この文章は、モロッコの法制度のアラビア化(法律のアラビア語訳やイスラム法との調整)の過程において、外国の専門家、特にエジプトからの法律家や教授が重要な役割を果たしたことを説明しています。その背景や意味を以下にまとめます:

1. モロッコのアラビア化と外国の専門家の役割

  • モロッコが独立した後、フランス植民地時代にフランス語で運営されていた法律や制度をアラビア語化することが課題となりました。
  • しかし、当時のモロッコにはアラビア語で法学や法制度を専門的に扱える人材が不足していました。その理由として、植民地時代の教育システムがフランス語を重視していたためです。
  • この人材不足を補うために、エジプトなどのアラブ諸国から専門家を招く「技術協力」が行われました。

2. アブデル・ファッタ・アブデル・バキの貢献

  • エジプト出身の法学者であるアブデル・ファッタ・アブデル・バキは、モロッコの「債務および契約法典(D.O.C.)」のアラビア語訳を担当しました。
  • 彼はエジプト、クウェート、リビアなどで法律教育や法典の起草を行った経験を持つ著名な法学者であり、クウェート民法の一部も執筆しています。

3. 外国人専門家を招いた背景

  • フランス教育を受けたモロッコのエリート層はイスラム法やアラビア語に精通していないことが多かったため、アラビア語による法制度構築には課題がありました。
  • エジプトは、アラブ・イスラム世界における法学教育の中心地とされ、エジプトからの専門家がモロッコのアラビア化において大きな役割を果たしました。

4. 「外来者受け入れ」と「技術協力」の観点

  • 外国人に依頼することは単に外部の専門家を過剰に重視する姿勢(外来者受け入れ)を意味するのではなく、むしろ国内の専門家不足を解消するための合理的な判断であったと述べています。

5. 歴史的・文化的背景

  • フランス統治時代、モロッコの教育制度ではフランス語が重視され、アラビア語やイスラム法に関する高度な教育は軽視されていました。
  • その結果、アラビア語による法学やイスラム法に精通した人材が育成されず、独立後のアラビア化プロジェクトには外国の専門家の助けが必要になったということです。

結論

このように、モロッコの法制度のアラビア化は国内外の専門家の協力によって進められたプロセスであり、エジプトのような国が提供した「技術協力」は、モロッコの法制度におけるイスラム法やアラビア語の役割を高めるうえで重要な意味を持っています。このプロセスは、モロッコ独自の法律文化を形成するうえでの転換点でもあったといえます。

 

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アブデル・ファッタ・アブデル・バキ(Abdel-Fattah Abdel-Baqi)は、エジプト出身の著名な法学者であり、比較法や民法の専門家として知られています。彼の業績は、モロッコやクウェートを含む複数のアラブ諸国での法典の起草や法学教育に大きく貢献しました。以下に彼の詳細を整理します:


1. 学歴と経歴

  • 出身地:エジプト
  • 学歴
    • パリ大学で博士号を取得(1943年)。
    • 博士論文は「動産における占有の役割:フランス法の比較研究」。
  • 教育者としての活動
    • エジプト、スーダン、リビア、モロッコ、クウェートなど多くのアラブ諸国で法学を教えた。
    • 1960年代にはモロッコのラバト大学法学部の教授を務める。
    • 1974年から1976年にかけてクウェート大学法学部の学部長を務める。

2. 主な業績

モロッコにおける役割

  • 債務および契約法典(D.O.C.)のアラビア語翻訳
    モロッコ独立後の法律のアラビア語化プロジェクトに参加し、債務および契約法典の翻訳を主に担当。
    この翻訳はイスラム法との調和を目指して行われたもので、モロッコ法の独自性形成に重要な役割を果たしました。

クウェート民法の起草

  • クウェート民法の大部分、特に債務の原因に関する部分を起草。
    クウェート民法はエジプト民法を基にしているものの、クウェートの独自性やイスラム法の影響を強く反映しています。

著作

  • エジプト民法およびクウェート民法に関する研究
    • 『契約の理論(ナザリヤト・アル=アクド)』
    • 『義務の原因(マサーディル・アル=イルティザーム)』
  • これらの著作は、エジプトやクウェートの大学だけでなく、イラクや他のアラブ諸国でも法学教育の教科書として採用されている。

3. 特徴と意義

イスラム法との統合

  • 彼の研究と翻訳は、フランス法由来の民法体系とイスラム法(特にマリキ学派)の調和を図るものとして評価されています。
  • 特に契約法や債務法において、イスラム法の原則を現代的な法体系にどのように組み込むかを探求しました。

アラブ諸国への影響

  • モロッコやクウェートにおける法典の形成にとどまらず、アルジェリアの法律や国際仲裁にも関与。
  • 彼の活動は、フランス法を基盤としながらもイスラム法の価値を残す法典の形成という、アラブ世界の法的進化に貢献しました。

4. 歴史的背景と重要性

  • 彼が活動した時代は、アラブ諸国が独立を果たし、植民地時代の法制度をアラビア語化・イスラム化する過程にありました。
  • モロッコやクウェートでの業績は、独自の法体系を構築するための重要なステップであり、アラブ法の近代化とアイデンティティ形成の一端を担ったといえます。

アブデル・ファッタ・アブデル・バキは、現代アラブ法の発展における橋渡し的存在であり、比較法学者としてもその名を歴史に刻んでいます。彼の業績は、アラブ諸国の法学教育と法制度の発展に今も影響を与え続けています。