R元司法試験再現民事系 | ついたてのブログ

ついたてのブログ

弁護士一年目です。ついたての陰から近況をつづります。

民事系第1問

 

第1 設問1

1 Bは、必要な材料を全て自ら調達し、甲を完成させた。請負人が材料を提供して建物を完成させた場合、完成建物の所有権は請負人に帰属し、引渡しにより注文者に移転するのが原則である。なぜなら、請負人の代金債権確保に資するし、通常の当事者の意思にも合致するからである。もっとも、請負人が約定どおり代金を支払っているときには完成建物の所有権は原始的に注文者に帰属する。なぜなら、通常の当事者の意思に合致するからである。

本件では、Bが材料を提供して甲を完成させており、甲の所有権はBに帰属するのが原則である。しかし、Aは請負代金3億6000万円のうち1億4400万円を約定どおり支払っている。よって、本件事故が発生した時点における甲の所有者はAである。

2 Cは、Aに対し、717条1項但書に基づき本件事故による損害の賠償を請求することができるか。

(1) 甲は人工的作業により土地に接着して設置されたものであり、「土地の工作物」に当たる。

(2) 「瑕疵」とは、通常有すべき安全性を欠くことをいう。

甲は鉄骨鉄筋コンクリート9階建ての建物であり、震度5弱程度の地震には耐えられるのが通常である。ところが甲は震度5弱の地震により一部が損傷しており、通常有すべき安全性を欠いており、設置又は保存に「瑕疵」がある。

(3) 甲の一部が損傷して落下し、Cを負傷させており、上記瑕疵によりCの身体の安全を侵害した。

(4) 本件事故によりCは治療費の支出を余儀なくされており、権利侵害と損害との間に因果関係がある。

(5) 本件事故時の甲の占有者はBである。上記損傷の原因となった資材は定評があり、多くの新築建物に用いられていた。本件事故を契機とした調査を通じて、その製造業者において検査漏れがあったこと、そのため、必要な強度を有しない欠陥品が出荷され、甲にはたまたまそのようなものが用いられていたことが、判明した。そうすると、同資材に不審事由はなく、Bに調査義務はない。よって、「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」に当たる。

(6) 以上より、Cは上記請求をすることができる。

2 設問2

1 Hの主張

本件売買契約により乙の賃貸人たる地位を取得し、乙の登記を具備したことにより同地位をEに対抗できる。本件譲渡契約は将来債権譲渡契約であり無効であり、対抗要件も無効である。

2 Fの主張

本件譲渡契約は有効であり、内容証明郵便で通知したことによりHより先に対抗要件を具備しており、Hに優先する。

3(1) Eは乙の引渡しを受けており、乙の賃借権の対抗要件を具備している(借地借家法311項)。この場合、本件売買契約により乙の賃貸人たる地位がDからHに移転すると解するのが当事者の意思に合致する。同地位の移転は使用収益させる義務の免責的債務引受を含むが、同義務は非個性的義務であり、Eの同意は不要である。Hは乙の移転登記を具備しており、同地位をEに主張できる。

(2) 将来債権譲渡契約の要件として債権発生の蓋然性は要求されない。なぜなら、債権不発生の場合は譲渡人の契約責任を追及すれば足りるからである。

本件譲渡契約では、譲渡の対象となる債権の発生期間が平成289月から平成408月までと特定されており、他の債権と識別できる。また、発生原因が本件賃貸借契約に係る賃料債権に特定されている。さらに、第三債務者がEに特定されている。よって、本件譲渡契約は特定性を有する。

本件譲渡契約が公序良俗違反(90条)であるとの事情もない。

よって、本件譲渡契約は有効である。

平成2883日、DEに対し、本件譲渡契約を締結したこと、及び、平成289月分以降の賃料をF名義の銀行口座に振り込んで支払うべきことを内容証明郵便で通知し、この通知は翌日Eに到達した。よって、同日の時点でEは債権者がFであることを確定的に認識したといえ、同認識を通じて債権の公示機能を果たすことができる。したがって、同日の時点でFは第三者対抗要件(4672項)を具備したといえる。Hが乙の登記を具備したのは平成30220日であるからFHに優先する。以上より、㋑が正当である。

3 設問3

1 本件債務引受契約は第三者のためにする契約(5371項)である。第三者のためにする契約とDH間の契約とは別個の契約であり、DH間の契約の無効により第三者のためにする契約も無効となるのでは後者の契約当事者に不測の損害を生じさせる。よって、Hは本件債務引受契約の無効を主張できないのが原則である。

2 しかし、これではHは平成289月から平成408月までの長期にわたって乙の賃料を取得できないのに3600万円を支払わねばならず、Hに酷である。DGHは㋐が正当であると誤解していたのであり、本件債務引受契約及び本件売買契約の全当事者が共通の錯誤に陥っていた。よって、Hは錯誤(95条)に基づき本件債務引受契約の無効を主張できる。

2021字)

 

民事系第2問

 

第1 設問1

1 甲社の臨時株主総会を自ら招集する場合

乙社は平成29年5月の時点で甲社の総株主の議決権の4%を、同年9月の時点で同9,8%を、平成30年1月の時点で同15%を保有している。よって、乙社は甲社の総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主に当たる。したがって、乙社は甲社の株主総会の招集を請求することができる(297条1項)。同請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合や同請求の日から8週間以内の日を株主総会の日とする招集通知が発せられない場合は、乙社は裁判所の許可を得て、臨時株主総会を招集することができる(同条4項)。

2 平成30年6月の甲社の定時株主総会の開催に当たり株主提案権を行使する場合

乙社は同株主総会において議案を提出することができる(304条本文)。

乙社は、取締役に対し、株主総会の日の8週間前までに、議題につき乙社が提出しようとする議案の要領を招集通知に記載することを請求することができる(305条、299条2項)。

3 比較検討

305条により株主提案権を行使する場合には、甲社の費用で乙社が提案しようとする議案の内容を株主に周知させることができる。

第2 設問2

乙社は、247条を類推適用して本件新株予約権無償割当ての差止めを請求し、同無償割当てが株主平等原則(109条1項)に違反し247条1号の差止め事由があると主張する。

1 新株予約権無償割当ての差止請求を定める明文規定はない。しかし、同無償割当てにより株主に重大な影響を与える場合は247条を類推適用すべきである。

本件新株予約権無償割当ては、甲社の株式1株につき2個の割合で新株予約権を割り当てるものであるところ(概要(1))、乙社は非適格者とされ、新株予約権を行使できない(概要(8))。そうすると、乙社以外の株主に割り当てられた新株約権が行使された場合、乙社の持株比率が大きく低下することになる。よって、同無償割当てにより株主に重大な影響を与えるといえ、247条を類推適用すべきである。

2 本件新株予約権無償割当てに株主平等原則は直接適用されない。しかし、同無償割当ては株主に重大な影響を与えるので、同原則の趣旨を及ぼすべきである。そこで、①同無償割当てが甲社の企業価値を毀損し、株主の共同の利益を害するものであり、②相当性を有する場合には、同無償割当ては株主平等原則に違反しない。そして、①に当たるか否かについては株主総会の判断を尊重すべきである。

本件株主総会には甲社の総株主の議決権の90%を有する株主が出席し、本件会社提案に係る議案が出席株主の67%の賛成により可決された。20%の議決権を有する乙社は同議案に反対したであろうから、出席株主の大多数の株主が同議案に賛成したといえる。よって、本件新株予約権無償割当ては①の場合に当たる。

概要(10)によると、新株予約権取得の対価が非適格者である乙社については1円とされ、乙社は事実上無償で持株比率低下という不利益を受けることになり、相当性を欠くとも思える。しかし、乙社がこれ以上の甲社の株式の買い増しを行わない旨を確約した場合には、甲社の取締役会決議により本件新株予約権無償割当てにより株主に割り当てた新株予約権の全部を無償で取得することができることとされる。そうすると、乙社が同確約をすれば乙社の利益を不当に害するものではない。よって、相当性を有する(②)。

したがって、本件新株予約権無償割当ては109条1項に違反せず、247条1号の差止め事由に当たらない。以上より、乙社の主張は不当である。

第3 設問3

1 本件決議1の効力

本件株主提案の内容は業務執行の具体的な決定に係るものであるから、業務執行の迅速を害するおそれがある。しかし、業務執行の迅速という利益を株主が放棄することは自由である。よって、本件決議1は有効である(295条2項)。

2 Aの423条1項の責任

代表取締役は、業務執行に際し、原則として株主総会決議に従う義務を負う。なぜなら、株主の意思を尊重すべきだからである。

もっとも、同決議に従うことにより会社に重大な不利益が生じる場合には例外的に同義務を負わない。

本件では、P倉庫を売却すると、競合他社に多数の顧客を奪われるなど、50億円の損害が甲社に生じるおそれがある。他方、P倉庫の近隣の不動産価格が下落する兆候はない。よって、Aは同義務を負わず、甲社の利益を図る義務を負う。AP倉庫を売却しており、任務懈怠がある。よって、Aは上記責任を負う。

(1857字)

 

民事系第3問

 

第1 設問1

1 課題(1)

(1) Yの解釈の根拠

Yは法人であり、法人の普通裁判籍は主たる事務所により定まるところ(44項)、Yの本店はB市にあるから、Yの普通裁判籍はB地方裁判所に認められる。そうすると、本件定めは法定管轄裁判所であるB地裁を管轄裁判所と定めたものであり、あえてそのような定めをした通常の当事者の意思は、B地裁にのみ管轄を認める専属的合意管轄の定めとする点にある。

(2) 立論

本件定めは、本件契約に関する一切の紛争はB地裁を第一審の管轄裁判所とするというものであり、B地裁のみを管轄裁判所とする旨の文言は用いられていない。そうすると、本件定めは、法定管轄裁判所であるB地裁に管轄が認められるという当然のことを注意的に記載した付加的合意管轄の定めと解するのが自然である。

2 課題(2)

17条は、管轄が認められる場合でも、遅滞を避ける等のための移送を定める。その趣旨は、訴訟の迅速等の公益を図る点にある。そうすると、A地裁の方が遅滞等を避けられる場合にはA地裁で審理されるべきである。

Xの居住地、Lの事務所、YA支店及びA地裁は、いずれもA市中心部にあり、Yの本店及びB地裁は、いずれもB市中心部にある。A市中心部とB市中心部との間の距離は600kmであり、新幹線、在来線等の公共交通機関を乗り継いで4時間掛かる。そうすると、XLB地裁に行くのに時間が掛かり、訴訟が遅滞する。また、本件定めはYが用意したものであり、当事者間の公平にも反する。よって、本件訴訟はA地裁で審理されるべきである。

2 設問2

1 元の請求における④の事実

本件契約は、甲というシリーズ名の新車のキャンピングカーを目的物とするものであり、種類物売買に当たる。種類物売買においては、債務の本旨に従った履行をしないと目的物は特定しない。本件契約では、本件仕様を有する車両を引き渡すことが内容となっており、同車両を引き渡さない限り特定せず、債務は存続する。⑤の事実は、本件契約に定められた納入日に債務の本旨に従った履行がなされなかった事実であり、履行遅滞の事実であり、請求原因事実である。④の事実は、⑤の結果として生じた事実であり、履行遅滞の事実を推認させる間接事実に当たる。

2 追加された請求における④の事実

④の事実は、本件損壊事実という財産権侵害に当たる事実であり、請求原因事実に当たる。

3 裁判上の自白の効果として審判排除効(弁論主義第2テーゼ)が生じるが、審判排除効が生じる事実は主要事実に限られる。なぜなら、間接事実は主要事実の存在を推認させる点で証拠と同様の機能を有し、間接事実について審判排除効を認めると自由心証主義(247条)を害するからである。

審判排除効により、当事者は自白事実を証明する必要がなくなる(179条)。証明不要という相手方の有利な地位を覆すことはできないから、自白した当事者に撤回禁止効が生じる。

このように、撤回禁止効は審判排除効を前提とする。よって、撤回禁止効が生じる事実は主要事実に限られる。したがって、④の事実を認める旨のYの陳述に撤回禁止効は生じず、Yは同陳述を自由に撤回することができる。

4 Xが訴えの変更をした後にYが認否の撤回をした点は、上記のこととは無関係であるから、影響しない。

3 設問3

2204号ニの文書とは、①外部非開示性②文書の提出により文書の所持者に重大な不利益が生じること③文書の提出を肯定すべき特段の事情がないことをいう。

その判断に際しては、文書の記載内容や文書の所持に至る経緯を考慮すべきである。

本件日記には、設計上の無理があったという記載があり、同記載は、Yにおいて設計に携わっていたTの名誉に関わる記載である。Tは死亡しているが、死者の名誉も保護に値する。

1546字)