モロッコでは、2006年に発効した米国・モロッコ自由貿易協定(FTA)により、公平な競争、環境保護、国際労働機関(ILO)の基準に基づく労働権の保護が義務付けられています。この協定は、贈賄の禁止、内部告発者の保護、および米国の投資家がモロッコで同等の権利を享受できるような体制を規定しています。

また、モロッコでは近年、西洋的な手法に基づいた代替紛争解決(ADR)が導入されていますが、イスラーム的な伝統と現代的なADRとの相性には課題があるとする研究もあります。このような背景のもと、政府、労働組合、雇用者団体などの社会的パートナーが、労働権や社会的正義を実現するうえで中心的な役割を果たしています。

労働保護や雇用を担当するのは雇用・社会問題省で、社会対話の促進や労働関連の研究を行っています。また、社会的福祉を推進するのは連帯・女性・家族・社会開発省で、モロッコ高等計画委員会(HPC)は、社会経済統計を作成して労働市場政策や雇用政策を支援しています。

労働組合は、特にカサブランカに集中しており、近年はラバトでも活発に活動しています。主な労働組合には、モロッコ労働組合(UMT)、モロッコ労働総同盟(UGTM)、民主労働連盟(CDT)があり、労働者の権利を擁護する重要な力となっています。しかし、モロッコはILOの「結社の自由及び団結権保護に関する条約(C087)」をまだ批准していません。労働組合の組織率は、従業員の約14%であり、北アフリカの他国と比べてやや低い水準です。

モロッコの労働組合は、法的保護の不足、責任を規定する法律の欠如、諮問機能の制約など、多くの課題に直面しています。また、零細企業の多さやインフォーマル労働市場の影響、民主的な関与の不足も労働組合の活動を困難にしています。その結果、UGTMやCDTの会員数は減少しており、UMTのみがわずかな成長を見せています。主要な企業であるオフィス・シェリフィアン・デ・フォスファート、モロッコテレコム、国営放送2M、ロイヤルエアモロッコなどには労働組合が強く存在しています。

近年、UMT、CDT、民主労働連盟(FDT)の3組合が連携し、社会対話の強化や反労働的な政府政策に対する政策協調に取り組んでいます。これらの組合は、賃金改善、税制の見直し、労働法の整備を求め、デモやストライキなどの行動に出ることも増えています。政府は労働問題に関して十分な対話を拒否しているとされ、特に憲法で保障されたストライキ権を脅かす法律案や、ソーシャルメディア使用を制限する法案に対しても、労働組合は強く批判しています。

政府の弾圧がある中でも、労働組合は引き続き労働権の擁護を訴えており、新型コロナウイルスの流行時には、労働者の権利を守るために意識向上や対策活動も行っています。しかし、労働組合はこれらの制約により、労働者が組織化し、自身の不満を表明する権利が侵害される懸念も示しています。