mad dog -final- 1
その頃の俺は相変わらず仕事は程々に食って行ければ良い程度に
時間の許す限りサラの店で過ごしていた
年齢的にもキャリア的にもだいぶ年を重ねていたし
これから先何をしていくか考えていた時期だった
元々演じるよりも裏方の方に興味があった時期もあったし
演じるよりも歌うほうが好きだった
そして何よりも追い掛け回される生活も
プライバシーが無い生活も好きじゃなかった
自分より若い世代が次々と世に出てきて
昔程ではなくなっていて
今はそこそこ穏やかになってはいた
「戻りました~あれ?孝天さん!今日は何作ってるんですか?」
外周りから戻ってきた陳が厨房を覗き込んできた
「おかえり。ん?そろそろ戻って来ると思って適当に・・・」
そう答えた俺は丁度出来上がった料理を皿に盛り付けて王に手渡した
「とりあえずコレ運んでくれるか?」
「もちろんです!俺急いで着替えて着ますね!
ところでサラは?どこですか?」
そう尋ねた王に俺は顎を軽く上げて視線を上に向けると
王は理解したのか俺の料理を手に厨房を後にした
俺はひとまず仕上げた料理の残りを手に
カウンターへと向かった
店内には陳と一緒に仕事に出ていた王がのんびりと座り
大きく伸びをしていた
「王もお疲れさん丁度料理出来たとこだ」
「あ、孝天さん!ありがとうございます」
嬉しそうに俺に礼を言いながら目の前に並ぶ料理に
今にも手をつけそうだ
「王!まだサラの事待たないと駄目だからな!」
「解ってるって!サラは何してんのさ?」
「何か電話中だった!本部からかなぁ」
陳と王のやり取りを聞きながら俺はエプロンを外し
二人の分にとグラスにお茶を入れ差し出した
王と陳はサラの仕事J.R.C Junkie Relief Co.Ltd の部下であり
今ではすっかり成長してサラの頼れる相棒だ
N.Yの本部から要請されてアジアに支局を作る為に
L.Aにいたサラが台湾でアジアを統括する為にやって来た時に
サラが直接二人を選んで台湾につれて来た
王は元々台湾の出身だったし陳も両親が台湾出身だったので
L.Aから何も知らず台湾にやってきたサラにとっては有難かっただろう
台湾に二人がやってきた頃はまだ仕事の経験が浅かったようで
色々と大変だったみたいだし
俺の知る限りでも色々大なり小なりトラブルがあったが
今ではサラが一緒でなくても二人だけで
仕事に向かう事も多くなっていてすっかり二人も逞しくなっていた
「お待たせ!あ、待っててくれたんだ?悪い悪い!」
用事が済んだのか二階の自宅件事務所から降りてきたサラは
まだ食事を始めていなかった俺達に気がついて
少しだけ慌ててカウンターの中へと入ってきた
「もうお腹ペコペコですよ~!」
待ちかねたように王と陳は箸を手にしながら
サラに怒ったフリをしていたが
「んじゃ!いただきます!」
そうサラが声をかけるとすぐに料理に手をつけ始めた
「料理させて悪かったねありがとう助かった」
サラが俺にそう言いながらビールと酒を見せている
「ん?別に大したもの作ってないしな・・・」
そう答えながら俺は酒を受け取り冷えたグラスを冷蔵ケースから取り出した
この店のオーナーでもあり二人の上司でもあるサラと初めて会ったのは
日本の空港の入国審査の列だった
俺は完全なプライベートな旅行で彼女は仕事で来ていた
サラは俺が何者であるかも知らなかったし
俺もサラの仕事がどんなモノなのかも知らなかった
完全に偶然の出会いだった
日本でサラの仕事がどんなモノなのか知り
到底理解出来ないし自分とは無縁の仕事だと思ったが
日本で別れた後これまた偶然に彼女の仕事に関する
代言人を仲間と一緒に引き受けたのがきっかけで
台湾にやってきたサラと再会することになった
そして彼女の過去を知りショックを受けたが
彼女の事を好きになった
俺の仲間を庇い命の危険に晒されたりした彼女を
この先決して一人で逝かせないと心に決めた
「誰かを好きになると仕事に支障が出て
守るべき人を守れなくなる」
そう俺に告げたサラ
死にたがりのmad dogと呼ばれていた彼女は
生きる為に俺と決めた俺と彼女だけが知る場所に
新しいTatooを入れ
王と陳と共に台湾で仕事をしている
「そういえば・・・仕事の電話何だったんですか?」
陳が思い出したようにサラに尋ねた
「ん?あぁ・・・本部からじゃなくてファン先生から」
「え?サラどこか悪いのか?」
王が心配顔でそう尋ねると
「違うよ定期的にデータ更新しに来いってさ・・・コレの」
サラはそう答えながら手首に付いたバングルを王に見せた
今の仕事をする前のサラ自身重度のJunkieだった
その後遺症で彼女の体は限られた種類の薬しか
使用できない状態になった
万が一誤って禁止薬剤を使用したら
彼女はショック状態になり死の危険性もある為
バングルに使用可能な薬の最新データを取り込む必要があった
「まぁ最近ファン先生にも世話になる機会なかったからなぁ
行くのすっかり忘れてたわ」
悪びれた様子もなくサラはそう答えると料理を口にして
「あ・・美味しい・・・コレ後で作り方教えて」
そう俺にニッコリと笑ったが俺は話をはぐらかされた気分だった