不幸な食堂車 | 京阪大津線の復興研究所

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そのために、京阪線や他社の例も積極的に取り上げます。

以前取り上げたクルーズトレインの「ななつ星in九州」は、水戸岡鋭治氏が代表を務める「ドーンデザイン研究所」が手掛けました。「ドーンデザイン」の車両群の中で本格的な食堂車を連結しているのはこの列車だけですが、厳密には食堂車とは呼べない「持ち込み式」のものも含めれば、かなり多くの案件に絡んでいます。

 

「ドーンデザイン」が跋扈することの弊害については、拙著【鉄道デザインの復興計画】 で「希少性」「適合性」「機能性」「快適性」「収益性」「安全性」の6つの視点から指摘を加えました。そのうちの1つである「収益性」を無視した典型が「食堂車」なのです。

 

一志治夫著『幸福な食堂車』によれば、代表氏は以下のようなこだわりを持っているようです。

 

「水戸岡がとりわけ強く関心を持っていたのは、食堂車だ。お金がかかるばかりで儲かりはしない車両だが、絶対に必要なものだと思っていた。それは、この新型列車の肝になるものだと確信していた。「儲からないもの」も世の中にはあるべきだろう、という考えだった。(中略)食堂車は、儲からない車両ではあるけれど、地域のため、利用者のための空間、いわば広場であって、公共の乗り物の中にはあってもいいのではないか、というのが水戸岡の発想だった。人々が集まってくる広場は、飛行機もクルマも持ち得ない、列車だけに可能な移動空間なのだ」

 

これはJR九州の在来線特急787系のデザインを担当するにあたってのエピソードですが、賛同できるのは最後の一行だけです。実際にも、「1年間に1億円の赤字」となることが予測されたため、結果的にはビュフェに落ち着きました。

 

食堂車はその後「ななつ星in九州」などで実現したので、さぞかし本望でしょう。しかし、赤字になることが分かっていながらこうした主張を通すのはいかがなものでしょうか。これは食堂車に限ったことではありませんが、「儲からないもの」のツケが最終的に誰に回って来るのかという視点が欠けています。

 

鉄道会社は原価を総括して運賃が認可される仕組みになっているので、赤字が膨らめばいずれ必ず値上げが生じます。この事実を無視して安易に「公共性」を主張すれば、結局のところ現在および将来の利用客に余計な負担を強いることになるのです。これは私も第一作の著書「偽りの公共交通」以来再三にわたって指摘しているのですが、無謀な投資が絶えるには至っていません。

 

話を食堂車に戻すと、かつて東京に発着していた「九州ブルートレイン」のそれも、収益の悪化によって1993(平成5)年3月までに全て営業を休止しました。赤字額は上記の「予測」と同じ年間1億円であり、発想の転換なしにはそのあたりの収支に落ち着くのが現実なのでしょう。

 

松本典久「九州ブルートレイン食堂車―最後の旅路」(『鉄道ジャーナル』1993年6月号収録)は、「九州ブルートレイン」の元祖である「あさかぜ1号」の食堂車の最期の姿を見届けたものです。

 

記事では「先ごろでは一列車あたりの利用者は平均わずか20人たらず、いちばん高いビーフシチューセットを食べたとしても単価は2,000円、売上げ額4万円では、毎年約1億円の赤字がふくらむという話も納得できる」と述べられています。夕食の料理は次の通りです。

 

・ビーフシチューセット2,000円

・チーズハンバーグステーキセット1,400円

・若鶏照り焼き膳1,200円

・かつ丼定食1,000円

・ビーフカレーライス800円

・きのこスパゲティー800円

・ミックスサンド650円

・オツマミ8種類(内容不明)

 

利用者が減った原因については後で考えるとして、ここで着目したいのはメニューの種類です。食堂車は明治期に営業を開始したことを背景としてやや洋食に偏重しており、逆に前回述べた電気レンジの制約のため強火で炒める中華料理などは少ない傾向があります。それでも、品数が絞られた時期においてなおバラエティーに富んだ料理が並んでいるという印象を強く持ちます。

 

選択肢の多さは利用客に対してアピールできる部分ですが、結果論としてはそれが評価されなかったということになります。一方で、このメニューでは「煮る」「焼く」「揚げる」「茹でる」といった多彩な調理が求められ、品数を絞ったわりには調理係の負担はあまり軽減されていなかったのではないかと思われます。

 

こういった点を踏まえないと、現在走っている食堂車もいずれは不幸な末路をたどってしまうのではないでしょうか。

 

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