この様な記事を読む度に切なくなる。どうして隣の方に優しくできないのか日本という国は…。日本の地で生活を営んでいた。ただ国籍が違うだけ。

 

 

 「わたしはにんげんです。ろぼっとではありません」。千葉地裁の法廷で昨年10月、原告席のガーナ人男性(33)が切り出した。全てひらがなで書かれた陳述書を、片言の日本語でゆっくり読み上げる。

 「はたらけなくなったら、にんげんもすてられるのでしょうか。せいかつほごをみとめてください」

 男性はシアウ・ジョンソン・クワクさん。生活保護申請の却下取り消しと保護開始を求め、2021年12月に居住地の千葉市を提訴した。

◆パン店持つ夢絶たれ、週3回の治療必要に
 自動車の販売・修理のビジネスがしたいと就労資格で15年2月に来日。東京都内の日本語学校に通った。アルバイト先のパン製造会社で人柄や仕事ぶりを買われた。「卒業後も残ってくれないか」

 フルタイムの従業員として働いた。パン作りが大好きになったが19年冬、突然体に力が入らなくなった。呼吸のたび脇腹が痛む。診断は慢性腎不全。週3回、5時間の透析が必要だ。在留資格が医療を受けるための「医療滞在」に切り替わり就労が禁止された。

 在留資格 外国人が合法的に来日して滞在し、活動できる29種類の資格。経営・管理、高度専門職といった「就労資格」、文化活動や留学などの「非就労資格」、日本人の配偶者等や永住者、定住者などの「居住資格」、法務大臣が個々の外国人について特別に指定する「特定活動」に分かれる。医療滞在は、特定活動に入る。

 収入がなくなってからは、千葉市内の支援団体から住居や光熱費のサポートを受けて暮らす。賃貸のワンルームにあるのは、最低限の家具と丁寧にたたまれた布団。壁のホワイトボードに「THANKS TO EVERYONE」(皆に感謝)と書き込む。

 

 支援団体の尽力で住民票を取得し、国民健康保険に加入できた。障害等級1級とされ医療費は無料でも、生活は苦しい。団体が集めた寄付金を毎月受け取るが、1日に使える食費は約500円。公的制度ではないため、支援が途切れないか不安が募る。
 生活に困窮し、親族から援助も得られないとき、日本国民なら生活保護が受けられる。憲法25条が生存権を保障しているからだ。

 ジョンソンさんが21年に2回、市に申請した生活保護はいずれも却下された。理由は「外国人は生活保護法に規定する国民に該当しない」とされた。

◆母国の制度では透析受けられない
 ガーナにも生活保護制度はある。ただし、東京大大学院の浜田明範准教授(医療人類学)によると、給付額は月額10ドル程度で、小学校教員の初任給の約10分の1。透析治療は、公的な健康保険制度の対象外だ。「現地では重病者が診断もされないまま亡くなるケースも多い」と指摘する。

 ジョンソンさんは2日おきに透析を受けなければならない。日本でないと、生きられない。

 得意のパン作りを生かし日本で自分の店を開きたいと思ってきた。今、考えられるのは「あしたまで生きられるかどうか」だけ。「働くことを許されず、生活保護も受けられないなら、どうすればいいのか。私には未来も希望もありません」

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 裁判の判決は16日、千葉地裁で言い渡される。もはや外国人労働者の存在抜きに成立し得ない日本社会で、司法はどんな判断を下すのか。争点や現行制度の課題を伝える。(加藤豊大)

 

 

きょうの潮流

 日に1000円ずつ手渡し。そのためには毎日、ハローワークで印鑑をもらってくる…。群馬県桐生市で発覚した、生活保護費の支給をめぐる市の対応です

 

▼大声で怒鳴る、保護費を一部しか支給しない、本人の許可なく押印する、従わないと保護を取り消すと脅す。こんな窓口対応が常態化していました

 

▼生活苦が広がるなか、同市では保護率が年々低下。市民を威圧し、申請書すらわたさない水際作戦でした。PTSDや引きこもりになったり、他市へ転居した利用者も。同市の保護却下・取り下げ率は4割超と異常です

 

▼昨年11月、50代の男性が月に保護費の半分ほどしか受け取っていないと群馬県司法書士会に相談して事態が発覚、その後も悪質なケースが数々判明しました。市長は「深く反省」を口にしますが、議会で当局者は「先に向こうが大声を出した」「職員の力量不足」と責任を転嫁します

 

▼金銭管理を他の民間団体に任せ、利用者が自由にお金を使えない状況も生じています。市は「紹介してるだけ」と言い逃れますが、専門家からは「地位乱用の疑い」も指摘されています。被害の広がりや深刻さに市民団体などが現地調査を予定、当事者らは近く市に国家賠償請求訴訟を行う構えです

 

▼生活保護をめぐっては各地で問題が。生活に必要な車が処分されたり、9カ月も保護費が支給されなかった例も。生活保護は生活の保障とともに、自立の助長を目的にしています。こうした対応が何の解決にもなっていないのは明らかです。