法学者イブン・ルシュド・アル=ジャッド(またはアヴェロエス)は、12世紀のイスラム世界で活躍したアラビア語の哲学者、法学者、医師です。彼はコルドバ出身のムスリムであり、特にアリストテレスの哲学をイスラーム世界に紹介し、その理論をイスラム法や哲学に応用したことで知られています。

イブン・ルシュドは法学においても重要な貢献をし、特にマーリク派の法学における見解を整理・解釈しました。彼の法学的業績の中で有名なのが、ムスリムがズィンミー(非ムスリムの保護者)のために働くことをめぐる契約に関する分類とその効力についての論考です。彼はこの問題について、以下のような4つの契約形態を議論しました:

  1. 独立被用者(ajir mushtarik): この契約形態では、ムスリムがズィンミーからの指図を受けて労働を提供する場合、契約は有効と見なされます。

  2. 匿名組合の営業者や果樹栽培契約の小作人のような契約: この契約形態では、出資者や地主としてのズィンミーのために労働を行うが、その指図を受けることなく自律的に行う場合、契約は忌避されますが有効であるとされました。

  3. 家事労働契約: ズィンミーの家事労働を提供する契約や、ズィンミーの子供の乳母として雇用される契約は禁止されています。ただし、契約が解除されるまでに提供した労働に対する賃金は受け取ることができ、保持することが認められています。

  4. 特定の禁止された労働を目的とする契約: 例えば、酒の製造や豚の監督などを目的とする雇用契約は禁止されています。しかし、契約が解除される前に提供した労働に対する賃金は受け取れますが、その賃金は貧困者のために施し(サダカ)として提供しなければなりません。

これらの契約形態に関するイブン・ルシュドの見解は、その後のイスラム法学の発展において重要な基盤となりました。