アメリカとの自由貿易協定(FTA)
モロッコは2006年にアメリカと自由貿易協定(FTA)を締結しました。これはアフリカ大陸で唯一のアメリカとのFTAです。この協定には、知的財産権、労働基準、環境保護に関する項目が含まれています。また、両国は国際労働機関(ILO)の4つの基本的な労働基準を守ることを義務付けています。さらに、この協定では贈収賄を禁止し、告発者の保護も規定されています。また、アメリカの企業はモロッコ国内でモロッコ企業と同じ権利を持ちます。
代替的紛争解決(ADR)
モロッコでは、紛争解決の方法として「代替的紛争解決(ADR)」が導入されています。西洋の価値観に基づく現代的なADRと、イスラム法に基づく伝統的な紛争解決方法には適合しない部分があるとされています。
社会的パートナーシップ
社会的パートナーシップは、労働者の権利や社会的正義を実現するために重要な役割を果たします。モロッコでは、政府、労働組合、雇用者団体が社会的パートナーとして活動しています。
政府
- 雇用・社会事務省は労働者の保護、雇用創出、社会保障に関する政策を実施しています。また、社会的対話を推進し、労働に関する調査を行っています。
- **高等計画委員会(HPC)**はモロッコの経済、人口、社会に関する統計を提供し、マクロ経済計画を立案します。
労働組合
モロッコでは労働組合運動が重要な社会的力を持っています。カサブランカには多くの労働組合が集中しており、いくつかは首都ラバトに移転して政府との連携を深めています。モロッコには主に3つの大きな労働組合(モロッコ労働組合(UMT)、モロッコ総合労働組合(UGTM)、民主労働連盟(CDT))があります。これらの組合は、2019年時点で約75万人の会員を持っており、労働組合加入率は約14%です。
モロッコの労働組合は政治と密接に関わっており、政府からの財政支援を受けていることが多いです。2010年代には、主要な労働組合の会員数が減少しましたが、UMTは増加傾向にあります。特に製造業の雇用減少が影響しています。
このように、モロッコでは労働者の権利を守るための政策や貿易協定が積極的に進められており、社会的パートナーシップも重要な役割を果たしています。
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モロッコでは、2006年に発効した米国・モロッコ自由貿易協定(FTA)により、公平な競争、環境保護、国際労働機関(ILO)の基準に基づく労働権の保護が義務付けられています。この協定は、贈賄の禁止、内部告発者の保護、および米国の投資家がモロッコで同等の権利を享受できるような体制を規定しています。
また、モロッコでは近年、西洋的な手法に基づいた代替紛争解決(ADR)が導入されていますが、イスラーム的な伝統と現代的なADRとの相性には課題があるとする研究もあります。このような背景のもと、政府、労働組合、雇用者団体などの社会的パートナーが、労働権や社会的正義を実現するうえで中心的な役割を果たしています。
労働保護や雇用を担当するのは雇用・社会問題省で、社会対話の促進や労働関連の研究を行っています。また、社会的福祉を推進するのは連帯・女性・家族・社会開発省で、モロッコ高等計画委員会(HPC)は、社会経済統計を作成して労働市場政策や雇用政策を支援しています。
労働組合は、特にカサブランカに集中しており、近年はラバトでも活発に活動しています。主な労働組合には、モロッコ労働組合(UMT)、モロッコ労働総同盟(UGTM)、民主労働連盟(CDT)があり、労働者の権利を擁護する重要な力となっています。しかし、モロッコはILOの「結社の自由及び団結権保護に関する条約(C087)」をまだ批准していません。労働組合の組織率は、従業員の約14%であり、北アフリカの他国と比べてやや低い水準です。
モロッコの労働組合は、法的保護の不足、責任を規定する法律の欠如、諮問機能の制約など、多くの課題に直面しています。また、零細企業の多さやインフォーマル労働市場の影響、民主的な関与の不足も労働組合の活動を困難にしています。その結果、UGTMやCDTの会員数は減少しており、UMTのみがわずかな成長を見せています。主要な企業であるオフィス・シェリフィアン・デ・フォスファート、モロッコテレコム、国営放送2M、ロイヤルエアモロッコなどには労働組合が強く存在しています。
近年、UMT、CDT、民主労働連盟(FDT)の3組合が連携し、社会対話の強化や反労働的な政府政策に対する政策協調に取り組んでいます。これらの組合は、賃金改善、税制の見直し、労働法の整備を求め、デモやストライキなどの行動に出ることも増えています。政府は労働問題に関して十分な対話を拒否しているとされ、特に憲法で保障されたストライキ権を脅かす法律案や、ソーシャルメディア使用を制限する法案に対しても、労働組合は強く批判しています。
政府の弾圧がある中でも、労働組合は引き続き労働権の擁護を訴えており、新型コロナウイルスの流行時には、労働者の権利を守るために意識向上や対策活動も行っています。しかし、労働組合はこれらの制約により、労働者が組織化し、自身の不満を表明する権利が侵害される懸念も示しています。
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モロッコと米国の自由貿易協定(FTA)は、2006年1月1日に発効し、両国間の貿易関係を大きく変化させました。このFTAは、モロッコが米国市場へのアクセスを拡大する一方で、米国の投資家や企業に対してモロッコ市場での公平な競争条件を確保することを目指しています。この協定には、労働基準の保護や環境保護に関する条項も含まれており、国際労働機関(ILO)の基準に基づく労働者の権利保護が求められています。
労働権とFTAの影響
米国・モロッコFTAは、モロッコに対し、以下のような労働権に関する義務を課しています:
- 結社の自由:労働者が自らの組合を組織し、集団交渉を行う権利を保護すること。
- 労働基準の改善:児童労働の防止、最低賃金の保証、安全で健康的な労働環境の提供といった、ILOの労働基準を遵守すること。
この協定は、モロッコが経済成長を遂げるために、労働者の権利保護を強化し、国際基準に基づく労働法の遵守を促進するよう求めています。これにより、労働環境の改善が進むと同時に、モロッコ国内での労働組合活動が保障されるべきとされています。しかし、現状では労働組合の活動がさまざまな制約に直面しており、結社の自由が十分に保護されているとは言えない状況が続いています。モロッコは依然としてILOの「結社の自由及び団結権保護に関する条約(C087)」を批准しておらず、この点が労働組合活動における課題の一つとされています。
労働組合活動に対する影響
FTAの枠組みによって、モロッコは表向きには労働権の保護を強化する方向にありますが、実際には以下の問題が影響を与えています:
- 法的保護の不足:FTAが労働権の保護を要求している一方で、モロッコの国内法では労働組合の権利が十分に保護されておらず、組合活動を制限する法的障壁が残されています。
- 対話の不足:モロッコ政府と労働組合の間で、賃金や労働条件の改善に関する交渉が十分に行われていないと批判されています。労働組合は社会対話が進んでいないことに不満を示しており、これがストライキやデモの原因の一つとなっています。
投資家保護と労働者保護のバランス
米国・モロッコFTAは、米国の投資家がモロッコで安定したビジネス環境を享受できるようにするため、投資家保護に関する規定も盛り込んでいます。たとえば、贈賄の禁止や投資家の権利保護が強化されており、モロッコ国内でのビジネス環境の透明性が高まることが期待されています。
しかし、この投資家保護が強調される一方で、労働者の権利が十分に確保されない懸念もあります。特に、労働組合が結社の自由を十分に行使できず、労働者が公平な労働条件を求めることが困難な状況が続いている場合、FTAの枠組みが企業に有利に働き、労働者の利益が犠牲になるリスクも指摘されています
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モロッコでは、2006年に発効した米国・モロッコ自由貿易協定(FTA)により、公平な競争、環境保護、国際労働機関(ILO)の基準に基づく労働権の保護が義務付けられています。この協定は、贈賄の禁止、内部告発者の保護、および米国の投資家がモロッコで同等の権利を享受できるような体制を規定しています。
また、モロッコでは近年、西洋的な手法に基づいた代替紛争解決(ADR)が導入されていますが、イスラーム的な伝統と現代的なADRとの相性には課題があるとする研究もあります。このような背景のもと、政府、労働組合、雇用者団体などの社会的パートナーが、労働権や社会的正義を実現するうえで中心的な役割を果たしています。
労働保護や雇用を担当するのは雇用・社会問題省で、社会対話の促進や労働関連の研究を行っています。また、社会的福祉を推進するのは連帯・女性・家族・社会開発省で、モロッコ高等計画委員会(HPC)は、社会経済統計を作成して労働市場政策や雇用政策を支援しています。
労働組合は、特にカサブランカに集中しており、近年はラバトでも活発に活動しています。主な労働組合には、モロッコ労働組合(UMT)、モロッコ労働総同盟(UGTM)、民主労働連盟(CDT)があり、労働者の権利を擁護する重要な力となっています。しかし、モロッコはILOの「結社の自由及び団結権保護に関する条約(C087)」をまだ批准していません。労働組合の組織率は、従業員の約14%であり、北アフリカの他国と比べてやや低い水準です。
モロッコの労働組合は、法的保護の不足、責任を規定する法律の欠如、諮問機能の制約など、多くの課題に直面しています。また、零細企業の多さやインフォーマル労働市場の影響、民主的な関与の不足も労働組合の活動を困難にしています。その結果、UGTMやCDTの会員数は減少しており、UMTのみがわずかな成長を見せています。主要な企業であるオフィス・シェリフィアン・デ・フォスファート、モロッコテレコム、国営放送2M、ロイヤルエアモロッコなどには労働組合が強く存在しています。
近年、UMT、CDT、民主労働連盟(FDT)の3組合が連携し、社会対話の強化や反労働的な政府政策に対する政策協調に取り組んでいます。これらの組合は、賃金改善、税制の見直し、労働法の整備を求め、デモやストライキなどの行動に出ることも増えています。政府は労働問題に関して十分な対話を拒否しているとされ、特に憲法で保障されたストライキ権を脅かす法律案や、ソーシャルメディア使用を制限する法案に対しても、労働組合は強く批判しています。
政府の弾圧がある中でも、労働組合は引き続き労働権の擁護を訴えており、新型コロナウイルスの流行時には、労働者の権利を守るために意識向上や対策活動も行っています。しかし、労働組合はこれらの制約により、労働者が組織化し、自身の不満を表明する権利が侵害される懸念も示しています。