売買 2 有効要件 2.2 禁止される売買 買占め -1

 

買占め(ihtikār)はイスラーム法において禁止されています。その法的根拠はハディースにあります。預言者ムハンマドは「買占めをする者は呪われているが、遠隔地商人は祝福されている」と述べたとされています。また、第2代正統カリフであるウマル・ブン・アル=ハッターブは、買占めを禁止する言葉を残しており、これは『ムワッター』にも記録されています。

買占めの定義と趣旨

買占めとは、特定の場所で食糧を買い込み、その売却を拒否して人々に害を与える行為を指します。これは、町が大きくて一人の買占めによって害を被らない場合や、遠隔地から物を運んできた場合などには適用されないと解釈されています。

各学派の見解

(1) ハナフィー学派: カーサーニーによれば、買占めの対象物に関しては2つの意見があります。アブー・ユースフは、すべての種類の物が対象になるとし、シャイバーニーは食糧や家畜の飼料のみを対象としています。住民から苦情が寄せられた場合、イマームは買占め者に余剰の分を売却するよう命じ、応じない場合は警告を与え、最終的に強制執行や投獄の可能性があるとされています。

(2) マーリク学派: 小麦や大麦については、害が発生するかどうかに関わらず買占めが禁止されていますが、その他の品目については学説が対立しています。食料の価格高騰が買占め禁止の理由とされ、特に食糧が不足している土地では、買占めは常に禁止されます。

マーリク学派の一部学者は、特に食料が不足している地域では、買占めが必ず住民に害を及ぼすため、時期や状況に関わらず買占めが禁止されるとしています。

このように、イスラーム法における買占めの禁止は、公共の利益を保護し、市場の健全な運営を確保するための重要な規制とされています。

 

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日本法において、「買占め」自体を直接規制する特別な法律は存在しませんが、特定の経済活動や市場操作に関する規制が間接的に関与しています。特に公正な競争や市場の透明性を保つために、独占禁止法や他の関連法規が役割を果たしています。

独占禁止法による規制

日本の**独占禁止法(正式名称: 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)**では、市場において不当な取引制限や独占的な行為が規制されています。この法律では、以下のような行為が禁止されています。

  1. 私的独占: 競争を排除し、市場を支配する行為。
  2. 不当な取引制限: 価格操作や供給制限を目的とするカルテルや談合。
  3. 不公正な取引方法: 例えば、ダンピングや優越的地位の濫用によって市場を操作する行為。

もし「買占め」が、特定の商品やサービスの供給を人為的に制限し、価格を引き上げる目的で行われた場合、不当な取引制限不公正な取引方法に該当する可能性があります。このような場合、公正取引委員会が調査し、必要に応じて是正措置を取ることがあります。

価格操作の規制

また、特定の品目については、緊急時に価格操作や供給の制限が問題となることがあります。この場合、政府は国民生活安定緊急措置法などの特別法に基づいて、緊急措置を講じることができます。例えば、災害時に物資の買占めや不当な価格引き上げを防ぐための規制が行われることがあります。

まとめ

日本法では、イスラーム法における買占めの禁止に対応する特別な規定はないものの、公正な市場競争を確保するために、独占禁止法や緊急時の特別措置が市場操作や不当な価格引き上げを防ぐ役割を果たしています