<「わたしはにんげん」外国人生活保護訴訟>地裁判決受け 原告ジョンソンさん会見「外国人の生存権認めぬ 問題ある判決」

 
日本は人権を尊重するという基本的姿勢が共有出来ない、前近代的思考が蔓延っている。
 
 300万人を超す在留外国人のうち、永住者や定住者らは4割ほど。及川弁護士は「日本の入管行政は排斥的な姿勢が非常に強いと感じる。ジョンソンさんのように働くことができない人に簡単に永住的な資格を認めるとは思えず、半ば強制的に帰国させればいいと思っているようだ」と指摘する。

 その上で、「裁判所はなかなか判例を変更しないが、挑まなくてはならない。外国人でも日本に生活基盤があれば人として生きる権利は当然に認められるべきだ」と語った。
 
 
 外国人に生活保護を受ける権利はなく、各自治体が旧厚生省の通知に基づき行う保護措置が認められなくても黙って受け入れるしかない-。ガーナ国籍のシアウ・ジョンソン・クワクさん(33)が千葉市に生活保護の開始などを求めた訴訟で、千葉地裁はそんな判決を下した。代理人の及川智志弁護士は「外国人の生存権を認めない、非常に問題ある判決だ」と強調した。(加藤豊大)

 ジョンソンさんは慢性腎不全を患い、在留資格では就労も禁止になっている。2日ごとの人工透析が欠かせず、母国にも帰れないため、千葉市内の支援団体のサポートで何とか命をつなぐ。

 閉廷後、千葉市内で開いた会見では、判決について「失望した」と言葉少なに受け止め、今後予定する控訴審に向けて「絶対にあきらめたくない」と力を込めた。

 これまで外国人の生活保護は、生活保護法上の権利としてではなく、1954年の旧厚生省通知に基づき、各自治体が行政措置として恩恵的に実施してきた。
 しかし、同省は入管難民法改正を機に90年、対象を永住・定住的な外国人に限ると通知。以降、ジョンソンさんのように保護を受けられない外国人が増えた。

 300万人を超す在留外国人のうち、永住者や定住者らは4割ほど。及川弁護士は「日本の入管行政は排斥的な姿勢が非常に強いと感じる。ジョンソンさんのように働くことができない人に簡単に永住的な資格を認めるとは思えず、半ば強制的に帰国させればいいと思っているようだ」と指摘する。

 その上で、「裁判所はなかなか判例を変更しないが、挑まなくてはならない。外国人でも日本に生活基盤があれば人として生きる権利は当然に認められるべきだ」と語った。
 
 

働けなくなったら見捨てる? 急増する在留外国人に「生存権の保障」の司法判断は 労働で社会を支える一員

 
「移民国家化を受け入れたくない国の本音は『働けない外国人は帰したい』だろう。しかしすでに多くの外国人が多様な労働分野で貢献し、日本社会が成立している。働けなくなったからといってなぜ見捨てるのか。彼らにも生存権の保障を」
 
 

 

 

◆「外国人への生活保護が違法との認識は誤りです」
 「外国人への生活保護は違法だ」…。インターネットのSNSでは排外主義的な言説が見られる。2022年9月の安倍晋三元首相の国葬の際は「#国葬反対より外国人生活保護反対」の投稿が相次いだ。

 生活保護法1条は保護の対象を「国民」と規定する。最高裁は14年7月、「外国人は生活保護法の対象外」とし、「国民」の範囲について初めて判断した。

 しかし「外国人への生活保護が違法との認識は誤りです」と、相模女子大の奥貫妃文教授(社会保障法)は強調する。最高裁判例は「生活保護法の適用を受ける」のは日本人だけと示すにすぎない。各自治体は行政措置として一定の外国人に保護を実施してきたが、こうした措置については判断されなかったという。

◆「永住・定住などの資格を持つ外国人に限る」口頭通知
 16日に判決が出るガーナ国籍シアウ・ジョンソン・クワクさん(33)が千葉市を相手にした訴訟が、行政措置としての生活保護について、真正面から司法判断を問う初事例となる。

 

 旧厚生省は1954年、「困窮する外国人には国民に対する生活保護に準じ保護を行うこと」と各都道府県に通知。外国人保護は権利に基づくものではなく、人道的な観点から自治体の裁量で行われてきた。
 ジョンソンさんの代理人、及川智志弁護士(58)によると、通知以降、外国人の保護は在留資格の有無や区分にかかわらず広く認められてきた。しかし、90年の入管難民法改正を機に旧厚生省係長による口頭通知が出され、「永住・定住などの資格を持つ外国人に限る」とされた。千葉市はこれに基づき、ジョンソンさんの生活保護の申請を却下した。

 1990年の入管難民法改正 バブル景気による労働力不足などを背景に法改正し、「定住者」の在留資格を創設。3世までの日系人に就労活動制限のない滞在が認められ、ブラジルやペルーなどから多くの出稼ぎ労働者が来日した。

 厚生労働省によると、21年7月時点で外国人世帯への保護は全国で4万6003件。「保護が必要な外国人はその倍以上いる」と、及川弁護士。「命に関わる重要な変更が手続きを踏まず口頭の通知を根拠になされた。その運用は今も続いている」と問題視する。

 厚労省保護課の担当者は「90年の口頭通知は、54年通知で示されなかった外国人保護の対象を明確化したもの。範囲を縮小したわけではない」と説明する。

 及川弁護士は「移民国家化を受け入れたくない国の本音は『働けない外国人は帰したい』だろう。しかしすでに多くの外国人が多様な労働分野で貢献し、日本社会が成立している。働けなくなったからといってなぜ見捨てるのか。彼らにも生存権の保障を」と憤る。

◆全国300万人超に増えた在留外国人
 13年に206万人だった在留外国人数は、23年6月時点で322万人に増加。19年には介護や農業など人手が不足する現場に外国人材を受け入れる「特定技能」の在留資格が追加され、現在17万人が働く。

 奥貫教授は、国民健康保険法や国民年金法は難民条約(日本は81年に批准)により国籍要件が取り払われ、外国人も加入できるようになったと指摘し、続けた。「日本には今、多国籍・多民族の人が住み納税もする。生活保護法の『国民』に、日本に生活基盤を置く外国人も含まれると裁判所が判断するべき時期に来ている」(加藤豊大)

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 裁判の判決は16日、千葉地裁で言い渡される。もはや外国人労働者の存在抜きに成立し得ない日本社会で、司法はどんな判断を下すのか。争点や現行制度の課題を伝える。(加藤豊大)

 

 

「わたしはにんげんです」 突然の病で就労資格を失ったガーナ人男性が生活保護を受けられない不条理

 

この様な記事を読む度に切なくなる。どうして隣の方に優しくできないのか日本という国は…。日本の地で生活を営んでいた。ただ国籍が違うだけ。

 

 

 「わたしはにんげんです。ろぼっとではありません」。千葉地裁の法廷で昨年10月、原告席のガーナ人男性(33)が切り出した。全てひらがなで書かれた陳述書を、片言の日本語でゆっくり読み上げる。

 「はたらけなくなったら、にんげんもすてられるのでしょうか。せいかつほごをみとめてください」

 男性はシアウ・ジョンソン・クワクさん。生活保護申請の却下取り消しと保護開始を求め、2021年12月に居住地の千葉市を提訴した。

◆パン店持つ夢絶たれ、週3回の治療必要に
 自動車の販売・修理のビジネスがしたいと就労資格で15年2月に来日。東京都内の日本語学校に通った。アルバイト先のパン製造会社で人柄や仕事ぶりを買われた。「卒業後も残ってくれないか」

 フルタイムの従業員として働いた。パン作りが大好きになったが19年冬、突然体に力が入らなくなった。呼吸のたび脇腹が痛む。診断は慢性腎不全。週3回、5時間の透析が必要だ。在留資格が医療を受けるための「医療滞在」に切り替わり就労が禁止された。

 在留資格 外国人が合法的に来日して滞在し、活動できる29種類の資格。経営・管理、高度専門職といった「就労資格」、文化活動や留学などの「非就労資格」、日本人の配偶者等や永住者、定住者などの「居住資格」、法務大臣が個々の外国人について特別に指定する「特定活動」に分かれる。医療滞在は、特定活動に入る。

 収入がなくなってからは、千葉市内の支援団体から住居や光熱費のサポートを受けて暮らす。賃貸のワンルームにあるのは、最低限の家具と丁寧にたたまれた布団。壁のホワイトボードに「THANKS TO EVERYONE」(皆に感謝)と書き込む。

 

 支援団体の尽力で住民票を取得し、国民健康保険に加入できた。障害等級1級とされ医療費は無料でも、生活は苦しい。団体が集めた寄付金を毎月受け取るが、1日に使える食費は約500円。公的制度ではないため、支援が途切れないか不安が募る。
 生活に困窮し、親族から援助も得られないとき、日本国民なら生活保護が受けられる。憲法25条が生存権を保障しているからだ。

 ジョンソンさんが21年に2回、市に申請した生活保護はいずれも却下された。理由は「外国人は生活保護法に規定する国民に該当しない」とされた。

◆母国の制度では透析受けられない
 ガーナにも生活保護制度はある。ただし、東京大大学院の浜田明範准教授(医療人類学)によると、給付額は月額10ドル程度で、小学校教員の初任給の約10分の1。透析治療は、公的な健康保険制度の対象外だ。「現地では重病者が診断もされないまま亡くなるケースも多い」と指摘する。

 ジョンソンさんは2日おきに透析を受けなければならない。日本でないと、生きられない。

 得意のパン作りを生かし日本で自分の店を開きたいと思ってきた。今、考えられるのは「あしたまで生きられるかどうか」だけ。「働くことを許されず、生活保護も受けられないなら、どうすればいいのか。私には未来も希望もありません」

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 裁判の判決は16日、千葉地裁で言い渡される。もはや外国人労働者の存在抜きに成立し得ない日本社会で、司法はどんな判断を下すのか。争点や現行制度の課題を伝える。(加藤豊大)