(続)過去問ひとり答練 ~旧司H16刑法第1問 | ついたてのブログ

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弁護士一年目です。ついたての陰から近況をつづります。

第1 甲の罪責

1 Aを殺す目的でA方玄関内に立ち入った行為は、「正当な理由」なく「人の住居に」「侵入し」たといえ、住居侵入罪(130条前段)が成立する。

2(1) 出刃包丁という殺傷能力の高い凶器で、腹部という身体の枢要部を突き刺す行為は、Aの死亡結果発生の現実的危険性を有する行為といえ、殺人罪の実行行為に当たる。しかし、Aの死亡結果は発生していない。よって、Aに対する殺人未遂罪が成立する。

(2)   中止犯(43条但書)の成否

ア 「自己の意思により」(同但書)の判断基準は、①外部的事情の認識を契機として生じた動機ないし心理という行為者の主観的事情が、②経験上一般に、犯罪遂行を妨げる事情になる場合は該当し、ならない場合は該当しないという基準による。

本件では、①甲は、Aの出血を見て驚がくしている。甲は、出刃包丁をあらかじめ用意していたのだから、出血することは予想していたはずである。また、甲は、Aに対して殺意を抱いていたが、原因は男女関係のもつれによる激高であり、殺意は強固であるといえる。そして、強固な殺意を有するほど、出血を見たことによる影響を受けにくい。また、甲は、タオルで止血しながら携帯電話で119番通報を試みるという積極的な既遂結果防止行為をしており、出血を見たことによる影響は大きくなかったといえる。よって、同驚がくの程度は弱いといえる。②そうすると、同程度の驚がくは、経験上一般に、犯罪遂行を妨げる事情にならない。①よって、甲は、もっぱら、大変なことをしてしまったという悔悟の情から犯行を止めたといえる。②同心情は、経験上一般に、犯罪遂行を妨げる事情にならない。よって、「自己の意思により」に当たる。

イ 「中止した」

同刺突行為により、Aはそのまま放置すれば失血死する状況にあった。そこで、「中止した」といえるためには、死亡結果発生防止のための真摯な努力が必要である。

本件では、たしかに、甲は、119番通報をしてやったという乙の言葉を信じ、乙に対し、よろしく頼むと言って逃亡したのであり、他人の助力を用いても真摯な努力があったとも思える。しかし、Aは、上記失血死のおそれのある危険な状況であったのであり、甲が医師等の前で、怪我の部位や程度を説明することが、Aの失血死防止のための真摯な努力として必要である。甲は、同説明をせずに逃亡しており「中止した」に当たらない。

ウ よって、中止犯は成立しない。

3 したがって、甲には、Aに対する①住居侵入罪②殺人未遂罪が成立し、牽連犯(54条1項後段)となる。

第2 乙の罪責

Aを放置した不作為に、Aに対する殺人未遂罪が成立しないか。

1 同不作為が実行行為に当たるためには、同不作為者に①作為義務と②作為の可能性・容易性が必要である。

本件では、乙は、119番通報をしようとする甲に対し、同通報をさせないまま逃亡を勧めて逃亡させた。また、乙は、犯行現場であるA方でAと同居しており、乙の他にAを救助できる者はいない。よって、乙は他人がAの救助をできない状況を作出したといえ、排他的支配が認められる。したがって、乙には、119番通報をしたり、Aを病院に連れて行くという作為義務がある(①)。そして、乙が同義務を果たすことは可能かつ容易である(②)。よって、同不作為は殺人罪の実行行為に当たる。

2 Aの死亡結果は発生していない。

3 よって、Aに対する殺人未遂罪が成立する。

(1396字)