前編からの続き)

 

※ここから超ネタバレ

 

■ラスボスがまんま巨神兵でデイダラボッチな件

既に多くの方が指摘していることですが、本作はかなりジブリっぽい作風でもあります。それを顕著にしているのはゲストキャラ「カーラ」と「ヒャッコイ博士」をはじめとする「ヒョーガヒョーガ人」およびラスボス「ブリザーガ」の設定です。遥か昔、古代ヒョーガヒョーガ人はあちこちの惑星に植民都市を築くほど高度な文明を持っていましたが、なぜかその文明は滅び、現代ヒョーガヒョーガ人(といってもドラえもんの時間軸からは10万年前)にその技は全く伝わっていません。そこで現代ヒョーガヒョーガ人は母星のヒョーガヒョーガ星を拠点にかつて先祖が築いた文明の遺跡を発掘調査することによって技術を発展させてきました。ところがある日、地下に眠っていた旧文明の遺物「ブリザーガ」をうっかり掘り出して起こしてしまい、そのせいで母星のヒョーガヒョーガ星すら人の住めない場所になってしまいました…ってこれ、原作版「風の谷のナウシカ」ですよね。

ブリザーガは氷雪を吐き出すイタカ的怪物ですが、本来はテラフォーミング用の人工生物(?)で、古代ヒョーガヒョーガ人は人が住めそうな惑星を見付けてはそれを使って人為的に全球凍結とそれに続く進化爆発を起こしていました。巨神兵が火の七日間ならこっちは氷の七日間です。となるとナウシカの腐海に相当するのは氷で、カーラとヒャッコイ博士はナウシカとユパ様ということになるでしょうか。

 

 

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ヒャッコイ博士の愛用ガジェットがスチームパンクデザインなのもツボ。
 
おそらく、あからさまにジブリに寄せたのも製作陣の”狙い”ではないかと思われます。原作版の巨神兵は、人間が作ったものなのに制御不能に陥りしっぺ返しが全て人間に戻ってくるという「人間の業」のメタファーです。ブリザーガも、本来は惑星をテラフォーミングし住みやすい場所にする存在のはずなのに暴走してヒョーガヒョーガ星を全球凍結させ、現代ヒョーガヒョーガ人たちは散り散りに惑星外へ避難せざるを得なくなります。カーラとヒャッコイ博士は故郷を元に戻すため、ブリザーガを制御する失われた技術を求めて古代ヒョーガヒョーガ人の植民都市を調査している研究者ですが、その調査の過程でまたもやうっかり南極に眠るブリザーガを起こしてしまいます。予想外のアクシデントで何かが制御不能になり、そのせいで故郷を失うという描写を今やることが何を意味するかは、もはや言わずもがなでしょう。しかし本作はメッセージを全面に押し出そうと思えばできるのに敢えてそれをしていません。せいぜい「分かる大人が分かればいい」程度。そして「分かる大人」が引っかかるもう一つのジブリ的要素がブリザーガのデザインです。
 
モンストのスクリーンショットです。
 
半透明の体に模様ってこれ「もののけ姫」の「デイダラボッチ(シシ神)」ですよね。まあデイダラボッチも巨神兵から派生したキャラだという話をジブリの関連書籍で読んだことがあるので、結局全ての元ネタは巨神兵ということになりますが、デイダラボッチが「命を奪いもし与えもする自然」のメタファーであったことを考えるとこのキャラデザインにも合点がいきます。というのも、ブリザーガが引き起こす全球凍結という現象こそが「命を奪いもし与えもする」ものだからです。惑星全体が凍結すれば当然原生生物は大絶滅しますが、それでも全ての生物が死に絶えるわけではなく、生き延びた生物は氷が解けた後に爆発的適応拡散を起こします(詳しくはWikipediaあたりを見て下さい)。つまりブリザーガは巨神兵が象徴する「人間の業」とデイダラボッチが象徴する「命を奪いもし与えもする自然」の双方を併せ持つキャラとも解釈できます。そうなると今度はゴジラとキャラが被ってしまうのですが、皮肉なことにラストが「シン・ゴジラ」に似ているのです。制作期間を考えるとおそらく偶然だと思うのですが、厄災をふり撒く存在を殺して排除するのではなく「なだめて封じる」作品が続くって何かの因縁ですかね?
 
■教訓話としてのドラえもん
前述のとおり本作は冒険を全面に押し出し感動やメッセージを抑えていますが、それでも何かしらのメッセージを見出すとすれば、それは「人間は良くも悪くも懲りない」ということです。ヒョーガヒョーガ人は文明を滅ぼし、うっかり故郷を凍結させ、さらにうっかり他所の惑星をも危機に陥れたりと懲りずに何度もどえらい失敗をやらかします。それでも生き延び、明確には描かれませんがカーラとヒャッコイ博士がヒョーガヒョーガ星を蘇らせたことがラストで示唆されます。こうした「懲りずに何度も失敗するけれどもやはり懲りずにまた立ち上がる」のはオリジナルのドラえもんおよびF先生の作品全般に流れる不変のテーマです。それを最も明確に表しているのがてんとう虫コミックスドラえもんプラス5巻に収録されている名作「45年後…」です。
 
45年後から現在にやってきた中年のび太は、子供ののび太にこんな言葉を贈ります。このテーマを盛り込んだことも、本作をF先生健在時の作風にしている要因の一つだと思います。
 

 

私としては本作はわさドラのオリジナル映画では最高傑作だと思いますが、おそらく観客を選ぶ異色作でしょう。ラヴクラフト作品に親しんでいる人なら、劇中の「?」なところを予備知識で補完するとバッチリ理解できますが、そうでない人にとっては妙に不気味で不穏な世界観や演出が目に付き、「ドラえもんだけどドラえもんじゃない」違和感を感じてしまうかもしれません。ということで、本作をイマイチ楽しめなかった人は是非ラヴクラフトの作品を読んでから改めて観てみて下さい。きっと新たな発見があるでしょう。

ところで、ドラえもん達はラストでブリザーガを封印できましたが、それは数あるブリザーガの骨格のうちカーラが起動させてしまった1体のみで、他の骨格は手付かずでまだ残ったままだし、他の怪物達も氷河に閉じ込められているだけでまだ南極の地下にいるんですよね。ということは、もし他の誰かが遺跡を見つけたら、そこからいつでも「狂気の山脈にて」ができるということに…

 

■元ネタ集

最後に本作の元ネタになったと思しき作品を挙げておきます。

 

「クトゥルフの呼び声」

「南極カチコチ大冒険」は下の「狂気の山脈にて」以外のラヴクラフト要素もあるのでできれば全作品読んで欲しいのですが、まずは「クトゥルフの呼び声」を読めばラブクラフトの作品およびクトゥルフ神話がどんな感じか分かると思います。

 

「狂気の山脈にて」

 

コミカライズ版も面白いです。

 

「時間からの影」

古代と現代を行ったり来たりしてそれが伏線となるのが「時間からの影」っぽいと思いました。

 

「遊星からの物体X」

「10万年」と「どっちが本物でどっちが偽物だ!」と皆が疑心暗鬼に陥る演出の元ネタは多分これ。他にもヒャッコイ博士が集めている玩具の頭が光るなどオマージュと思しきシーンもありました。またこれ自体「狂気の山脈にて」が原作と言われています。

 

「風の谷のナウシカ(原作コミック版)

「封印が解かれると蘇える」「一見化石のようみ見える骨格に徐々に肉がついて動けるようになる」「口からヤバいものを吐く」「羽が生えて空間を歪めて空を飛べる」というブリザーガの設定がそのまま原作版の巨神兵。

 

「もののけ姫」

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「体が半透明で模様がある」「首が伸びる」というブリザーガの設定がそのままデイダラボッチ。

 

「ジャングル黒べえ」

「南極カチコチ大冒険」のマスコット的キャラクターの「パオパオ」はもとは「ジャングル黒べえ」に登場するキャラクターで、のちに「宇宙開拓使」のキャラクターとして登場しました。またカーラとヒャッコイ博士が着ていたサバイバルスーツは黒べえをモチーフにしたデザインでした。

 

「ドラえもん のび太の宇宙開拓使」

ヒョーガヒョーガ星という安直過ぎるネーミングの元になっているのは「宇宙開拓使」の舞台である「コーヤコーヤ星」と「トカイトカイ星」。

 

「2112年ドラえもん誕生」

のび太が仲良くなるパオパオ「モフスケ」の元ネタが実はドラえもんの新旧の姿。

 

・おまけ

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大人なのにパンフレット購入

 

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もらったおまけのパオパオは紫でした。

 

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イオンのTOHOシネマズで観ましたが隣接するゲーセンがドラえもんだらけでした。