問題提起

本件は、暴力団員等の排除を目的とした条例の合憲性が争われた事件である。具体的には、西宮市営住宅条例に基づき、暴力団員であることを理由に市営住宅からの退去を求められたXが、当該規定が憲法に違反するか否かを争った。

まず、問題となるのは暴力団排除条項が憲法13条(個人の尊重)や憲法14条(平等権)、憲法29条(財産権の保障)に違反しないかである。

憲法13条・個人の尊重

憲法13条は、すべての国民に「生命、自由及び幸福追求に対する権利」を保障する。この権利は公共の福祉による制約を受けるが、本件で暴力団員という身分を理由に居住権を制限することが、個人の尊厳や幸福追求権に対する過剰な制約にならないかが問われる。

暴力団排除の目的は社会秩序の維持や他の住民の安全確保であり、これは公共の福祉に基づく正当な理由といえる。さらに、市営住宅は公共の財産であり、その運営において社会全体の利益が優先されるため、個々人の幸福追求権は制約されうる。このため、当該制約が憲法13条に違反するとはいえない。

憲法14条・平等権

憲法14条1項は、すべての国民は「法の下に平等」であることを保障する。ここで問題となるのは、暴力団員であることを理由に特定の住民に対して差別的な扱いをすることが平等権に反しないかである。

判例は、合理的な区別が存在する場合、差別的取り扱いは違憲ではないとしている。暴力団員は犯罪行為に関与する危険性が高く、市営住宅という公共の場所において他の住民に対する脅威を排除する目的は合理的である。したがって、暴力団員に対する特別な取り扱いは合理的区別に該当し、平等権に反しないと考えられる。

憲法29条・財産権の保障

憲法29条1項は、「財産権は、これを侵してはならない」と規定しているが、2項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法律でこれを定める」としており、財産権も公共の福祉による制約を受ける。

市営住宅は公共の財産であり、その利用権も個人の財産権と同様の保障を受けるべきと考えられる。しかし、条例が財産権を侵害しているかどうかは、正当な公共の福祉による制約か否かが基準となる。暴力団排除の目的は他の住民の安全を確保するためのものであり、公共の福祉に基づく正当な制約と考えられるため、憲法29条に違反しないといえる。

判例の判断(最判平成27・3・27)

最高裁判所は、暴力団排除条項について、公共の福祉に基づく正当な目的を持つものであり、合憲であると判断した。具体的には、暴力団員が市営住宅に住むことで他の住民に対する脅威をもたらす恐れがあり、社会秩序の維持のために必要な措置であることが確認された。

結論

本件では、暴力団員であることを理由とする市営住宅からの退去命令は、憲法13条、14条、29条に反するものではなく、合憲であると考えられる。最高裁の判決も同様に、暴力団排除条項の合憲性を認め、他の住民の安全を守るために必要な措置であると判断している。

比較すべき判例

・最判平成14年7月9日(名古屋市営住宅暴力団員排除事件)
この判例では、暴力団員が市営住宅に居住することにより、他の住民の平穏な生活が侵害される危険性があると判断され、暴力団員排除条項の合憲性が認められている。