本件は、森林法10条の2に基づく開発許可の取消しを求めた住民訴訟における、X1およびX2の原告適格について検討するものである。以下では、法的三段論法を用いて、原告適格の有無を論ずる。
1. 法的論点の整理
原告適格の問題は、X1およびX2が「法律上保護された利益」を有するか否かにかかっている。具体的には、森林法10条の2に基づく開発許可が彼らの法的利益にどのような影響を与えるかが争点となる。
1.1 原告適格の定義
行政事件訴訟法第9条1項では、行政処分の取消訴訟を提起するためには、原告が「法律上の利益を有する者」であることが要件とされている。この「法律上の利益」は、個人的利益の保護が直接認められるものでなければならない。
2. 規範の適用
次に、X1およびX2が本件で「法律上の利益」を有するかを検討する。
2.1 X1の原告適格
X1は、本件開発区域から約30キロメートル離れた市街地に居住しているが、C川に沿った下流の約200メートルの位置に土地と建物を所有している。この点において、X1は本件開発行為による水害リスクの直接的な影響を受ける立場にあるといえる。
森林法10条の2は、環境保護や災害防止など公共の福祉を目的としており、特にC川流域での過去の水害事例からも、開発行為が水源に与える影響は重大である。したがって、X1は本件開発行為が自らの所有物である土地や建物に直接的な危害を及ぼす可能性があり、法律上保護される利益が認められる。
したがって、X1は本件開発許可に対する取消訴訟において、原告適格を有するといえる。
2.2 X2の原告適格
X2は、X1から本件土地建物を賃借し居住しているため、X1と同様に開発行為による水害リスクを受ける立場にある。しかし、X2は所有者ではなく賃借人であり、賃貸借契約に基づく利益がどの程度保護されるかが問題となる。
判例では、賃借人の立場においても、開発行為が生活環境に直接的な影響を及ぼす場合には、法律上保護される利益が認められる(最高裁平成9年11月14日判決)。本件でも、X2が居住している建物が開発行為による水害リスクにさらされる可能性があり、X2の生活環境に対する影響が認められるため、法律上保護された利益があると解することができる。
したがって、X2も本件開発許可に対する取消訴訟において、原告適格を有する。
3. 結論
X1およびX2は、共に本件開発行為により自身の所有物や居住環境に直接的な影響を受ける可能性があるため、行政事件訴訟法第9条1項に基づき、法律上保護される利益を有し、原告適格を認めるべきである。