(事案の概要)
税理士会は税理士法改正運動のために、政治団体へ寄付する資金として特別会費を徴収する旨の決議を行いました。しかし、会員Xらはこの会費の納入を拒否したため、役員選挙の選挙権を剥奪されました。これに対し、Xらは特別会費の納入義務の不存在確認と慰謝料の支払いを求めて訴訟を提起しました。
(問題点)
この事案では、税理士会という強制加入団体において、会員に対し政治献金のための協力義務を課すことが、憲法上の思想・良心の自由を侵害するか、さらに、政治献金が税理士会の目的の範囲内の行為かが主要な争点となります。
(法的論点の検討)
- 税理士会の目的の範囲
まず、税理士会の目的は税理士法第49条1項により規定されており、その活動は税理士業務に関連するものに限られます。したがって、税理士会が政治献金を行うことが、この規定された目的の範囲に含まれるかが検討されるべきです。政治献金は、法令改正のために行われるものであるとしても、税理士業務に直接関連するものではなく、税理士会の目的の範囲外の行為と評価されるべきです。
- 思想・良心の自由との関係
次に、憲法19条で保障される思想・良心の自由との関係が問題となります。税理士会は強制加入団体であり、会員には実質的に脱退の自由がありません。そのため、税理士会による政治献金への協力義務が、思想・良心の自由を侵害するかが検討されます。
政治献金は各会員が個々の政治的判断に基づき自由に行うべきものであり、税理士会がこれを強制することは、思想・良心の自由を侵害するものと考えられます。税理士会が公的性格を有する団体である以上、このような個々の思想に基づく行動を、団体の多数決により強制することはできません。