小問⑴についての解答

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1. 問題の整理

本問は、衆議院小選挙区の区割りにおいて、人口比例の原則を厳格に順守しつつも過疎地域を意図的に分断したことが選挙権の侵害に当たるかが問題となる。

憲法上、選挙権は基本的人権として保障されており(憲法15条、44条、47条)、その侵害があった場合、裁判所において違憲審査が行われる(憲法81条)。また、選挙区の区割りについては、「平等な選挙」を実現するために、各選挙区の一票の重みが等しくなるように区割りがなされることが求められる(憲法14条、44条、47条、最高裁判例の蓄積)。

本問においては、過疎地域の住民がすべての選挙区において少数派とされ、彼らの発言力が封じ込められたことが、選挙権侵害に当たるかが争点となる。

2. 選挙権の意義と選挙区区割りの基準

選挙権は、国民が国家の意思決定に参加する重要な基本的権利であるため、すべての国民に平等に保障されるべきである。この観点から、一票の格差が著しい場合には選挙権の平等を侵害する可能性がある(最高裁大法廷判決、平成24年3月23日)。

選挙区区割りの基準としては、人口比例の原則を厳格に順守することが一般的であるが、同時に地域的、地理的な要素や住民の共通利害の調整も考慮されるべきである(最高裁判例、昭和51年4月14日)。

3. 過疎地域の住民の利害調整と選挙区割り

本問のように過疎地域の住民が意図的に分断され、各選挙区で少数派とされた場合、住民の政治的発言権が実質的に制約される可能性がある。このような区割りは、住民の利害を反映させるという選挙制度の目的に反し、選挙権の平等を侵害するおそれがある。

特に、過疎地域の住民が特定の政策において共通の利害を持ち、その利害が政治的に反映されることが期待される場合には、その住民を分断する区割りは、利害の政治的反映を困難にし、実質的に選挙権の平等を侵害する可能性がある。

4. 違憲審査基準

選挙区区割りが選挙権の平等を侵害するかどうかは、「著しい不平等」をもたらすかどうかによって判断される(最高裁平成12年11月1日判決)。また、選挙区区割りが意図的に特定の住民集団を分断し、その集団の政治的発言権を実質的に制約するものであれば、違憲と判断される可能性が高い。

5. 判例との比較

類似の問題として、一票の格差をめぐる判例が参考になる。例えば、最高裁平成28年10月19日判決では、一票の格差が著しい場合には違憲状態にあるとされているが、違憲判断がなされた場合でも立法府に是正の時間を与える「事情判決の法理」が適用されることがある。本問の場合、過疎地域の住民の選挙権が実質的に制約されたことにより、違憲と判断される可能性が高いが、区割り自体の変更は立法府に委ねられる可能性がある。

6. 結論

Xの請求は、過疎地域の住民の発言権が実質的に制約されている点で、選挙権の平等を侵害していると認められる可能性が高い。したがって、この選挙区割りは違憲と判断され、Xの請求は認容されるべきである。

 

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小問⑵についての解答

1. 問題の整理

本問は、比例代表選挙において、当選後に党から除名された候補者が繰上補充による当選の資格を失った場合、その決定が選挙権の侵害や比例代表制度の趣旨に反するかが問題となる。

衆議院の比例代表選挙は、各政党が作成した拘束名簿に基づき、政党に対する票が議席に換算され、名簿順位に従って当選者が決定される制度である(公職選挙法97条)。本件では、当選後に党から除名されたDが繰上補充の対象から外され、第5順位のEが繰上当選したことについて、Dが当選訴訟を提起している。

2. 比例代表選挙の趣旨と拘束名簿式の意義

比例代表制は、政党に対する支持を反映し、各政党に支持された割合に応じて議席が配分される選挙制度であり、政党に投票した有権者の意思をできるだけ忠実に議席に反映することを目的としている。

拘束名簿式の場合、政党が作成した名簿に基づき、当選者が決定されるため、政党の意向や名簿順位が重要な要素となる。このため、繰上補充の際にも、政党の名簿順位に従って補充されることが通常である(公職選挙法99条の2)。

3. 当選後の除名処分と繰上補充

本件では、Dが当選後に党から除名されたことで、第4順位であるにもかかわらず繰上補充の対象から外されている。しかし、比例代表制は政党に対する支持を基礎として議席が配分されるため、当選者が除名された後も、当初の名簿順位に基づいて補充されるのが原則である。

公職選挙法99条の2第2項では、繰上補充の際には、当選者が「死亡、辞職、または欠格事由が生じた場合」に補充が行われると規定されている。しかし、除名はこれらの事由には該当しないため、Dが除名されたとしても、法律上は繰上補充の対象から外れる理由とはならない。

4. 判例との比較

比例代表選挙に関連する最高裁判例として、平成12年12月27日判決が参考になる。この判例では、比例代表制における政党の意向と有権者の投票との関係が問題となり、政党が有権者の意思を恣意的に変更することが比例代表制度の趣旨に反する場合、違法となる可能性が指摘されている。

本件においても、Dが当初の名簿順位に基づき繰上補充されるべきところ、党の除名処分を理由に繰上当選が妨げられたことが、比例代表制の趣旨に反する可能性がある。

5. 違憲審査基準

選挙制度における違憲審査基準としては、「合理的関連性テスト」が適用されることが多い。すなわち、選挙制度の目的とその手段との間に合理的な関連性があるかどうかを検討し、制度が有権者の選挙権を不当に侵害する場合には違憲とされる(最高裁平成13年3月27日判決)。

本件では、Dが除名されたことを理由に繰上補充が認められないという判断が、比例代表制の趣旨に合理的な関連性を持たないと判断される可能性がある。Dは当初の名簿順位に基づき、繰上当選の資格を有するべきであり、除名がその資格を否定する合理的な理由とはならないと考えられる。

6. 結論

Dの請求は認容される可能性が高い。Dは当初の名簿順位に基づき繰上補充されるべきであり、党の除名処分を理由にこれを妨げることは、比例代表制の趣旨に反し、選挙権の侵害に当たると認められるべきである。したがって、Dの繰上補充による当選が認められるべきである。