黒人が白人の所有物となり、人間でありながら人間としての尊厳や人権を無視されたような生活を強いられる。
今では誰しもが知っている奴隷制度。
この著者は無名であり、世に知れ渡るきっかけというのも複雑な経緯がある。
一度は小説として誤認されて出版されていたために、人々から忘れ去らされていた。
しかし126年後、実話として証明されてベストセラーとなった。
また日本語訳として出版される経緯も、また不思議だ。
訳者の堀越ゆきさんは、たまたま新幹線の中で、久しぶりにkindleで読もうとした『ジェーン・エアー』の並びに、この著書があった。
『ジェーン・エアー』と同年代に出版されたこの著書に関心を持ち、読み進めた結果、日本でも出版したいと思ったそうだ。
アメリカの奴隷制度は、学校で習った程度で詳しくはない。
人を肌の色で差別されるというのは、今でもないとは言えない。
この本では、白人=悪、黒人=良、とは表現していない。
白人でも黒人に対して善良な人はいて、逆に同じ黒人なのに黒人に対して悪態をつくひともいる。どんなに善良な人でも、環境によって善にも悪にもなりうることを描いていて、単なる黒人奴隷制度の経験談としてだけではないことが書かれている。
著者は、ハリエット・アン・ジェイコブズであるが、こちらはペンネームで、実際の著書ないでは、リンダ・ブレンドというらしい。
リンダやその家族が受けた人種差別は、想像できるものもあるのだが、実際の出来事として我が身に起こると、それは耐えがたい苦痛である。
人種差別というのは完全になくなったとは言えない。
私も、若いころ、アイルランドに行った時、船の中で空いている席に座ろうとしたら
「私の隣には座らないで」
と白人の中年女性に言われたことがある。
連れの別の女性から、彼女は白人以外にはそのような態度はとるのだと教えられ、その連れの女性の隣に座らせてくれた。
自分の知人が、白人以外の人一緒に座ったり話したりするのは嫌ではないのだろうか。
不思議な体験でもあった。
ドイツでも
「ニイハオ」
と言って笑って写真を撮ってくる小学生がいた。
あれは明らかに差別的な態度だった。
人種差別もいじめも、残念ではあるが人が生きている限り決して消滅することはないだろう。
だが、善悪の判断は誰でもできること。
何が不快で快なのかも、考えてみればわかること。
戦争もそうだが、人間は追いつめられると善にも悪にもなる。
でもどんな時でも、希望と愛と感謝を忘れずにいること、人生を変える行動力の裏には、必ず誰かの助けがあるということ。
誰かを純粋に想って寄り添う人には、同じように寄り添ってくれる人もいるのだということをリンダの人生は教えてくれる。
難しい話ではあるが、『赤毛のアン』や『若草物語』のように、小中学生向けの海外小説を読み始める年代に、この本に出会っていたら、私はどんな感想を持ったのだろうか。
あの頃に出会いたいと思った本だった。
