海外駐在員のメンタルヘルス その3「労働安全衛生法と安全配慮義務」
・健康管理に関する公法的規制
労働安全衛生法は、
「労働者の安全及び衛生に関して労働安全衛生法の定めるところによる」(労働基準法42条)という規定を受けて、1972年に制定されました。
労働安全衛生法の目的:「職場における労働者の安全と健康を確保する」(最低の労働条件基準を定めている)
労働安全衛生法は取り締まり法規であり、これに反した場合は一定の範囲で刑事罰の対象になります。
・健康管理に関する私法的規制
事業者は労働安全衛生法を遵守していても、安全配慮義務に違反すると民事上の損害賠償責任を問われることもある。
安全配慮義務に違反した場合の損害賠償責任
不幸行為責任:不法行為による損害賠償(民法709条)
契約責任:債務履行者による損害賠償(民法415条)
従来は「不法行為責任」による損害賠償が問われてきましたが、1975年の最高裁判決以降、「安全配慮義務」という概念が認められるようになり、「契約責任」による損害賠償を問われるケースも増えています。
安全配慮義務は、実定法(社会に現実に行われている法)ではなく、裁判例の積み重ねにより認められてきましたが、2008年施行の労働契約法で明文化されました。
安全配慮義務:労働者の安全への配慮(労働契約法5条)
- 健康管理に関する日本の法律 海外赴任者の健康管理については、派遣元企業に安全配慮義務があり、派遣元企業が責任 を持って体制を整備し実践すべきである。 海外赴任者の健康管理に関する日本の法律としては、6 カ月以上の海外派遣前・後の健康 診断実施を定めた「労働安全衛生規則」(第45条の2)等が挙げられる。これら法規 は企業としての必要最低限の対応を定めたものであり、実際には各企業が産業保健スタッ フと検討を重ね、より適切な健康管理体制を構築することが求められている。
・安全配慮義務の履行者
雇用契約の当事者は事業者ですので、安全配慮義務は事業者が負います。また実際に安全配慮義務を履行するのは業務上の指揮命令を行う権限を有する管理監督者です。日常から従業員に接しており、健康状態を把握し、作業の内容・量を調整する立場にある管理監督者の役割は重要です。
【海外勤務者に関する安全配慮義務の取り組み】
- 労災保険の海外派遣者の特別加入、海外駐在員保険の加入
- 赴任前研修・予防接種・海外派遣前後の健康診断・定期健康診断
- 危機管理体制の整備(緊急時の連絡ルートの確保など)
- 長時間過重労働の抑止(年次有給休暇取得の促進、本社による勤怠管理等)
- メンタルヘルス不全の予防(産業医・保健師による面接等)
了