「Rule of Law(法の支配)」とは、法律が支配する社会的秩序を指します。これは、法律が全ての人々、政府、そして社会機関に対して平等に適用され、誰もが法律に従う必要があるという原則を示しています。

イスラーム法、またはシャリア法は、イスラーム教徒にとっての法律であり、その根拠はクルアーンや預言者ムハンマドの教えに基づいています。イスラーム法は、宗教的な行動、道徳的な原則、そして社会的な義務を定めています。

イスラーム法と「Rule of Law」の間には、様々な関係性が存在します。一部のイスラーム法学者は、イスラーム法が「Rule of Law」の理念に準拠していると主張しています。彼らは、シャリア法が平等で公正な法律を定め、人々が法律に従うことを奨励することを指摘しています。

 

例えば、イスラーム法学者の中には、現代の社会においてもシャリア法が適用されるべきであり、その適用にあたっては「Rule of Law」の原則に従う必要があると主張する者がいます。彼らの中には、タンジーム・ブッタール、ムハンマド・アブドゥー、ハサン・アル・ターバン、ユスフ・アル・カルダーウィーなどがいます。ただし、イスラーム法学者の中でも、「Rule of Law」とシャリア法の関係については、多様な見解が存在するため、全員が同じ意見を持っているわけではありません。

 

しかしながら、イスラーム法が「Rule of Law」の原則に従っているかどうかについては、論争があります。一部の批評家は、イスラーム法が宗教的な権威や文化的な慣習に基づいて、時には個人的な解釈に基づいて適用されることがあるため、「Rule of Law」の理念に完全に従うことはできないと主張しています。

要するに、イスラーム法は「Rule of Law」とは異なる法律の枠組みであり、その適用方法には異論があるということです。

 

タンジーム・ブッタール(Tan Sri Dato' Seri Ahmad Fairuz Abdul Halim)は、マレーシア出身の法学者で、元最高裁判所長官です。彼は、シャリア法を含むマレーシアの複数の法律に関する多数の判決を下し、イスラーム法と「Rule of Law」の関係についての見解を表明しています。彼は、シャリア法は公正で平等な原則に基づいていると主張し、「Rule of Law」とシャリア法の関係は矛盾していないと述べています。また、彼は、シャリア法が政治的な意図や目的を持っているわけではなく、単に人々が道徳的な生活を送るための指南書であると考えています。しかし、彼の見解は、マレーシアの一部の法学者や市民から批判を受けています。

 

ムハンマド・アブドゥー(Muhammad Abduh)は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したエジプトの法学者、宗教改革者でした。彼は、イスラーム法を近代的な文脈で解釈し、イスラム教と現代の価値観との調和を模索しました。彼は、「Rule of Law」の原則に従う必要があると主張し、シャリア法は公正で平等な原則に基づいていると述べています。また、彼は、シャリア法を理解するためには、当時の社会的、政治的な文脈を理解することが必要であると考えていました。ムハンマド・アブドゥーの見解は、現代のイスラーム法学に大きな影響を与え、今日の多くのイスラーム法学者が彼の考え方を引用しています。

 

ハサン・アル・ターバン(Hasan al-Turabi)は、20世紀後半にスーダンで活躍した法学者、政治家でした。彼は、イスラーム法を現代的な文脈で解釈し、イスラーム主義の理論家の一人として知られています。彼は、イスラーム法が「Rule of Law」の原則に従う必要があると主張し、政府や社会が公正で平等な法の下で運営されるべきだと考えていました。しかし、彼の見解は一部の人々から批判を受けており、政治的な思惑が彼の見解に影響を与えているとの指摘もあります。

 

ユスフ・アル・カルダーウィー(Yusuf al-Qaradawi)は、現代のイスラーム法学者であり、カタール在住の神学者です。彼は、「Rule of Law」の原則に従う必要があると主張し、シャリア法が公正で平等な原則に基づいていると考えています。彼は、多くの著書を執筆し、テレビ番組に出演するなど、イスラム教徒の中で非常に影響力がある人物です。しかし、彼の一部の見解は、人権やジェンダー平等に関する問題について議論があるため、批判を受けています。

 

ムハンマド・アブドゥーに関する文献としては、以下のようなものがあります。

  • "The Theology of Unity" by Muhammad Abduh, translated by Ishaq Musa'ad and Kenneth Cragg (London: Allen & Unwin, 1966).
  • "Islam, the West, and the Challenges of Modernity" by Muhammad Abduh, translated by Charles Kurzman (Indianapolis: American Trust Publications, 1983).
  • "Theology of Unity" by Muhammad Abduh, translated by Aisha Bewley (London: Ta-Ha Publishers Ltd., 2008).
  • "Muhammad Abduh" by John Voll, Oxford Islamic Studies Online (accessed May 5, 2023).
  • "Muhammad Abduh and the Egyptian Reform Movement" by Israel Gershoni and James P. Jankowski (Syracuse, NY: Syracuse University Press, 1994).

タンジーム・ブッタールに関する文献としては、以下のようなものがあります。

  • "Ahmad Fairuz Abdul Halim: The Law and Justice Chief" by Joceline Tan, The Star (Malaysia), December 19, 2004.
  • "The Rule of Law in Malaysia: Reality or Rhetoric?" by Andrew Harding, Asian Journal of Comparative Law, Vol. 6, No. 1, Article 1 (2011).
  • "Malaysia: 'Rule of Law' under Siege" by Amnesty International, ASA 28/003/2007, November 2007.
  • "Malaysia: The Rule of Law and the Legitimacy of the Government" by P. Ramasamy, Aliran Monthly, Vol. 25, No. 5 (2005).
  • "Malaysia's Chief Justice and the Rule of Law" by Steven Gan, Asia Times Online, November 12, 2003.