事例におけるXの罪責について、刑法の観点から論じます。特別法違反の点は除外し、一般的な刑法の規定に基づいて考察します。

1. 殺人罪(刑法199条)

法定要件

殺人罪は、他人の生命を故意に奪うことを構成要件としています(刑法199条)。この事例では、Xの行為がAの死亡に繋がった点が重要です。

Xの行為

XはAに対して暴行を加え、Aを畳の上に押し倒し、さらに夏蒲団をAの顔面にかぶせて両手で押さえました。Aはこの行為によって急性心不全を引き起こし、死亡しました。ここで問題となるのは、Xの行為がAの死亡にどの程度寄与したかという点です。

Xの故意

XはAの家賃返還に不満を持ち、暴力を用いて金員を奪おうとしましたが、Aの死亡を直接の目的としていたわけではありません。このため、Xには直接の殺意はなかったと考えられます。

法的評価

Aが持病を抱えていたため、Xの暴行は通常の健康な人間であれば命に関わらない程度のものでした。しかし、Xの行為がAの持病により致命的な結果を引き起こしたため、因果関係の評価が重要です。

2. 暴行罪(刑法208条)

法定要件

暴行罪は、他人に対して不法に身体を傷害する行為を処罰するものです。XがAに対して行った行為は、身体に対する暴力行為であり、暴行罪に該当します。

Xの行為

XはAの胸ぐらをつかみ、玄関から室内に押し込み、畳の上に押し倒しました。さらに、夏蒲団でAの顔面を押さえたことは、明確な暴行行為です。

3. 強盗罪(刑法236条)

法定要件

強盗罪は、暴行または脅迫を用いて他人から物を奪う行為を処罰するものです(刑法236条)。XはAに対して暴行を加えた後、室内を物色して現金10万円を奪いました。

Xの行為

Xの行為は、暴行を用いて物を奪ったため、強盗罪に該当します。

4. 過失致死罪(刑法208条の2)

法定要件

過失致死罪は、過失により他人の死亡を招いた場合に適用されます。ここでは、Xの行為がAの持病を引き起こした場合に該当します。

Xの行為

Xの暴行がAの持病によって致命的な結果を引き起こしたため、Xの行為が過失致死罪に該当するかが問題です。XがAの持病を知っていたわけではなく、また通常の健康な人には致命的でない行為であったため、過失致死罪の成立は難しいかもしれません。

結論

Xの罪責については、以下のように評価できます:

  1. 殺人罪:Xに直接の殺意はなかったため、殺人罪は成立しない可能性が高いですが、暴行行為が致命的結果を引き起こしたため、刑法199条の適用が議論されることになります。
  2. 暴行罪:Xの暴行行為は明確に暴行罪に該当します。
  3. 強盗罪:Xの金銭を奪った行為は強盗罪に該当します。
  4. 過失致死罪:XがAの持病について知っていたわけではないため、過失致死罪の成立は難しいと考えられます。

このように、Xの罪責は暴行罪と強盗罪が主に成立する一方で、殺人罪や過失致死罪の適用については詳細な評価が必要です。