福岡県うきは市が昨年11月に実施した「うきは市営西隈上団地等整備事業」業者選定プロポーザルで、最終審査の1か月も前に業務提案書が外部に持ち出されていたことが分かった(既報1・既報2)。何社もの設計会社やコンサルに取材してみたが、「業務提案書をプレゼン前に役所の外に持ち出すなんて話は聞いたことがない」「そりゃダメだ。不正があったと見られてもおかしくない」「誰だ見ても怪しい。やり直しでしょうね」「業務提案書がコピーされて関係者の手に渡った可能性が否定できない状況やろ」――こういった意見ばかりだ。1か月の間に5人の審査委員たちが行った「仮審査」は、メールで市側に返送するという過程を経ていたことも明らかになっており杜撰な審査方法には呆れるしかない。

報じてきた通り、情報公開で入手した「採点個票」は2種類。「仮審査」の点数が印字されたものと、業者によるプレゼンテーションを受けての最終的な採点個票だ。「あり得ない」と業界関係者が一様に首をかしげる異例の方法で行われた採点も、やはり他に例をみないものだった。

■採点書き変え107箇所
業務提案書の外部持ち出しから1か月後、仮審査のデータがうきは市に返送された。そして行われたプレゼンのあと、各審査委員が仮審査の採点を書き変えている。ここで確認しておきたいのは、各審査委員は1か月もの間、業者の提案書を熟読し、いったんA~Eの表記で採点を行ったということだ。

プレゼンは文書化された提案書の内容をさらに詳しく説明、補足するために行うものだが、今回のケースでは長期間審査委員が提案内容を吟味していたはず。プレゼンで極端に採点が変わるとは思えない。ところが、開示された最終的な採点個票は、異常なまでに書き変え箇所がある。下の画像の通りなのだ。

 

 

確認したところ、落選したグループの書き変え箇所はぜんぶで61か所。18か所は評価を上げているが、43か所もマイナスに変えられ、そのうち1か所は3段階も、2か所は2段階下げられていた。異常である。

一方、選定されたグループの訂正箇所は47か所に過ぎない。8か所上げて39か所は下げ、うち2段階下げが8箇所あった。2グループ共に上げ下げがあるのは確かだが、落選グループの訂正箇所の多さには驚くしかなかった。

■差は「2.3点」
ちなみに、プレゼンを経ても、まったく書き変えられていない採点個票も複数ある。こうした他に例を見ない採点経過によって、選定結果はどうなったのか――?市が公表した採点結果はこうなる。

 

 

業務の提案内容に対する評価点は選定された業者グループが49.05点。落選したグループの評価点は46.80点。わずか2.25点の差だった。金額による採点差0.05点を計算に入れると69.05対66.75で2.3点の差となる。市役所外部に持ち出された業務提案書への採点が、プレゼン後にこれほど変わり、わずか2.3点差で結論が出たということに、疑問を抱くのは記者だけではあるまい。

繰り返すが、疑念が持たれる結果を招いたのは、業務提案書を市役所の外に持ち出すという考えられない審査方法を採用したからだ。審査委員を疑うわけでは決してないが、持ち出された提案書の内容が業者やその関係者に漏れたという疑いを消すことはできない。「公平公正」は担保されてないのだ。

うきは市への情報公開請求で現在までに入手した文書による疑問点は以上だ。ただし、公開されるべきなのに非開示になっている文書が複数ある。次のシリーズで、非開示理由の不当性と、一部開示された業務提案書の内容などについて検証する予定だ。

 

 

うきは市業者選定プロポーザルに重大疑惑(上)|「業務提案書」外部持ち出し

 

※プロポーザル方式

当該業務の内容が技術的に高度なもの又は専門的な技術が 要求されるものについて、技術提案書(プロポーザル)の提出を求め、技術的に最 適な者を特定する手続であり、これを公募により行うものを公募型プロポーザル方 式と言う。

 

業者によるプレゼンテーションという最終審査より1カ月も前に、業務提案書の外部持ち出しを許していたケースがあった。不正が疑われるのは言うまでもない。信じられない業者選定を行っていた自治体とは、昨年市長が交代したばかりの福岡県うきは市(権藤英樹市長)である。

 


 

 

 

 

自治体のプロポーザル方式による業者選定では、審査員と関係業者の接触を禁じることで公正・公平を担保する。もちろん、プロポーザル参加業者の提案内容が事前に漏れるなどということは絶対にあってはならないことだ。しかし、業者によるプレゼンテーションという最終審査より1カ月も前に、業務提案書の外部持ち出しを許していたケースがあった。不正が疑われるのは言うまでもない。信じられない業者選定を行っていた自治体とは、昨年市長が交代したばかりの福岡県うきは市(権藤英樹市長)である。

■疑惑の発端は「採点個票」
結論を先に述べるが、このプロポーザルはいったん白紙に戻すべきである。プロポーザル最終審査までの過程に、著しく公平公正を欠いていたからだ。以下、同市への情報公開請求で入手した文書に基づき、問題点を報じていく。

うきは市が行った市営団地整備事業の業者選定プロポーザルに疑問がある――。匿名の情報提供を受けて同市の公式サイトを確認したところ、問題のプロポーザルについての一連の経緯は、時系列できちんと公表されていた(⇒コチラ)。何もおかしいところはないと思ったが、念のため今年1月、同市に対し事業費19億円を超す「うきは市営西隈上団地等整備事業」に関連する文書の開示請求を行った。

記者がこだわったのは、プロポーザル審査の採点個票(*審査委員が審査会場で手書きした採点文書)と審査委員の顔ぶれ。業者選定プロポーザルに疑念が生じたケースで役所側が隠そうとするのが、採点経過が分かる「個票」や審査委員である場合が少なくないからだ。審査委員は公表済みだったが、残念なことに、うきは市への開示請求でも「個票」から疑惑が浮上することになる。

下は、うきは市が“最初に”開示した採点表=「個票」。業者のプレゼンテーション後に手書き採点するのが一般的だが、なぜかこの個票には先に評価が「印字」されている。このプロポーザルではAからEまでの評価基準が定められており、Aは評価項目ごとの配点×1,Bは配点×0.75、Cは配点×0.5、Dは配点×0.25、Eは0点と決められている。それが先に印字されているわけがない。個票に書き入れた点数を書き直すプロポーザル審査の事例があるにはあるが、あってもせいぜい1~2か所、これほど大量に書き変えられた個票は見たことがない。“おかしい”――そう直感した。

 

 

“先に採点が印字されているのはなぜか?”――情報開示の場で担当職員に確認したところ、「先に業者から提出された提案書を審査委員に渡し、いったん採点してもらった」と、とんでもないことを言い出した。しかし、書き変え前の個票は開示されていない。隠したと判断してもおかしくない状況だった。情報開示が不十分だとして再開示を要求したのは言うまでもない。その結果、後日郵送されてきたのが下の個票である。確かに、書き変えられていない。

 

 

■持ち出されていた「業務提案書」
では一体、どの段階で提案書を審査委員に渡したのか――。その疑問に対する答えは、「うきは市営西隈上団地等整備事業 事業者選定基準」の1ページ目に残されていた。

 

5人の審査委員に業務提案書を渡したのは昨年10月25日。それから1か月後の11月26日に最終審査を行っていたのが分かる。この1か月の間に「仮採点」という聞き慣れない行為があった。つまり、10月25日に提案書が審査委員に渡された後の1か月の間に、追加開示で出てきた“手書きによる書き変えがない個票”が作成されたことになる。

ここで次の疑問が浮上する。5人の審査委員がパソコン上のデータに個票の採点を記入したのが「いつ、どこで」だったのかだ。普通に考えれば市役所の建物の中、つまり10月25日に開かれた第二次審査会の会場内だ。この点について市側に確認すると、あっさり「それぞれの委員が持ち帰った」と明言する。考えられない展開だった。業務提案書が市役所の外に持ち出されていたのだ。次の配信記事で詳述するが、これが何を意味するのか、プロポーザルや総合評価に関わったことのある関係者ならわかるはずである。

もう一点、疑問が残る。外部に持ち出された採点個票は、どのような形でうきは市に戻されたのか、だ。この問いに対する市側の答えも明快で「メールで送ってもらいました」。記者は当然、そのメールの記録も請求することになった。

 

 

うきは市業者選定プロポーザルに重大疑惑(中)|「採点個票」メールでやり取り

 
福岡県うきは市が昨年11月に実施した「うきは市営西隈上団地等整備事業」の業者選定プロポーザルで、業者によるプレゼンテーションを受けての最終審査を前に、業務提案書が外部に持ち出されていたことが分かった。提案書が審査委委員に渡す形で外部に持ち出されたのは最終審査の1か月前。その間に「仮審査」と称して、いったん採点し、市側に返送するという過程を経ていた。どのように「返送」したのか確認したところ……。

■メールの記録を入手
情報漏れが許されないプロポーザル審査で、あろうことか業者の提案書が外部に持ち出され、「仮採点」されて市側に返送されたという。しかも、その時のやり取りはメールだったとうのだから呆れるしかない。ハンターは、審査過程を示す文書でありながら、記者が指摘するまで存在さえ明かされていなかったメールの記録を、追加で入手した。

 

このメールに添付されていたのが、前稿で示した下の採点個票。書き変え前の分だ。

 


ここで整理しておくが、このプロポーザルの最大の問題は、述べてきた通り、業者の業務提案書が市役所の外に持ち出されたことである。審査委員を疑うものでは決してないということを初めに断っておくが、提案書が持ち出された瞬間から、「不正」が可能となる環境を作り出してしまったのは事実だ。

本件の業者選定に応募したのは二つのグループだが、役所の外に持ち出された提案書のデータが、選定で競い合う業者サイドに渡る可能性があったことは否定できまい。大型事業のプロポーザルでも、審査委員に提案書が提示されるのはプレゼンの当日であることが一般的。そうでなければ公正公平は保てないからだ。ところがうきは市の場合は1か月前の外部持ち出し――。審査委員に不正はなかったと確信したいところだが、やはり、うきは市の審査手法は「疑い」を持たれてもおかしくないものだ。何人もの首長OBや現役にも話を聞いてみたが、口を揃えて「聞いたことがない。公平公正が担保されない」と切り捨てる。このプロポーザルは、業務提案書が外務に持ち出された時点で、正当性を失っていたと見るべきだろう。

異例の採点方法にしたことで、疑惑を招く結果になったの確か。プレゼンを経て行われた最終審査での採点そのものが、他のケースでは見られない、非常に不可解なものになっている。

(つづく)