単純に「いつでも解雇できる」「いつでも退職できる」とは言えません。
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例として、契約の一方の当事者に法律が契約の解除または変更を認めるケース
前述のように、法律が一方の当事者に契約の解除または変更を認める場合がある。その具体例として、モロッコ債務・契約法(C.O.C.)の第794条が挙げられる。同条には以下のように規定されている。
第794条:
「受寄者は、合意された期限前に、寄託者に対して寄託物の返還を強制することはできない。ただし、重大な正当な理由がある場合はこの限りでない。
しかし、寄託者が寄託物の返還を請求した場合、合意された返還期限が定められていたとしても、受寄者は直ちにこれを返還しなければならない。」この規定から、寄託者は法律の規定によって、寄託物を請求すればいつでも返還を受ける権利を有することが分かる。つまり、当事者が事前に寄託物の返還期限を定めていたとしても、寄託者の意思により契約を解除できる。寄託物が返還された時点で、両当事者間の契約関係は終了する。
同様に、モロッコ債務・契約法の第931条は、委任契約(代理契約)について、委任者に契約をいつでも解除できる権利を認めている。同条には次のように定められている。
第931条:
「委任者は、いつでも代理契約を解除することができる。これに反するあらゆる条件は無効とする。」したがって、一方当事者の単独の意思による契約の解除が認められる場合には、法律上明確な規定が必要となる。もしそのような規定が存在しない場合、「契約は当事者の法」の原則が適用されることになる。
第3節: 「契約は当事者の法」原則に対する司法介入
前述のとおり、「契約は当事者の法」という原則に基づき、一方当事者の単独の意思による契約条項の変更や解除は原則として認められない。しかし、特定の状況においては立法者がこの原則を制限することがあるのと同様に、司法もその職務を通じて契約の履行に関与し、この原則を制約することがある。
ここでは、司法が契約の履行に関与する2つのケースを取り上げる。
- 債務者に対する支払い猶予(猶予期間の付与)
- 不当な契約条項の是正
1. 債務者に対する支払い猶予(猶予期間の付与)
一定の場合、契約上の債務の支払い期限が明確に定められており、債権者は支払いを請求する権利を有している。そのような場合、債権者は緊急手続きを利用し、迅速に支払いを求めることができる。