民事系第1問
第1 設問1
1 本件売買契約は、松茸5kgを目的物とするものであり、当事者が物の個性に着目していないので、種類物売買契約である。そして、同契約において、Bのりんご農園のそばにあるB所有の乙において引き渡すとされており、Bの引渡債務は取立債務である。取立債務において「物の給付をするのに必要な行為を完了し」(401条2項)といえるためには、目的物を分離し、引渡準備が整った旨を債権者に通知することを要する。
本件では、Bは、松茸を収穫し、乙に運び入れ、箱詰めを終えており、目的物を分離したといえる。そして、Bは、直ちに、引渡準備が整った旨をAに連絡して通知している。よって、本件売買契約の目的物は当該松茸に特定した(同項)。
2 その後、収穫した農作物がなくなったので、Bの引渡債務は社会通念上履行不能となった。Bは、上述のように、弁済準備をしたことの通知及び受領の催告をしており、弁済の提供をしている(493条但書)。弁済の提供の効果として、Bの注意義務が軽減し、重過失があってはじめて帰責事由が認められる。
本件では、Bは、Cを雇って松茸を収穫しており、Cは履行補助者に当たり、Cの重過失はBの帰責事由に当たる。そこで、Cの重過失の有無について検討する。
Cは、Bから、客に引き渡す高価な松茸を入れているので乙を離れるときには普段よりもしっかり施錠するよう指示されたにもかかわらず、同指示を忘れて簡易な錠のみで施錠して乙を離れており、Cに重過失があるとも思える。しかし、Cが同指示を受けたのは引渡前夜であるところ、Cが同指示に違反したのは翌朝である。引渡前夜には、Cは同指示に従って、強力な倉庫錠も利用し、二重に施錠して帰宅している。一晩寝て、指示をうっかり忘れてしまうのはよくあることである。また、Cは普段どおりの簡易な錠での施錠はしている。よって、Cに重過失は認められない。したがって、Bに帰責事由はない。
3 Bに帰責事由なく引渡債務が履行不能となっており、同債務は消滅する。この場合、BのAに対する代金債権の帰すうが問題となるが、債権者主義(534条2項)により、同債権は存続する。よって、Bの本件売買契約に基づく代金支払請求は認められる。
第2 設問2
1 (1)について
(1) Eの撤去請求は、丙所有権に基づく妨害排除請求権としての甲撤去請求である。
(2) 物権的請求権の相手方は、原則として物の所有者である。
本件では、㋐は、Dが甲所有権を喪失したとの主張である。しかし、AD間の売買契約において、甲の所有権は、Aが代金債務を完済するまでその担保としてDに留保されることとされているところ、Aは未だ完済していないので、甲の所有権はDに留保されている。よって、㋐のDの発言は不当である。
2 (2)について
登録を受けた自動車の所有権の喪失は、登録を受けなければ、第三者に対抗できない(道路運送車両法5条1項)。
本件では、甲の登録名義はまだDにある。よって、Dは、甲の所有権の喪失をEに対抗できない。したがって、㋑のDの発言は不当であり、Eの請求が認められる。
第3 設問3
1 本件遺言の解釈
(1) ②③は、相続人であるFG(887条1項)に対するものであり、相続させる旨の遺言である。同遺言の効果として、各定期預金は、遺産分割手続を経ずに、相続により当然にFGに帰属する。なぜなら、被相続人の意思を尊重するためである。
(2) Hは相続人から廃除されている(892条)。よって、④は、特定遺贈(964条)に当たり、200万円の定期預金がHに帰属する。
2 CのBに対する借入金債務300万円は、分割債務(427条)であり、相続により、FGに各150万円で分割承継される(896条本文、899条、900条1号)。
Fは、義務なくGのためにGの債務も弁済しており、Gの意思に反することが明らかとはいえない。よって、Fは、Gに対し、費用償還請求として、150万円の支払を請求できる(697条、702条1項)。
(1631字)
民事系第2問
第1 設問1
1 甲社の主張
Dの閲覧請求は、433条2項1号及び3号に当たる。
2 当否
(1) Dは、甲社と同じハンバーガーショップを営む乙社の発行済株式の全てを有しており、同項3号に当たるとも思える。しかし、Dは、乙社の経営に関与しておらず、甲社の業務と実質的に競争関係にある事業を営んでいるとはいえず、同号に当たらない。
(2) Dは、Aが仕入先からリベートを受け取っている疑いがあるため、Aの取締役としての損害賠償責任の有無を検討するために必要であるとして閲覧請求をしている。しかし、Dは、自分は甲社に対して興味を失っており、Aがリベートを受け取っているかどうかなどは本当はどうでもよいと述べた上で、AがD保有株式を買い取ることを求めている。そうすると、Dの真の目的は、D保有株式買取りについてAに圧力を掛ける点にあるといえ、株主の権利行使に関する調査以外の目的で請求を行ったといえ、同項1号に当たる。
第2 設問2(1)
1 Cの主張
Dは、本件株主総会における議決権の行使に関する一切の事項をAに委任している。かかる委任は、包括的であり、310条1項に反する。
2 当否
甲社は取締役会設置会社である。よって、甲社取締役会が決議した議題についてのみ、本件株主総会で決議できる(309条5項、298条4項、1項2号)。本件では、甲社取締役会で、取締役解任の件を議題とする決議がされたといえる。そして、AとCとの間で、甲社の経営方針をめぐる対立が生じている。また、会社提案としてCを取締役から解任する旨の議案が、Cの株主提案としてAを取締役から解任する旨の議案が、それぞれ提出されている。かかる状況で、DがAに委任状を交付した趣旨は、会社提案に賛成し、Cの株主提案に反対する趣旨であることが明確である。よって、同委任は310条1項に反しない。
3 Cの主張
Cが株主提案の理由を説明しようとしたのをAが制止した措置は、議長の裁量権(315条1項)を逸脱している。よって、本件決議2の決議方法に同項違反の取消事由(831条1項1号)がある。
4 当否
Cが提案の理由として説明しようとしたのは、Aの不正なリベートの受取についてである。同受取の事実は、Aを取締役から解任すべきかどうかについて通常の株主が判断するのに必要である。よって、上記Aの措置は裁量権を逸脱しており、315条1項に反する。したがって、上記Cの主張は妥当である。
第3 設問2(2)
1 Cの主張
Gは120条3項に基づき、Aは同条4項に基づき、甲社に対し支払義務を負う。
2 当否
(1) 「株主の権利の行使に関し」(同条1項)とは、株主の権利の行使又は不行使に影響を及ぼすことをいう。
本件では、本件株主総会において、Cを取締役から解任する旨の議案について、Dが反対し、否決されることをAが恐れた。そこで、GのD保有株式買取資金を調達するため、D、G及び甲社が本件契約を締結し、Gの丙に対する借入金債務を甲社が連帯保証した。たしかに、株式の譲渡は株主の地位の移転であり、株主の権利の行使とはいえない。しかし、Aは、Dが議決権(308条1項)を行使するのを避けるために、上記連帯保証をしている。よって、「株主の権利の行使に関し」に当たる。
(2) 上記行為は、甲社の代表取締役Aが行っており、甲社の計算においてされたといえる。
(3) 仮に、甲社が保証料の支払いを受けて上記保証をする場合には、保証料は60万円を下回らないものであった。よって、Gは、甲社に対し60万円の返還義務を負う(120条3項)。
(4) Aは、上述のように、利益供与に関与しており、注意を怠らなかったともいえないから、甲社に対し60万円の支払義務を負う(同条4項)。よって、Cの主張は妥当である。
第4 設問3
A死亡により、甲社の株主はBとCのみとなった。そして、Cは、甲社の総株主の議決権の過半数を確保するために最低限必要な401株についてのみ、売渡し請求をすることとしており、Cは特別利害関係人に当たる。特別利害関係人であっても、株主総会においては議決権を行使できる(831条1項3号)。よって、175条2項但書に当たらない。
(1699字)
民事系第3問
第1 設問1
1 課題(1)
(1) AがBを被告として提起する訴え
Bの訴えの訴訟物は、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法719条1項前段)である。
Aの訴えも、訴訟物たる権利はBの訴えと同一であるが、Bの訴えとは当事者が逆であるので、訴訟物は別である。しかし、重複訴訟禁止(142条)の趣旨は、既判力の矛盾を防止する点にあるところ、既判力は訴訟物たる権利に生じるので(114条1項)、両訴えで、既判力が矛盾するおそれがある。また、両訴えは当事者が逆であるが、当事者の同一性はある。そこで、142条が適用され、Aは反訴(146条1項)提起を強制される。よって、反訴の要件を検討する。
Aの訴えは、Bの訴えに対する防御方法と関連する請求を目的とする場合に当たる。
本件事故は乙市内で生じたので、Bの訴えの管轄は乙地裁に認められる(5条9号)。そして、7条本文により、Aの反訴の管轄も乙地裁に認められる。
Aの反訴提起により著しく訴訟手続を遅滞させることとはならず、146条1項2号に当たらない。よって、Aの訴えは適法である。
(2) AがCをBと共同被告とする訴え
AのC及びBに対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、本件事故という同一の事実上の原因に基づくので、BCは共同訴訟人に当たる(38条前段)。そして、7条但書により、Cに対する訴えの管轄も乙地裁に認められる。よって、上記訴えも適法である。
2 課題(2)
Bの訴えの被告Aは、甲市内に住所を有する。よって、Bの訴えの普通裁判籍は甲地裁に認められる(4条1項2項)。そして、7条本文により、AのBに対する訴えの管轄も甲地裁に認められ、同条但書により、AのCに対する訴えの管轄も甲地裁に認められる。よって、AがBとCを共同被告として提起する訴えは適法である。
第2 設問2
1 L2は、220条4号に基づき文書提出命令を申し立てる。これに対し、Dは、同号ハ・197条1項2号に当たると反論すると予想される。
2 立論
Aの診療記録には患者Aに関する情報が記載されている。よって、同情報は、「医師」「の職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきもの」(197条1項2号)に形式的に当たる。もっとも、220条4号が一般的な文書開示義務を規定した趣旨は、当事者間の実質的平等を図る点にある。そこで、「黙秘すべきもの」とは、実質的にも保護に値するものに限られる。そして、その判断においては、文書の証拠としての重要性と患者のプライバシー権制約の程度を比較考量すべきである。
本件では、Aが、既にあった症状の治療を本件事故の機会に乗じて受けているのではないか、また、診断書にある後遺症も本件事故とは無関係な症状ではないかとの疑いがある。本件事故と治療及び後遺症との因果関係を争うためには、Dでの診療記録全体の開示が必要である。よって、診療記録の証拠としての重要性は大きい。
他方、Aは、Dでの治療費等の領収証、Aの後遺症に関するDの医師作成の診断書及びDでの診療記録の写しを書証として提出しており、Aは自らのプライバシーを一定程度公開している。そうすると、L2の申立てに係る診療記録の開示によりAのプライバシー権が害される程度は小さい。よって、診療記録の証拠としての重要性が優越する。したがって、Aに関する情報は、実質的に保護に値するものとはいえず、「黙秘すべきもの」に当たらず、220条4号ハに当たらないので、同号によりL2の申立てが認められる。
第3 設問3
1 (ア)について
補助参加人は、上訴の提起をすることができる(45条1項)。
本件では、Bは、第一審で補助参加をしていなかったとしても、Aのために控訴提起をするとともに補助参加をすることができる。したがって、(ア)の主張は不当である。
2 (イ)について
「訴訟の結果について利害関係を有する」(42条)とは、判決主文又は理由中の判断が、参加人の法的利益に事実上影響を及ぼすことをいう。なぜなら、判決効が及ぶ場合には共同訴訟参加(52条)が用意されているし、事実上の影響で足りる以上、判決主文の判断と判決理由中の判断とで区別する必要はないからである。
本件では、AのCに対する請求のうち250万円が認容される場合、Bは損害賠償をすれば、自己の責任割合を超える部分についてCに対して求償できる。よって、AのCに対する判決主文の判断が、Bの法的利益に事実上影響を及ぼすといえ、Bは上記「利害関係を有する」といえる。したがって、(イ)の主張は不当である。
3 丙高裁の受訴裁判所は、決定で、Bの補助参加を許可すべきである(44条1項)。
(1887字)