フランス語法典の条文の翻訳について、チュニジアとモロッコにおける差異を指摘し、特にサンティリャナ(Santillana)によるチュニジアの翻訳がイスラーム法学(フィクフ)的な言い回しや概念をどのように取り入れているかを議論しています。以下に詳細を解説します。
1. サンティリャナの翻訳方針
- サンティリャナは、フランス語の法典をアラビア語に翻訳する際、イスラーム法学の言い回しやスタイルを取り入れています。
- 例えば、「誰も、法律が明確に許さない限り、自らの行為に反することをすることはできない」というフランス語の条文を、サンティリャナは以下のように翻訳しています:
- 「من سعى في نقض ما تم من جهته فسعيه مردود عليه إلا إذا اجاز القانون ذلك بوجه صريح」
- この表現は、原文からの直訳ではなく、フィクフにおいてよく用いられる構造(「من」や「سعى」など)を用いています。
特徴:
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フィクフ的な表現:
- 「من」(誰でも)や「سعى」(努力する)といった用語は、フィクフのテキストで頻繁に使われる特徴的な表現です。
- サンティリャナは、イスラーム法学者(ウラマー)が受け入れやすい形に文を調整しています。
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説明的な翻訳:
- フランス語の簡潔な形式に比べて、アラビア語の翻訳では解説的なニュアンスが加えられています。
2. 固定表現の翻訳の工夫
- フランス語の条文には「すべての合意は〜」「当事者間の合意を除く」といった、民法特有の定型表現が含まれています。
- サンティリャナはこれらをフィクフ的な言い回しに適応させています。
- 一例として、C.O.C.第703条(D.O.C.第604条)の条文を以下のように翻訳しています:
- フランス語:「ただし、当事者間で短い期限を合意することは可能である。長い期限に関するすべての合意は無効であり、上記の期限に短縮されなければならない。」
- アラビア語(C.O.C.版):「وللمتعاقدين أن يتشرطا أجلا أقل مما ذكر لا أكثر منه وإن زاد عليه يحط إلى القدر المبين في الصورتين أعلاه」
- アラビア語(D.O.C.版):「ومع ذلك يسوغ للمتعاقدين أن يتفقوا على أجل أقصر. وكل اشتراط لأجل أطول يكون باطلا، ويلزم إنقاصه إلى الآجال المبينة فيما سبق」
- 一例として、C.O.C.第703条(D.O.C.第604条)の条文を以下のように翻訳しています:
特徴:
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フランス語版とアラビア語版の違い:
- フランス語版の直訳ではなく、イスラーム法の用語や構造を取り入れて翻訳しています。
- サンティリャナ版(C.O.C.)では「وللمتعاقدين أن يتشرطا」(当事者は合意することができる)という形で、より簡潔かつイスラーム法学のスタイルを反映しています。
- 一方、アブデル=バキ版(D.O.C.)では、「ومع ذلك يسوغ للمتعاقدين أن يتفقوا」(それでもなお、当事者は合意することが許される)という形で、異なる表現が用いられています。
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フィクフの表現形式への配慮:
- フィクフに慣れ親しんだ受け手に対して、フランス民法的な表現をそのまま用いることは避けています。
- 必要に応じて、フィクフ的な言い回しに置き換えたり、特定の表現を省略したりすることで、イスラーム法的なニュアンスを強調しています。
3. 翻訳の意義と課題
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意義:
- チュニジアの翻訳(C.O.C.)では、フランス法の原則をイスラーム法学の枠組み内で解釈しやすい形に変換することで、現地の法学者や社会との調和を図っています。
- モロッコの翻訳(D.O.C.)よりも、イスラーム法学の影響が顕著です。
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課題:
- フランス民法の厳密な法的構造が、イスラーム法学的な翻訳スタイルにおいて曖昧になる可能性があります。
- また、法典の一貫性が失われるリスクもあり、フランス語の原文を忠実に理解したい読者にとっては難解となる場合があります。
この分析は、サンティリャナがイスラーム法とフランス法の橋渡しを目指したことを示しており、特にチュニジア法の特異性を理解する上で重要な視点を提供します。