教室2024 07 【論点】 憲法14条1項 

 

「法の下の平等」に関する審査の大枠について説明します。

1. 審査の枠組み

憲法14条1項は「法の下の平等」を保障しており、これは国家が法的制度や措置を設ける際に、合理的理由のない差別的取り扱いを禁止するものです。この規定に基づいて、性別や年齢、社会的身分等に基づく差別が合理的であるか否かが審査されます。

憲法14条に基づく平等権の審査には次の2つの大枠があります。

(1) 違憲審査基準

裁判所は、差別的取扱いが「合理的な区別」に基づいているか否かを判断するために、違憲審査基準を適用します。違憲審査基準は、差別の内容やその影響範囲によって異なり、以下の3つが代表的です。

  1. 厳格な審査基準
     人種や信条、性別などの本質的に差別を容認できない事由による区別については、最も厳格な基準が適用されます。国家がこのような区別を設けるためには、「差別が強い必要性に基づくもので、手段としても必要最小限であること」を立証しなければなりません。

  2. 中間的審査基準
     社会的身分や国籍などの事由による区別については、中間的審査基準が適用されます。国家は「差別が重要な目的に基づくものであり、その手段も目的に適合していること」を立証する必要があります。

  3. 合理的関連性の基準(緩やかな基準)
     経済的状況や年齢などに基づく区別については、緩やかな審査基準が適用されます。国家がこのような区別を設けるためには、「差別が正当な目的に基づくものであり、その手段が合理的であること」を示す必要があります。

2. 遺族年金における性別による取扱いの評価

本件で問題となるのは、遺族年金において夫にのみ年齢要件が課されるなど、性別に基づく異なる取扱いが憲法14条に反するかどうかという点です。

年金制度は、社会保障制度の一環として、公的な金銭給付を行う制度であり、老齢、障害、死亡などに対する重要な所得保障手段として機能します 。この中で、遺族年金制度は主たる家計維持者の死亡によって生じる生活困難を防ぐ役割を果たしてきましたが、性別に基づく異なる取扱いが存在することも指摘されています。

例えば、夫にのみ年齢要件を課す遺族厚生年金や、妻にしか支給されない寡婦年金など、夫を不利に扱う制度が存在しています。このような性別による取扱いについては、憲法14条1項に基づいて審査されるべきです。

3. 具体的な判例の検討

最高裁判所の判例(最判平成29年3月21日)では、地方公務員災害補償法に基づく遺族補償年金の年齢要件が、憲法14条1項に違反しないとされています。この判決では、性別による取扱いが経済的自立の有無や社会通念に基づくものであり、その区別が合理的であると認められました。

同様に、労働者災害補償保険法における年齢要件も、性別による差別が合理的な区別として認められる可能性が高いと考えられます。

結論

公的年金制度において、性別に基づく異なる取扱いが存在する場合でも、その区別が合理的な目的と手段に基づいていれば、憲法14条1項に反しないと判断される可能性があります。Xが訴訟で争う場合、性別による年齢要件が合理的な理由に基づくものであるか否かを焦点に、過去の判例に基づいた主張を行うことが求められます。

 

ーー

 

憲法14条1項における「法の下の平等」原則に関する別異の取扱いについて、以下のように大枠を説明します。

1. 憲法14条1項の平等原則の適合性審査の枠組み

「法の下の平等」に関する審査は、一般に以下の二段階で行われます。

(1) 別異の取扱いが存在するか

まず、何が何と比較されて不利な取扱いをされているのかを判断します。具体的には、ある集団が他の集団と比較して不利に扱われている場合、それが「別異の取扱い」に該当するかどうかが審査されます。

設問のケースでは、夫と妻を比較して、夫にのみ年齢要件が課されていることが「別異の取扱い」に該当すると考えられます。すなわち、夫が妻と比較して不利に扱われている状況が問題となります。

(2) 別異の取扱いの正当化

次に、その別異の取扱いが正当化されるかどうかを判断します。この際、学説と判例の間で見解に隔たりがあります。

  • 学説の見解:学説においては、憲法14条1項後段の列挙事由(例:性別、人種、宗教など)による別異の取扱いは原則的に不合理とされ、厳格な審査が要求されます。この厳格な審査は、精神的自由や選挙権といった重要な権利に関わる場合にも適用されることが有力な見解とされています【芦部信喜『憲法〔第8版〕』】。

  • 判例の見解:一方で、最高裁判所は、列挙事由に基づく区別かどうかに応じて審査の厳格度を決定するのではなく、**「事柄の性質」**に基づいて合理性が認められる限り別異の取扱いを許容する立場を採っています【待命処分事件(最大判昭和39.5.27)】。具体的には、区別の目的と手段の合理性を慎重に審査し、事案ごとに合理的根拠があるかどうかを検討しています。

2. 審査基準の厳格さと裁判例の検討

判例においては、以下のようなアプローチが見られます。

  • 厳格な審査が適用される場合:国籍法事件【最大判平成20・6・4】や非嫡出子相続分規定事件【最大決平成25・9・4】など、平等権が強く制約される場合、目的と手段の審査が慎重に行われ、違憲と判断されることがあります。

  • 緩やかな審査が適用される場合:一方、目的と手段を切り離して区別の合理性を審査する事例も存在します。例えば、東京都管理職試験選考事件【最大判平成17・1・26】では、区別の目的が国民と外国人を区別すること自体であるため、区別の合理性が端的に認められました。

また、学生無年金訴訟【最判平成19・9・28】では、障害基礎年金の受給を拒否された事案において、特定の目的が明確ではないとして、区別の合理性が否定されました。

3. 結論

憲法14条1項に基づく平等原則に対する審査は、事案の性質や対象となる権利の重要性に応じて異なる基準が適用されます。具体的には、別異の取扱いが合理的な目的に基づくものであるか、またその手段が適切かどうかが重要な検討ポイントとなります。