差止訴訟か義務付け訴訟の訴訟要件+本案勝訴要件
差止訴訟と義務付け訴訟は、いずれも行政事件訴訟において、特定の行政行為を予防・回避したり、特定の行政行為を行うよう求めたりするための手段として用いられる訴訟類型です。これらの訴訟の要件について説明します。
1. 差止訴訟
差止訴訟は、行政庁が将来において行おうとしている処分や、継続して行っている行政行為が違法であるため、その行為の差止めを求める訴訟です。
訴訟要件(訴えの利益)
差止訴訟における訴訟要件は次のとおりです。
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重大な損害が生じるおそれ
原告にとって、重大な損害が発生するおそれがあることが要件となります。この「重大な損害」とは、金銭的な損害だけでなく、健康や生活環境など広範な利益が含まれます。 -
損害の回復が困難
差止訴訟は、将来の損害を予防するものであるため、仮にその損害が生じた場合、事後的な損害賠償などによって回復が困難であることが求められます。 -
法律上の利益
差止訴訟では、原告が差止めを求める行政行為によって、法的に保護される利益が侵害される可能性があることが必要です。 -
処分がなされる蓋然性
行政庁が具体的に処分や行為を行うことが確実であること、または継続して行っていることが要件となります。単なる可能性ではなく、処分が現実的に行われる蓋然性が求められます。
本案勝訴要件
差止訴訟の本案で勝訴するための要件は次のとおりです。
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処分または行為の違法性
行政庁が行おうとしている処分や、継続中の行政行為が違法であることが認められる必要があります。 -
重大な損害の発生の蓋然性
差止めが求められるためには、その処分や行為によって重大な損害が発生する蓋然性が認められなければなりません。 -
回復困難性
損害が生じた場合に、金銭賠償や他の救済手段で回復することが事実上困難であることが求められます。
2. 義務付け訴訟
義務付け訴訟は、行政庁が特定の処分や行政行為を行う義務があるにもかかわらず、それを行わない場合に、処分を行うことを義務付けることを求める訴訟です。
訴訟要件(訴えの利益)
義務付け訴訟における訴訟要件は次のとおりです。
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法令に基づく義務の存在
行政庁が行うべき処分や行為について、法律や政令などの規定によって義務が認められていることが必要です。具体的には、法令上、一定の条件が満たされれば、行政庁が処分を行う義務がある場合が該当します。 -
申請と不作為または拒否
原告が行政庁に対して特定の処分を申請しているにもかかわらず、行政庁がその申請に対して適切な対応を行わない、すなわち不作為が続いている場合、または申請を拒否している場合が要件となります。 -
法律上の利益
義務付け訴訟においても、原告の法律上の利益が侵害されるか、もしくは侵害されるおそれがあることが求められます。 -
重大な損害と回復困難性
義務付けられるべき処分が行われないことで、原告に重大な損害が生じる蓋然性があり、その損害が事後的に回復困難であることが必要です。
本案勝訴要件
義務付け訴訟の本案で勝訴するための要件は次のとおりです。
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義務の存在
行政庁が原告の申請に基づいて処分を行う義務があることが認められる必要があります。この場合、法令上の根拠や裁量権の行使が問われます。 -
処分がなされていないことの違法性
行政庁が行うべき処分を行わないことが違法であること、または不当であることが認められる必要があります。 -
申請と処分の適法性
原告の申請自体が法令に適合しており、行政庁がその申請に基づいて処分を行う義務を負うことが必要です。
判例
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最判平成17年12月7日判決(成田空港農地差止事件)
- 差止訴訟に関する代表的な判例で、成田空港拡張工事に対して農地所有者が差止を求めた事件。農地所有者の生活が侵害される可能性があるとして、差止訴訟の適格が認められた事例です。
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最判平成18年4月17日判決(厚生年金保険料の納付義務付け)
- 義務付け訴訟に関する判例で、厚生年金保険料の納付義務が行政庁によって怠られた場合、行政庁にその義務を履行するように求めることができると判断された事例です。