「相互利用」の実例―神戸高速鉄道 | 京阪大津線の復興研究所

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大津線とは、京阪の京津線と石山坂本線の総称です。
この大津線の活性化策を考えることが当ブログの目的です。
そのために、京阪線や他社の例も積極的に取り上げます。

地下鉄山科と京阪山科の運賃差額の問題を解決する最も簡単で確実な方法は、「相互利用」です。 すなわち、京阪山科と地下鉄京都都心側各駅間の運賃を地下鉄山科基準で計算し、自動改札機の通過データから利用実績を割り出して事後に精算する、という方法です。

なお、京阪山科―御陵間だけを利用する場合については、運賃を地下鉄山科基準で計算すると逆に高くなってしまうので、御陵は「相互利用」の対象から外すものとします。

「相互利用」を実施している例として挙げられるのが、神戸高速鉄道です。神戸高速鉄道は、神戸市内の西代―阪神元町間、高速神戸―阪急三宮間、湊川―新開地間の線路を所有する第三種鉄道事業者です。西代―阪神元町間で阪神電気鉄道が、新開地―阪急三宮間で阪急電鉄が、湊川―新開地間で神戸電鉄が、それぞれ第二種鉄道事業者となっています。

神戸高速路線図


なお、阪急の三宮と阪神の三宮はいずれも「神戸三宮」が正式名称ですが、ここでは両者を区別するため、「阪急三宮」「阪神三宮」と記載します。

「第三種鉄道事業者」は、線路を所有または譲渡して自らは運営を行わない事業者ですが、神戸高速鉄道は「第三種」でありながら独自の運賃体系を持っており、日本の鉄道事業者の中では特異な存在です。

このため、例えば阪急梅田から高速神戸まで乗り通す場合、本来ならば全区間に阪急の運賃が適用されて370円となるところですが、実際には阪急320円(梅田―阪急三宮間)と神戸高速130円(阪急三宮―高速神戸間)の合算額である450円が適用されています。

逆に、西代―阪急三宮間を乗車する場合などは、阪神と阪急の第二種鉄道事業区間をまたぐことになりますが、その際は全区間に神戸高速鉄道の運賃(150円)が適用されるため、本来生じるはずの運賃合算を免れます。

三宮は神戸市の中心であり、乗客の多くがこの駅で入れ替わるので、三宮を境に運賃体系が変わるのは理にかなっています。ただし、これは阪急を利用する場合の話です。

阪神の場合は三宮でなく元町が神戸高速鉄道との境なので、上記の原則を適用すれば、西代―阪神三宮間は、神戸高速鉄道150円 + 阪神130円の合算額から乗継割引額10円を除いた270円となり、阪急三宮を利用する場合よりも120円も高くなってしまいます。

この「原則」が貫かれたとしたら、神戸高速鉄道やそれにつながる山陽電気鉄道・神戸電鉄の各駅から三宮に向かう利用者は、ことごとく阪急三宮を利用することになり、阪神ルートの存在意義は断たれてしまうことになります。

こういった事態を避けるために、神戸高速鉄道・山陽電気鉄道・神戸電鉄の各駅と阪神三宮間の運賃は、阪急三宮を基準に計算する、という特例が定められています。そのおかげで、乗客は必要に応じて阪急三宮と阪神三宮を「相互利用」できるようになっています。

山陽電気鉄道の特急列車は、長らく山陽姫路から神戸高速鉄道を介して阪急六甲または阪神大石まで運転されていましたが、1998年2月より、山陽姫路―阪神梅田間に「直通特急」の運転が開始され、並行するJRに対抗するうえで一定の成果を上げています。

阪急ではなく阪神が直通相手に選ばれたのは、車体幅の規格や最大連結両数が山陽と合致していたから、というのが主な理由です。しかし、もし上記の「特例」がなかったとしたら、どうなっていたでしょうか。

「直通特急」は阪神三宮を通って阪神梅田まで運転されるので、三宮が目的地である場合もそのまま阪神の駅を利用したほうが基本的に便利なわけですが、「阪急三宮で下車したほうが圧倒的に安い」のであれば、三宮を目指す乗客のほとんどは、新開地または高速神戸で阪急方面に乗り換えることになるでしょう。

これでは直通運転の利便性が減殺されてしまいます。山陽沿線からみて、三宮は梅田と同等以上に重要な目的地ですから、山陽は従来通りの阪急三宮・六甲系統の特急を継続するか、阪神梅田への「直通特急」を新設するかの二者択一を迫られ、結果的に「直通特急」は誕生しなかったかもしれません。

「直通特急」実現の陰で、阪急三宮と阪神三宮を運賃面で同等に扱う「特例」が一役買っていたことは確実であり、乗客の利便性を第一に考えた好例であるといえるでしょう。逆にいえば、それが出来ていないのが「山科」なのです。


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