売買 4 瑕疵担保責任 

ここでは瑕疵についての担保責任 ('uhda) ないし瑕疵選択権 (khiyār al- 'ayb) の定義と沿革について述べた後に, 売買における瑕疵選択権をめぐる各 学派の規定の概略を紹介する。 おおまかにいえば, 一方にマーリク派の規定は 制度の原型をとどめており,他方にそれ以外の学派における瑕疵選択権はより 客観化された制度になっている。

 4.1 定義と沿革

 

イスラーム法における「瑕疵担保責任」と「瑕疵選択権」についての概説です。

4.1 定義と沿革

イスラーム法における瑕疵担保責任('uhda)とは、売買契約において売主が商品の瑕疵に対して負う責任を指し、買主に対しては、目的物が正常でない場合に契約を解除するか、あるいは価格を減額する権利が与えられます。瑕疵選択権(khiyār al-'ayb)は、売買契約において目的物が商慣行上求められる品質を備えていない場合に買主が契約を解除する権利です。

サマルカンディーは、例えば女奴隷を目的とする売買で、処女であることや特定の技術を有することが条件とされている場合、その条件が満たされていなければ買主は契約を解除できると述べています。また、明示されていなくても、商人の慣行に照らして価格が減少するような事由は全て瑕疵とみなされます。

学派間の違い

マーリク派は、初期のイスラーム法の制度的な原型を保持している一方で、他の学派はより客観的な制度に変化しています。イスラーム初期には、売主の瑕疵担保責任は当然に発生するわけではなく、特定の条件が満たされた場合にのみ発生しましたが、イラクでは8世紀以降、善意や悪意に関係なく商慣行上求められる品質が欠けている場合には買主が契約を解除する権利が認められるようになりました。

瑕疵担保責任と価格の減額

買主が目的物に瑕疵を発見した場合、その瑕疵が重大であれば契約の解除が可能です。しかし、目的物が原状を著しく損なっている場合、解除はできず、買主は瑕疵の大きさに応じた価格の減額(アルシュ:arsh)を請求することができます。

アルシュの金額は、次のような計算式で算出されます:

  • 価格がxで、瑕疵のない状態の価値がy、実際の価値がzである場合、アルシュは(a=(x-y)p/x)という形で計算されます。

このように、イスラーム法では売主が商品に対する責任を負う場合、買主に与えられる選択肢として瑕疵選択権や価格減額請求が重要な要素となっています。

日本民法との比較

日本民法でも特定物に関する瑕疵担保責任が議論されてきましたが、特定物に限らず、一般的な契約にも適用されるべきという議論がありました。イスラーム法では多くの場合、契約成立時点での物が特定されている場合に限り、瑕疵選択権が発生するという立場が取られていますが、一部の学派(ハンバル派など)は売主に瑕疵のない物を給付する義務を課しています。

このように、各法学派の規定や解釈に違いがあり、歴史的に発展してきた責任概念と権利行使の制度が存在することがわかります