本問においては、憲法20条および89条に関わる政教分離原則に基づく問題と、改正案が裁判所の違憲審査権(憲法81条)を制限する可能性があることが問われている。
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Ⅰ. 政教分離原則について
まず、政教分離原則は、日本国憲法第20条第1項後段及び第3項、並びに第89条前段に規定されている。この原則は、国家と宗教の分離を図り、国家が特定の宗教に関与したり支援したりすることを防止するものである。
1. A市長Wの行為
A市長Wの行為が政教分離原則に反するかどうかが問題となる。具体的には、Wが公用車を使用して神社の鎮座500年記念の発会式に出席し祝辞を述べたことが、憲法20条および89条に違反するかが争点である。このような行為は、国家機関が特定の宗教活動に関与することを意味するため、憲法上の問題となる可能性がある。
2. 市有地の無償提供
また、A市が市有地を△△神社に無償で提供している点も、政教分離原則に反する可能性がある。これは、憲法89条前段における「公の財産の宗教団体への支出」の禁止規定に違反する疑いがある。
過去の判例である「愛媛玉串料訴訟」(最判平成9年4月2日)では、県が宗教的な行事に公金を支出したことが憲法に違反すると判断された。この判例は、本問のように宗教的な行事に対する公的支出や支援が問題となる場合の基準となりうる。
Ⅱ. 本件規定の改正案について
次に、X市長と国会議員Zが提案した地方自治法242条の2第1項の改正案について、憲法上の問題点を検討する。
1. 違憲審査権の制限
改正案の趣旨は、政教分離原則に関する違憲性を理由に住民訴訟を提起できないとするものである。しかし、このような改正は、裁判所の違憲審査権を制限するものと考えられる。
日本国憲法第81条は、裁判所に対し、法令その他の国家行為が憲法に適合するかどうかを審査する権限を認めている。この権利は「違憲審査権」と呼ばれ、憲法秩序を守るための重要な機能である。
2. 改正案の問題点
改正案は「憲法20条第1項後段及び第3項並びに第89条前段違反を理由として請求することはできない」という文言を含んでおり、これによって裁判所の違憲審査権を実質的に制限する結果となる。憲法81条に基づく裁判所の機能を侵害し、立法権が司法権を不当に制約することになるため、三権分立の原則に反する可能性がある。
過去の判例である「砂川事件」(最判昭和34年12月16日)や「朝日訴訟」(最判昭和39年5月27日)などでは、裁判所の違憲審査権は重要な機能として認められており、これを制限するような立法措置は、厳しく制約されるべきであるとされている。
Ⅲ. まとめ
以上を総合すると、政教分離原則の観点からA市長Wの行為や市有地の無償提供は、憲法20条および89条に反する可能性が高い。また、本件規定の改正案は、裁判所の違憲審査権を制限するものであり、憲法81条に反する疑いが強い。したがって、改正案の実施には慎重な検討が必要であり、裁判所の憲法判断を制限することは望ましくないと考えられる。