京都市交通局の構造的問題 | 京阪大津線の復興研究所

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大津線とは、京阪の京津線と石山坂本線の総称です。
この大津線の活性化策を考えることが当ブログの目的です。
そのために、京阪線や他社の例も積極的に取り上げます。

現在、京都市内の交通は主に市営バスと市営地下鉄が担っています。都心部へは南北に京阪、東西に阪急が線路を伸ばしていますが、どちらかといえば都市間鉄道のターミナルとしての性格が強く、市内交通においては脇役に甘んじているのが現状です。

 

バスについても同じことが言えます。民間の事業者のうち、京都バスは市営バスに次ぐネットワークを築いていますが、経由地の利便性などでは明らかに劣っており、裏街道に追いやられている感は否めません。その影響もあり、重複区間でもたいていの場合は市営バスのほうが混んでいます。

 

京阪バスに至っては、地下鉄東西線の開業で乗車率が低下した山科区内の系統を多数引き受けており、市営バス時代の敬老福祉乗車証の負担金相当額を京都市から支給されることで経営を維持している状態です(『バスラマインタ―ナショナル』1998年5月号ぽると出版)。

 

いずれも「民業圧迫」と揶揄されても仕方のない状態です。ところが、コロナ禍の影響も大きいとはいえ、京都市営地下鉄は2020年度に54億円の赤字を計上し、経営改善についての計画策定が義務づけられる「経営健全化団体」に転落しました。累積資金不足額は371億円にも達しています。資金不足比率は実に62.6%であり、地方財政健全化法が定める20%を大幅に超過しています。

 

2021年度の赤字額は市営バスが35億円、市営地下鉄は38億円に縮小しました。利用客数が回復したため、2022年度には経営健全化団体を脱却することが確実視されていますが、累積赤字が直ちに解消されるわけではありません。

 

中国からの団体客が解禁されたことで、京都市内の観光公害、すなわちオーバーツーリズムは今後いよいよ深刻になります。にもかかわらず、そこまで利用客が増えたとしてもなお厳しい運営が続くと予想されています。土台が民間事業者より有利な要素が多いのに、なぜ京都市交通局は赤字体質から抜けられないのでしょうか。

 

その主たる要因は、ランニングコストの高いバスに偏重していることにあります。運転手1人で定員80人程度しか輸送できないバスはそもそも生産性が低いのです。コロナ前時点での1日当たりの利用客数は、地下鉄・バスともに30万人強でした。居住人口約148万人・昼間人口約161万人の大都市にしては、いかにもバスの分担率が高すぎます。

 

居住人口約154万人・昼間人口約157万人で都市規模が近い神戸市と比較しても、その傾向は顕著です。神戸市交通局はコロナ禍前の2019年時点で総延長30.6kmの地下鉄を有し、1日約32万人を輸送していました。一方、市営バスは約18万人です。

 

京都市営地下鉄は烏丸線13.7km+東西線17.5km=31.2 kmなので、総延長も利用客数も神戸市とほぼ同等です。しかし、バスの輸送量には大きな差があります。

 

東西南北ほぼ均等に広がる京都盆地とは異なり、神戸は南を大阪湾・北を六甲山に阻まれた細長い地形が特徴です。よって、東西に鉄道を一本通すだけでも市街地のかなりの部分をカバーできます。バスは補助的に南北交通を担えば済むわけです。

 

ましてや、現在の神戸市には2本の地下鉄とJRに加え、阪急や阪神、神戸高速鉄道、山陽電鉄といった私鉄が所狭しと並走しています。鉄道だけで移動が事足りるケースも少なくありません。実際、地下鉄の輸送量は京都市と同等でも、鉄道全体の分担率は神戸市のほうがかなり高いのです。

 

京都市が地形的な制約から、2本の地下鉄だけでは市街地を網羅できないのは事実です。だからといって、このままバスへの依存や「民業圧迫」を続けて良いということにはなりません。近年は道路渋滞を緩和すべく、京都駅からJRの奈良線で京阪の東福寺駅へ乗り継ぐルートが推奨されていますが、このような地下鉄以外の鉄道の活用策をもっと積極的に進める必要があるでしょう。

 

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