エジプト政府が投資家との契約を解除したことに関する争いを取り上げています。エジプト政府は、プロジェクトの中止が「収用」や「国有化」に該当しないと主張しています。
被告(エジプト政府)の主張
エジプト政府は、プロジェクトをキャンセルしたことは「収用」(物理的な財産の取り上げ)や「国有化」(所有権の移転)ではなく、単にプロジェクトのキャンセルであり、SHP(Southern Pacific Properties)には代わりの土地を提供したため、権利が減少しただけであり、収用にはあたらないと主張しました。さらに、エジプト政府は代替プロジェクトの実施を提案し、SHPには補償を提供しましたが、SHPはその補償を拒否してプロジェクトを完全に放棄したため、エジプト政府には責任がないとしました。
仲裁裁判所(ICSID)の判断
管轄権について
契約に仲裁条項がなかったため、エジプトは管轄権を巡って異議を唱えました。しかし、エジプトの国内法(1974年の法第43号)に基づく仲裁の選択肢の一つとしてICSIDが含まれていることが確認され、これによりエジプトの一方的な同意があったと見なされました。つまり、エジプトはICSIDによる仲裁を認めたことになり、この管轄権を利用することができました。
メリット(内容)について
裁判所は、エジプト政府がプロジェクトをキャンセルした理由が「公共の目的」のためであり、ピラミッド地区内にアンティークが存在することが確認されたため合法的であると認めました。エジプト政府の行動は合法的な収用に該当するという立場を取ったわけです。
この裁判の結果、エジプト政府がプロジェクトをキャンセルしたことが合法とされ、SPP(投資家)の要求は退けられましたが、その後の補償提案や代替プロジェクトの提供に対する投資家の拒否も影響を与えました。
ーー
エジプト政府がプロジェクトをキャンセルしたことに関する「収用」の合法性と、それに伴う補償についての議論がされています。重要な法的な枠組みと仲裁裁判所(ICSID)の判断が説明されています。
収用と補償の法的枠組み
エジプト政府がプロジェクトをキャンセルしたことは「収用」に該当するかどうかが争点となりました。エジプトの憲法(1971年)第34条は、公共目的のために私有財産を収用する権利を政府に与えており、その際には適正な補償が必要とされています。また、エジプトの1951年の文化財保護法第11条は、アンティークが発見された土地の収用についても触れており、その場合も補償が行われるべきとされています。このような法的背景のもと、エジプト政府の措置が「合法的な収用」であるかどうかが問題となったのです。
裁判所の判断
ICSIDの仲裁裁判所は、エジプト政府によるプロジェクトのキャンセルが合法的な収用であると判断しましたが、そのためには適正な補償が必要であるとしました。補償は「差額補償」であり、キャンセルによって受けた損害を補うものでなければならないとされました。
エジプト政府の措置が「没収(confiscation)」であるか「合法的な収用(expropriation)」であるかは、補償の有無によって決まるとされました。このため、プロジェクトのキャンセルによる影響を受けたのは、土地そのものではなく、SPPの持ち分契約権であると認定されました。この契約権は国際法で保護されるべきであり、そのため補償を受ける権利が認められました。
仲裁裁判所の管轄権について
仲裁を通じて争いを解決するためには、いくつかの条件が満たされる必要があります。具体的には以下の3つが必要です:
- 争いの性質: 争いが投資に関連するものであること。
- 当事者: 争いの当事者のうち一方がICSIDに加盟している国であり、もう一方が外国の投資家であること。
- 当事者の同意: ICSIDの仲裁に書面で同意すること。
この条件が満たされることで、ICSIDがこの争いを扱うことができるとされました。
まとめ
エジプト政府は、プロジェクトのキャンセルを合法的な収用と見なし、SPPにはその損害に対する補償を支払う義務があるとされました。仲裁裁判所は、補償が適正に行われなければならないとし、プロジェクトの土地そのものではなく、SPPの契約権が保護されるべきだと認定しました。このケースは、エジプト政府の収用措置が合法であるかどうか、そして投資家が受けるべき補償の基準についての重要な指針を示しています
ーー
投資争訟に関する管轄権と、エジプトの1974年の投資促進法(Law No. 43 of 1974)に基づく「一方的同意」の概念について議論されています。特に、SPP対エジプトのケースを通じて、ICSID(国際投資紛争解決センター)の管轄権がどのように確立されたか、またその後の法改正の影響について説明されています。
投資争訟における管轄権
投資争訟におけるICSIDの管轄権は、通常、当事者の同意に基づいて決定されます。これには、二国間投資協定(BIT)における明示的な同意、または国内法に基づく一方的な同意が含まれます。
-
明示的な同意: 通常、二国間投資協定(BIT)の中に明記された条項として存在します。これは、両国が投資家のためにICSIDの管轄を承認する形です。
-
一方的同意: エジプトの1974年の投資促進法(Law No. 43 of 1974)のように、国内法に基づき、政府が一方的にICSIDの管轄を承認することがあります。これにより、外国の投資家がエジプトで紛争が発生した場合、ICSIDを利用する権利を得ることができます。
SPP v. エジプト事件の重要性
SPP対エジプト事件は、一方的同意に基づくICSIDの管轄権が確立された重要な事例です。このケースでは、エジプトの1974年の投資法第8条が、実際には投資家に対するICSIDの管轄権を確立する一方的同意として機能するかどうかが争点となりました。
エジプト政府(GOE)は、法第8条が十分な同意を提供していないと主張しましたが、仲裁裁判所(Tribunal)はこれを拒否し、第8条の言葉が強制的な意味を持つことを根拠に、一方的同意として認めました。エジプトの投資法第8条が一方的な同意を提供することを確認し、投資家がこの同意を基にICSIDの管轄権を引き出すことができると判断したのです。
その後の法改正
この判決を受けて、エジプト政府は投資法第8条に対する解釈を変更し、一方的同意を広く解釈されないようにするため、法改正を行いました。改正後、エジプトの投資法は、ICSIDの管轄権を確立するためには、エジプト政府と投資家との間で別途合意が必要であると規定しました。具体的には、紛争解決のためのメカニズムが選択制であり、投資家とエジプトの間で独立した二国間協定が必要となりました。これにより、ICSIDの管轄権は自動的に発生せず、別途合意が必要であることが明確化されました。
まとめ
このケースは、投資家と政府の間での一方的同意がどのようにICSIDの管轄権を引き出すかについて重要な指針を示しています。エジプトの1974年の投資法第8条が一方的同意として機能し、ICSIDの管轄権を引き出すための基盤となりましたが、その後の法改正によって、この同意はより制限的なものとなり、投資家と政府間での正式な合意が必要とされるようになった点が重要です。