Salini Costruttori S.p.A. and Italstrade S.p.A. v. Morocco 事件解説

事件の概要

この事件は、イタリアの建設会社2社であるSalini Costruttori S.p.A.とItalstrade S.p.A.(以下、共同で「サルニ社」)が、モロッコ王国を相手として、国際投資紛争解決センター(ICSID)に提訴した案件です。

サルニ社は、モロッコ国営高速道路公社(ADM)との間で、高速道路建設契約を締結しました。しかし、工事中に様々な問題が発生し、契約通りの対価が支払われなかったため、サルニ社はモロッコ政府が国際投資協定(BIT)に違反したとして、ICSIDに損害賠償を求めました。

争点

この事件の主な争点は以下の通りです。

  • ICSIDの管轄権: モロッコ政府は、ADMは国営企業ではあるものの、法的にも財政的にも独立した存在であるため、ICSIDの管轄権は及ばないと主張しました。
  • 国際投資協定(BIT)違反: サルニ社は、モロッコ政府がBITに定められた最恵国待遇や公正衡平待遇などの義務に違反し、契約不履行を行ったと主張しました。
  • 損害賠償額: サルニ社が被った損害額の算定方法について、両当事者間で意見が対立しました。

事件の意義

この事件は、以下の点で国際投資法の分野において重要な意義を持ちます。

  • 「投資」の定義: この事件では、「投資」の定義に関する議論が深まりました。具体的には、ADMが政府の機関であるか、それとも民間企業であるかという点が争点となりました。
  • 国営企業と国際投資協定: 国営企業が締結した契約に基づく投資紛争が、国際投資協定の適用範囲に入るのかどうかという問題が提起されました。
  • ICSIDの管轄権: ICSIDがどのような場合に管轄権を持つのかという問題について、より明確な基準を示す判例となりました。

事件の結論

この事件の最終的な結論については、公開されている情報が限られているため、詳細なことは不明です。しかし、一般的には、ICSIDがモロッコ政府の管轄権を認め、サルニ社の主張の一部を認めるという判決が出されたと考えられています。

この事件が示唆すること

この事件は、国際投資紛争の複雑さを示す一例です。投資紛争は、契約法、国際法、そして各国固有の法律など、様々な法分野が絡み合うことが多く、その解決には高度な専門性が求められます。また、この事件は、国際投資法がますます重要性を増していることを示しています。

補足

  • ICSID (International Centre for Settlement of Investment Disputes): 国際投資紛争解決センターの略称。投資家と国家間の投資紛争を平和的に解決するための国際機関です。
  • BIT (Bilateral Investment Treaty): 二国間投資協定の略称。投資家と投資先の国家間の投資関係を保護する国際条約です。
  • 最恵国待遇: 自国の投資家に与えている待遇と同等の待遇を、他の国の投資家にも与える義務のことです。
  • 公正衡平待遇: 投資家に対して、国際法上の基準に照らして公正かつ衡平な待遇を与える義務のことです。