このセクションでは、商取引におけるウルブン('urbūn)取引や奴隷取引の具体的なルール、さらにイスラム法に基づく取引の原則について述べられています。以下に詳しく解説します。


1. ウルブン(返金不可の保証金)について

背景

ウルブンは、買い手が取引の初期段階で売り手に支払う「保証金」の一種です。取引が成立すればこの金額が代金に充当されますが、取引が成立しない場合は返金されません。現代の「デポジット」や「頭金」に似ていますが、返金されない点が異なります。

禁止理由

イスラム法では、不確実性(ガラル)や不公平な条件を伴う取引が禁じられています。この場合、買い手が最終的に商品を購入しなかった場合でも保証金を失うため、買い手に不利であり、公平性を欠くとされています。また、保証金が返金されないことは取引の不確実性を生み出し、トラブルの原因となり得ます。


2. 奴隷の交換に関する規定

許される取引条件

マリクによれば、次のような条件下での奴隷の交換は許されます:

  • 能力や価値が明確に異なる場合:アラビア語を話す商人奴隷は、取引や知識において他の奴隷よりも優れている場合があります。そのような場合、1人の優れた奴隷を2人以上の奴隷と交換することも可能です。
  • 遅延条件付きでの交換:交換がすぐに完了せず、一定の猶予期間が設けられる場合でも、顕著な違いがある場合は許されます。

禁止される条件

  • 明確な差がない場合:奴隷同士の能力や価値に顕著な差がない場合は、2人を1人と交換することは禁止されています。イスラム法では不平等な取引が禁じられるためです。

3. 所有権の移転と転売について

イスラム法では、商品を購入したが所有権を完全に取得する前に、その商品を第三者に売却しても問題ないとされています。ただし、この場合、元の売り手から直接支払いを受けるのではなく、転売先の買い手から代金を受け取る必要があります。これにより、契約が守られ、不公平が回避されます。


4. 胎児の価格(ガラルの禁止)について

母親の胎内にいる胎児の価格を追加で要求することは禁止されています。これは次の理由によります:

  • 不確実性(ガラル):胎児が健康に生まれるかどうか、またその性別や将来的な能力は不確実です。不確実性のあるものを売買の対象とすることは、イスラム法では不公正とみなされます。
  • 契約の透明性:胎児を取引の要素に含めることは、契約を不明確にし、トラブルを引き起こす可能性があります。

まとめ

このセクションでは、イスラム法が商取引において重視する基本原則が浮き彫りになります。特に次の点が重要です:

  1. 公平性:取引の条件が売り手と買い手の双方にとって公平であること。
  2. 透明性:取引内容が明確で、曖昧さや不確実性(ガラル)がないこと。
  3. 倫理的な配慮:買い手や売り手に不必要な損失や負担を強いる条件を避けること。

現代のビジネスにも通じる原則として解釈できる内容です。

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31. 商取引

31.1 返金不可の保証金(ウルブン)

  1. ウルブン取引の禁止
    ヤヒヤは、マリクが信頼できる情報源を通じてアムル・イブン・シュアイブ、彼の父、そして祖父から伝えた内容を語った。それによると、アッラーの使徒は、返金不可の保証金(ウルブン)を含む取引を禁じたとされる。

マリクの解釈:
「私たちの意見では、アッラーが最もよく知っておられるが、これは次のような場合を指している。ある人が奴隷や奴隷の少女を購入するか、動物を借りる際に、売主または貸主に『実際にその商品を購入したり、動物に乗った場合には、すでに支払った金額が商品の代金または借用料に充当される。もし購入または借用しなかった場合には、支払った金額は返金されず、売主または貸主のものになる』と条件を付ける場合だ。」

奴隷の交換について:
マリクは次のように述べている:
「私たちの間でのやり方によれば、アラビア語を話す商人奴隷を、アビシニアの奴隷やその他の種類で、弁舌、商売、洞察力、または能力が同等でない場合に交換することに問題はない。もしその奴隷が明確に異なる場合、1人の奴隷を2人以上の奴隷と遅延条件付きで交換することも許される。しかし、奴隷に顕著な違いがない場合には、たとえ種族が異なっていても、遅延条件付きで2人を1人と交換することは許されない。」

商品の所有権と転売について:
「その取引で購入した商品を全て受け取る前に、元の所有者以外の第三者から代金を受け取る場合には、その商品を転売しても問題はない。」

胎児の価格について:
「母親の胎内にいる胎児の価格を追加することは許されない。それはガラル(不確実な取引)だからである。」

 

 

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上記の内容に基づいて、雇用契約や解雇に関連する可能性がある点について説明します。イスラム法における商取引の原則は、雇用契約においても適用できる側面があります。以下にそれらを説明します。

1. ウルブン(返金不可の保証金)と雇用契約

ウルブンは、取引の際に発生する返金不可の保証金に関連する規定です。雇用契約においても、雇用主が従業員に対して何らかの保証金を要求することがあります。たとえば、従業員が会社の資産を管理したり、契約に基づいて特定の業務を遂行する際に、一定の保証金を預ける場合です。

  • 適用の可能性: イスラム法において保証金を取引の一環として受け入れることは、雇用契約においても適用される場合がありますが、従業員の権利を不当に侵害しないよう、返金不可の保証金に関しては慎重な取り扱いが求められます。従業員が実際に雇用契約を履行しなかった場合にのみ保証金が失われる仕組みは、透明性と公平性が確保される場合に許容されるでしょう。

2. 奴隷の交換に関する規定と雇用契約

奴隷の交換に関する規定は、奴隷間の交換を許可する条件に関するもので、能力や価値に基づいて交換が行われることが前提です。雇用契約においても、従業員が持つ能力やスキルに応じて、雇用条件や報酬が決定されます。

  • 適用の可能性: 雇用契約においても、従業員のスキルや能力が契約内容に影響を与え、雇用主が従業員を適切に評価し、契約条件を整えることは重要です。たとえば、より高いスキルを持つ従業員には、より高い報酬や待遇を提供することが一般的です。これに関連する規定は、従業員の「交換」として直接的に当てはまるわけではありませんが、能力に応じた待遇の設定という観点では類似しています。

3. 所有権の移転と転売についてと雇用契約

イスラム法では、商品を購入したが完全に所有権を取得する前に転売しても問題ないとされています。雇用契約においても、労働契約の移転や契約内容の変更が発生する場合があります。

  • 適用の可能性: 企業の買収や契約の譲渡が行われる場合、従業員は新しい雇用主のもとで働くことになります。この場合、従業員の権利が尊重される必要があり、単に契約内容が変更されることなく、従業員の既存の条件が維持されるべきです。所有権の移転が商取引において許されるように、雇用契約においても権利の移転が適切に行われることが求められます。

4. 胎児の価格(ガラルの禁止)と雇用契約

胎児の価格を取引に含めることが禁止されている点は、取引の不確実性(ガラル)を避けるための規定です。雇用契約においても、契約内容や解雇に関する条件に不確実性があってはなりません。

  • 適用の可能性: 雇用契約において、解雇の条件や給与、福利厚生の取り決めが曖昧であったり不確実な場合、従業員にとって不利益な結果を招く可能性があります。契約内容に不確実性があると、労働者が保護されない場合があるため、契約書には詳細かつ明確な条項を盛り込むことが求められます。

5. 解雇における不確実性の回避

イスラム法は不確実性を避けることを重視しており、解雇条件が不明確であると、それが不公平な取引に繋がりかねません。雇用契約の中で解雇に関する条件を明確に定め、予期しない解雇や不当な解雇を防ぐことが重要です。

  • 適用の可能性: たとえば、従業員が契約に基づいて適切な条件で解雇される場合、その条件は契約書に明記しておくことが重要です。解雇に関しては事前に通知期間を設け、解雇の理由が公正であることを保証することが求められます。

まとめ

イスラム法に基づく商取引の原則は、雇用契約や解雇においてもいくつかの重要な点で適用されます。特に、公平性、透明性、予測可能性といった原則は、雇用契約の中でも重要です。雇用契約においても、従業員が不利な立場に立たされないように、契約内容は明確で、公平に保たれる必要があります。また、解雇に関しても不確実性を避け、従業員に対して公正な取り決めが行われることが求められます。