モロッコ法における商慣習や合意上の慣例(契約上の習慣)がどのように法律と関連するかについての議論を展開しています。特に、モロッコの「債務・契約法典」における第475条と第476条の規定を中心に、慣習や慣例が法律(特に強行規定)に優先される場合とその限界について論じています。この内容を順を追って解説します。


1. 問題提起

テキストは次の疑問から始まります:

  • 商慣習や合意上の慣例が、強行規定に反することがモロッコ法で許されるのか?

この疑問の背景には、モロッコの「債務・契約法典」第475条の規定があります。この条文では、「慣習および慣例が法に反する場合でも、それが許される場合がある」と明記されています。ただし、この文言は一見すると矛盾を含んでおり、解釈の余地を残しています。


2. 商慣習と合意上の慣例の区別

まず、テキストでは 商慣習合意上の慣例 を区別する必要性が述べられています。この2つは似ていますが、法律上は異なる概念です。

  • 商慣習: 商取引における慣行や商業界で広く共有されるルール。主に商法に関連する。
  • 合意上の慣例: 当事者間で明示的または黙示的に同意された慣行や取り決め。主に契約法に関連する。

この区別を前提に、商慣習が民法上の強行規定に優先される場合があることが指摘されていますが、これは商法上の強行規定には当てはまりません。


3. 民法と商法の違い

ここで、モロッコ法における民法と商法の違いが強調されています。

  • 民法: 取引全般に適用される一般法。商取引以外の生活全般を規律する。
  • 商法: 商業活動や取引を対象とする特別法。

商法は民法から独立しており、両者の原則や目的は異なるため、場合によっては商法が民法より優先されることが正当化されます。特に、商法は商業活動の迅速性や柔軟性を重視するため、証明や契約解釈において民法よりも実務的なアプローチが取られています。


4. 判例の例

商慣習や自由証明の原則が支持された具体例として、以下の判例が挙げられています:

  • フランスの破棄院(最高裁判所)は、モロッコの商取引における証明方法として書面以外の証拠(例えば証人)を認めないというカサブランカ市裁判所の判決を破棄しました。
  • この判決では、「商取引では書面による証明が必須ではない」という原則が確認されました。

このように、商法では民法の原則(例:書面による証明の必要性)が制限される場合があります。


5. 反対意見

一方で、この商慣習を強行規定よりも優先する考え方には反対意見もあります。

  • 民法の優越性: 民法はすべての取引に適用される一般法であり、商法はその例外であるため、商法は民法の枠内で厳格に解釈されるべきという主張。
  • 条文違反の主張: 第475条には「慣習や慣例が法に反してはならない」と明記されており、これを無視するのは条文違反であるという指摘。

これらの意見は、特に民法を基本法として位置づける立場から、商慣習の優先を批判しています。


6. 結論と考察

テキストは、商慣習が民法上の強行規定に優先される場合がある一方で、商法上の強行規定には優先されないという立場を取っています。これは、商法と民法の独立性を尊重し、商業活動における柔軟性を確保するためのものです。

しかし、この立場には反対意見も根強く、法解釈や条文の適用における議論が続いています。結局のところ、商慣習や合意上の慣例の位置づけは、特定の事例や裁判所の判断に依存する部分が大きいと言えます。


この議論は、モロッコ法の実務における商法と民法の相互作用、そしてその中で慣習がどのように扱われるべきかを考える上で重要な示唆を提供しています。また、この問題は他の法域でも類似の課題が存在するため、比較法的な観点からも興味深いテーマです。