【速報】ヤジ排除国賠、上告棄却|札幌高裁の「半分勝訴」判決が確定
原告弁護団 小野寺信勝弁護士
「政権に批判的な意見を述べたことによって、軽微なトラブルが生じるような状況であれば警察が介入できる。表現の自由への懸念というのはあると思う」
2019年7月に札幌で起きた首相演説ヤジ排除事件をめぐり、排除被害を受けた市民らが地元警察を訴えた国家賠償請求裁判で、当事者双方の上告が退けられたことがわかった。一審原告2人のうち1人への排除が違法・違憲と認められた昨年6月の控訴審判決(既報)が維持され、原告側の「半分勝訴」が確定した。決定は8月19日付。
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既報の通り、ヤジ国賠訴訟は札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長)で原告全面勝訴判決が言い渡されたが、一審被告の北海道警察が控訴したことで争いが継続。二審の札幌高裁(大竹優子裁判長)は、道警による一審原告の桃井希生さん(29)への排除行為やつきまとい行為を違法とした地裁判決を維持しつつ、もう1人の原告・大杉雅栄さん(36)への排除行為を適法だったとする一部逆転判決を出し、これに当事者双方が上告していたところだった。
19日の決定で最高裁第一小法廷(深山卓也裁判長)は、桃井さん事件について道警の「上告受理申し立て」を「受理すべきものと認められない」と退け、大杉さん事件についても大杉さんの申し立てを退けた上で、同じく「上告」を棄却した。(*下の文書参照)
これにより札幌高裁の二審判決が確定し、安倍晋三総理大臣(当時)の演説中に「増税反対」などと叫んだ桃井さんへの警察の排除・つきまとい行為が違法・違憲と認められた一方、「安倍やめろ」とヤジを飛ばした大杉さんへの排除行為は違法認定に至らなかった。
決定を受けて20日午後に札幌市内で記者会見した大杉さんは「ちょっとでも判断が変わればと思っていたので、やはり残念」と話しつつ、裁判を提起したことの意義を次のように語った。
「争いを通じてずっと言ってきたのは『ヤジは表現の自由で認められていて、不当に排除できない。選挙妨害にもあたらない』という主張。裁判ではこれが全体として認められたので、自分の部分で敗けたとしてもそれを『別のこと』として切り離す必要はないと思う」
形として全面勝訴が確定した桃井さんは「1人だけ排除が違法と認められても複雑な思い」と吐露しながら、自身の勝訴判決について一審被告の道警・道へ次のような註文を述べた。
「排除行為が違法と認められた以上、道警は内部できっちり関係者を処分すべき。何もなしというのは、ちょっとあり得ない。また鈴木直道知事は排除の現場にずっといたはずなので、ちゃんと表現の自由について学び、道警主導で裁判を進めたことを真摯に反省して欲しい」
会見に立ち会ったヤジポイ弁護団の小野寺信勝弁護士(札幌弁護士会)は、今回の決定について「大杉さん事件で札幌高裁の非常識な事実認定が覆らなかったことは評価できないが、桃井さん事件で判断の枠組みが崩れなかったことは、よい前例ができたという意味で評価できる」とした。
同じく齋藤耕弁護士(札幌)は「本来きちんと警察を指導・監督すべきだった公安委員会が、この裁判では一審判決を読まずに控訴を了解するなど、何ら警察をコントロールできていなかった」と指摘、道公安委員長が引責辞任してもおかしくない事態だと批判した。神保大地弁護士(札幌)も「ヤジ排除では、検察への告訴告発、検察審査会への審査申し立て、地裁刑事部への付審判請求と、刑事司法手続きがことごとく否定された。ところが民事(国賠訴訟)では排除の違法性が確定し、刑事の対応が不適切だったことがあきらかにされた」と、国賠提訴前の各機関の対応を改めて批判した。
排除事件発生から丸5年、国賠提訴からは4年半を経て確定した司法判断。当事者の桃井さんは、改めて「ぜひ判決文や証拠動画などを観て欲しい」と呼びかけ、訴訟の意義を強調。大杉さんは「結果として敗けたけれど、終わったこと自体はよかった。これからは静かに暮らしたい」と笑わせた。
ヤジ国賠で大杉さん実質敗訴を決定づけた札幌高裁は、演説現場で大杉さんが与党関係者に暴力を振るわれ、警察はそれを止めるために大杉さんを排除した、という「非常識な事実認定」で当事者らを大きく呆れさせることとなった。同判決を言い渡した当時の大竹優子裁判長はその直後、札幌家裁所長に「栄転」したことが伝わっている(↓参考)。
札幌家庭裁判所長
札幌家庭裁判所長
大竹 優子(おおたけ ゆうこ)
略歴
昭和63年4月に裁判官に任官し、大阪、那覇、東京、盛岡、新潟等の裁判所で勤務し、主に民事事件を担当してきましたが、家事事件・少年事件を担当していた期間もあります。近年の略歴は、次のとおりです。
平成27年7月 横浜地方裁判所判事(部総括)
令和3年6月 札幌高等裁判所判事(部総括)
令和5年6月 札幌家庭裁判所長
御挨拶
このたび、札幌家庭裁判所長に就任いたしました。出身は大阪ですが、北海道は何度も観光で訪れたことがあり、引き続き豊かな自然に恵まれたこの地で勤務できることを大変嬉しく思っております。
私が家事事件・少年事件を担当していたのは、もう20年以上も前のことになります。当時、成年後見制度は未だ導入されておらず、取引能力が不十分な者の財産の減少を防止するという観点から、禁治産及び準禁治産の制度があるのみで、その利用件数も限られていました。また、子の引渡しに関する紛争についても、人身保護法による救済が例外的なものとなり、家庭裁判所の手続に委ねる流れが定着しつつありましたが、事案が複雑で解決が困難な案件は、今ほど多くはなかったとの印象を持っています。
その後、少子高齢化をはじめとして、家庭や家族の在りようは大きく変わりました。平成12年4月に成年後見制度が導入され、高齢化の進展に伴い、成年後見関係事件は年々増加していて、家庭裁判所の事務の中でも大きな割合を占めるようになってきています。また、離婚の増加、少子化傾向、男性の育児参加等の子の養育環境の変化を背景として、子の監護養育をめぐる紛争では、紛争性が強く、複雑で解決困難な事案が増加しているとの印象を持っています。少年事件についても、少年を取り巻く環境が変化し、少年の非行内容が複雑多様化しています。このように家庭裁判所の取り扱う事件の内容は変容し、家庭裁判所に期待される役割は、ますます大きくなっているように感じています。
家庭裁判所が取り扱う事件は、家庭の在りようや少年の健全育成に深くかかわるものですから、これを適正迅速に解決することは、家庭裁判所に委ねられた重要な使命であると考えます。家庭における紛争や問題が複雑困難化するなかでも、納得性の高い結論をできる限り速やかに導き出せるよう、家庭裁判所の紛争解決機能を一層充実・強化しなければなりません。また、成年後見制度についても、関係機関と積極的に連携しながら、同制度を適切に運用していくことが求められています。併せて、現在、裁判所全体において取り組んでいるデジタル化について、家庭裁判所においてもこれを積極的に推進することにより、家庭裁判所が、利用者である国民の皆様にとって、より利用しやすい裁判所となるようにする必要があります。
こうした課題に取り組みながら、社会や時代の要請を的確に見据え、皆様の御期待と御信頼に応えることができるよう、職員一同とともに力を尽くしてまいりたいと思います。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
2019年の参院選で当時の安倍晋三総理にヤジを飛ばした札幌市の男女が警察官に排除された問題で、最高裁は男性と北海道警側の上告をそれぞれ退けました。
女性の排除を違法とした札幌高裁の判決が確定します。
20日午前10時ごろ、原告側弁護団の元に最高裁から上告を退けるという書類が届きました。
原告弁護団 小野寺信勝弁護士
「政権に批判的な意見を述べたことによって、軽微なトラブルが生じるような状況であれば警察が介入できる。表現の自由への懸念というのはあると思う」
2019年の参院選で街頭演説中の安倍晋三首相(当時)にやじを飛ばし、北海道警に排除された女性(29)が道に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は道側の上告を受理しない決定をした。道警の対応を憲法で保障された表現の自由の侵害と認め、道に55万円の賠償を命じた二審札幌高裁判決が確定した。19日付。
同じく排除された男性(36)も道を訴えていたが、第1小法廷は19日付で男性側の上告を退ける決定をし、男性の敗訴とした二審の判断が確定した。裁判官5人全員一致の結論で、詳しい決定理由は示さなかった。
二審判決によると、2人は19年7月15日、JR札幌駅前などで演説していた安倍氏に対し「安倍やめろ」「増税反対」などとやじを飛ばし、警察官らに肩や腕などをつかまれて移動させられた。女性はその後、約1時間にわたってつきまとわれるなどした。
「安倍やめろ」「増税反対」“北海道警ヤジ排除”最高裁が排除された男性と道警側の上告退ける 敗訴の男性「僕自身が負けていても別の事として切り離す必要はない」
女性の排除を違法とした札幌高裁の判決が確定します。
20日午前10時ごろ、原告側弁護団の元に最高裁から上告を退けるという書類が届きました。
「政権に批判的な意見を述べたことによって、軽微なトラブルが生じるような状況であれば警察が介入できる。表現の自由への懸念というのはあると思う」
大杉さんと北海道警側がそれぞれ上告していましたが、最高裁は19日付けでいずれの上告も受理しないなどと決定し、桃井さんへの賠償を認めた2審の判決が確定します。
「(原告側の主張は)ヤジを飛ばすことは表現の自由に含まれることと、それを不当に排除することはできないのであってそのあたりは基本的に認められている。僕自身が負けていても別の事として切り離す必要はない」