自然振子式との訣別 | 京阪大津線の復興研究所

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制御付き自然振子車両はJRの旅客会社全社に導入されましたが、その中にあってJR東日本は自然振子式と訣別する姿勢を打ち出しました。「スーパーあずさ」に用いていたE351系を、空気ばね式車体傾斜装置搭載のE353系に置き換えたのです。

 

JR東日本E351

 

「スーパーあずさ」が走行する中央東線は断面の小さいトンネルが多く車両限界が厳しいため、E351系のカーブ通過速度は最大で+25km/hと、 JR化後の自然振子車両の中では最も低く設定されました。それでも、高尾駅と相模湖駅の間の小仏トンネルで車体を擦る事故を起こしたことがあります。E353系への置き換え後も現状の速度が維持されていますが、元々のE351系の値が低いので、これは問題ないでしょう。

 

このように、JR東日本は自然振子式を捨てるのに十分な動機を抱えているわけですが、これと対照的なのがJR西日本です。JR西日本は機能面よりも乗り心地を重視する観点から「くろしお」の381系を置き換えたのですが、後継車両には車体傾斜装置を持たない287系と289系が投入されました。

 

現在は制御付き自然振子車両である283系が残っていますが、同車の最速列車は天王寺―新宮間で3時間47分と、全盛期より約20分も遅くなっています。非振子車両の最速列車より1分速いだけであり、すでに283系をも置き換えることを前提としたかのようなダイヤが組まれています。

 

「くろしお」が走る紀勢本線は迂回路が多く、近年開通した高速道路に対して速達性が劣り、苦戦を強いられています。「データで見るJR西日本2016」によれば、1987(昭和62)年度の「くろしお」の紀勢本線和歌山―箕島間の下り片道1日平均乗車人員は4,410人でしたが、2015(平成27)年度は2,299人です。実に半分近くにまで減少しており、その度合いはJR西日本の特急列車の中でも際立っています。

 

それでもなおスピードよりも乗り心地が優先されるのは、よほど乗り物酔いに関する苦情が多かったのでしょうか。状況的にはそう判断せざるを得ません。ならばせめて他社のように、空気ばね式車体傾斜装置を採用して所要時間の延びを抑制すべきです。

 

JR西日本はどういうわけかこの装置の導入に消極的であり、例外はJR東海と同一設計の新幹線N700系だけです。ただ、かつては在来線のカーブ通過速度向上に積極的だった時期があり、1993(平成5)年に「WEST-21」(West Japan Railway Company's Swift Train for 21st Century)と称する構想を発表しています。

 

「WEST-21」は短車体連接構造の強制車体傾斜車両を想定した革新的な計画であり、紀勢本線や伯備線への導入を見込んでいましたが、その名に反して21世紀に入ってからはほとんど進展がなく、頓挫したまま現在に至ります。しかし、だから非振子車両、というのはあまりに極端な選択であり、まずは現在の技術で最大限可能な対策を打ち出すのが先決です。

 

なお、制御機能付きであっても自然振子車両が乗り物酔いを引き起こす例は、JR九州でも報告されています。拙著【鉄道デザインの復興計画】  で指摘したように、同社の885系車両は全席に革張りシートが採用されたため、「革の匂いが乗り物酔いを誘発する」「身体が滑る」などの苦情が多発し、結局はモケットに交換されました。

 

振子車両に関するデザイナーの認識の欠如が乗客と鉄道会社の双方に負担をかけたわけであり、これは技術以前の問題です。JR九州の場合は、自然振子車両よりもまず当該デザイナーと訣別すべきでしょう。

 

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