もう劇場版クレヨンしんちゃんに切り替わっている劇場も多数なのでネタバレしても大丈夫でしょう。

先月の話になりますが「映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」を観てきました。

 

 

取り急ぎざっとした感想をツイートしたところ、思いがけずTogetterにまとめられ、さらに思いがけないことにバズった挙句某悪名高いまとめサイトに転載されるなんてハプニングもありました。

 

昨年より謎めいたトレーラー動画からなんとなく「ドラえもん版狂気山脈(狂気の山脈にて)では?」と予想していましたが…

 

 

 

来年のドラえもん映画の元ネタは絶対「狂気山脈」だと今から期待が止まらない件

 

結論から言うと

予想的中

 

ちょっとラヴクラフトっぽい雰囲気を漂わせているレベルではありません。明らかに元ネタです。南極の地下に眠る旧支配者の古代遺跡、巨大なタコのような怪物、古代の遺物を拾った日から不穏な夢、不吉なペンギンの姿をした何にでも化けられる怪物、幸運の五芒星、氷雪をまき散らす巨躯の怪物…確信犯だろ。こう言うとさぞ禍々しいSAN値直葬映画ではないかと思うかもしれませんが、本作の上手い点は、それらのラヴクラフト要素が見事にF先生健在時の作風の再現にもなっているうえに見事に伏線を回収して危機を乗り越え、ハッピーエンドでしめくくり、安心して見られる子供向け映画として成立させていることです。ラヴクラフトにドラえもんを混ぜるなんてまさに狂気の沙汰ですが、結果的にF先生っぽさの再現に成功しているってどんな奇跡でしょうか。

 

■学習コンテンツとしてのドラえもん
だいたいF先生健在時の大長編ドラえもんには、月刊ムー的オカルト要素や精神の根元に訴えかける恐怖演出が仕込まれているものでした。アフリカの奥地に前人未踏の秘境がある(大魔境)、バミューダトライアングルにアトランティス大陸にムー大陸(海底鬼岩城)、地底に恐竜人が住んでいる(竜の騎士)、宇宙、パラレルワールドと、月刊ムーに掲載されがちな眉唾オカルトがベースになっているストーリーがやたらと多いのです。「魔界大冒険」の石になったドラえもんとのび太、「パラレル西遊記」の怪物になったママ、「日本誕生」のバラバラになっても蘇るツチダマがトラウマになったドラえもんファンも多いのではないでしょうか。しかしF先生はそんなオカルト&ホラー要素をブチ込む一方、それらと絡め化学、生物学、地理学、物理学、歴史、考古学などを子供にも分かりやすく説明し知的好奇心を喚起する仕掛けもふんだんに盛り込んでいました。例えるなら「科学と学習」と月刊ムーをどちらも出版していた学研のようなものです。科学と学習は廃刊しましたが。

本作におけるそれは、「南極」およびその地下に眠る「古代都市」です。古代都市は禍々しいほど雑多で恐怖を煽るデザインのように見えますが、よ~く見ると彫刻や石積みがアステカ・マヤ・アンデスといった南米の文明の様式を元にしたデザインであることが分かります。後述しますが、この古代都市は遥か古代に宇宙より飛来した「古代ヒョーガヒョーガ人」が築いたもので、ドラえもん達がいる時間軸から10万年前には既に無人となり正体不明の怪物のみが跋扈する廃墟になっているのですが(その理由は最後まで明らかにされない)、ここから「南極を放棄して南米大陸に移住した古代ヒョーガヒョーガ人が南米の文明の礎になった」と想像することもできるわけです。もう深読みがはかどって仕方がない!また、氷山がいかにして形成されるか?スノーボールアース(全球凍結)仮説とは何か?○○光年って何?といった「子供にはちょっと難しいかな?」と思われる科学的知識もドラえもんやゲストキャラの口からサラリと説明させます。そう、もともとF先生健在時のドラえもんはこんな「子供に手心を加えない」作品だったのです。子供には難し過ぎるかもしれない、子供には怖過ぎるかもしれない、といった要素を敢えて情け容赦なくブチ込み、子供の心に何かを残すという。例えその時はイマイチ理解できなくても、観た後に親と一緒に「あれは何?」と話し合うことで確かな知識になるかもしれないし、もし親も分からなかったとしても、成長して本を読んだり勉強して知識・教養を身に着けた後「あれの元ネタってこれか!」と気付き、大きくなった後もさらに楽しめるかもしれない。そうした「一生付き合える作品」としての魅力がドラえもんにはあるのです。なお、本作に関しては「初めてラヴクラフト作品に触れたのはドラえもんでした」という子供を大量生成しているわけで、かなり罪深い作品と言えます。

 

■ブロマンスとしてのドラえもん

ツイートした通り、本作は「ラブストーリー&ハッピーエンドの綺麗な狂気山脈」で感動やメッセージも抑え、全編壮大な冒険が楽しめる娯楽作品です。誰と誰のラブストーリーかって?そりゃもちろんドラえもんとのび太に決まってます。ドラのびの絆は2013年のオリジナル映画「ひみつ道具博物館」でも描かれましたが、「ひみつ道具〜」は「楽しい博物館での謎解き話と見せかけて実はドラえもんとのび太のブロマンス」でほのぼのしていたのに対し、本作は旧支配者が築いた禍々しい古代都市の中で変な怪物に追いかけ回されSAN値を削られながらブロマンスなので緊迫感が違います。

 

 

でもご安心下さい。今回は作画が非常に綺麗で、ドラえもん達もモフモフむちむちして超絶キュートなので削られたSAN値の分は”かわいい”で取り戻せます。

F先生健在時の大長編ドラえもんでは、冒険感とのび太の成長譚を際立だせるためか「ドラえもんの無力化」が行われます。何かのアクシデントでポケット(もしくは主要な道具)が使えない、ドラえもんとのび太が引き離された、ドラえもんの道具を以ってしても勝てない敵や解決できない問題がある、ドラえもん自体が壊れた、など。この時ドラえもんは保護者から被保護者の立場となり、逆にのび太は被保護者から保護者となってドラえもんを助けます。言わば大長編ドラえもんに於ける真のヒロインはドラえもん、対するのび太は王子様です。本作ではドラえもんは何時にも増して初期不良のポンコツぶりを発揮し、保護者というより「一緒にバカをやるドジな悪友」的キャラです。うっかり道具を忘れ、些細なことも思い出せず、重要なところで役に立たず、そのせいで中盤とラストに全員死亡の危機に陥ります。まあクトゥルフやニャルラトホテプやイタカを相手にしてるのだからポケット使い放題でもどうにもならないのは仕方ありませんが、そんな絶対絶命の状況をのび太が打破しドラえもんやみんなを助けます。ドラえもんのポンコツっぷりとラヴクラフト要素を掛け合わせたらのびドラブロマンスになったってどんな掛け算でしょうか。

 

後編に続く

 

※アメブロに「半角4000字まで」なんてクソな投稿制限があると今知りました。長文書かせろよ!