旧司商法平成19年第1問 ※'16/10/29補訂 | ついたてのブログ

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利益相反取引を通じて423条責任を聞く問題はよく出ますが、要件検討に徹することで守れる場合が多いです。そこで「損害」要件についても意識できるように、旧司H19-1の甲社のCに対する責任追及について答案化してみました。

甲社はCに対して損害賠償責任(423条1項)を追及できるか。
1 Cは「取締役」に当たる。
2 「任務を怠った」
本件売買契約は甲社の「取締役」であるCが「第三者」である乙社の代表取締役として乙社「のために」甲社と取引したものであるから直接取引(356条1項2号)に当たる。よってCは356条1項の「取締役」に当たり、任務を怠ったものと推定される(423条3項1号)。そしてこの推定を覆す事実はない。よって「任務を怠った」に当たる。
3 「損害」
(1)本件取締役会の承認決議が有効であれば甲社は本件土地の代金5億円と真価3億円との差額2億円の損害を被っている。そこでまず本件取締役会の承認決議の効力について検討する。
ア 本問では取締役BDが承認決議に加わっており、BDが特別利害関係人に当たれば承認決議に369条2項違反の瑕疵があることになる。そこでBDが特別利害関係人に当たるかが問題となる。
「特別の利害関係」(同項)とは、取締役の忠実義務違反をもたらすおそれのある、会社の利益と衝突する取締役の個人的利害関係をいう。
本問では、BDは乙社の取締役でもある。本件売買契約は、大量の不稼動不動産を抱えて業績が悪化した乙社を救済するために甲社に本件土地を真価より2億円高い5億円で売却するという内容である。この内容は甲社にとって不利であるから甲社の利益を図るためには承認に反対すべきである。しかし乙社にとっては有利な内容であるから、この取引を承認することは乙社の業績を改善させ、乙社の取締役という地位にBDがとどまることに資する。よってBDは上記個人的利害関係を有し、「特別の利害関係」を有する。よって本件取締役会の承認決議に369条2項の瑕疵がある。
イ そしてかかる瑕疵がある承認決議については明文規定を欠くので一般原則により決議は無効である。
(2)そこで次に取締役の承認決議を欠く利益相反取引の効力が明文なく問題となる。
356条1項2号の趣旨は会社の利益を図る点にある。かかる趣旨を実現するため、取締役の承認決議を欠く利益相反取引の効力は無効であると考える。
本問では、本件売買契約は無効である。よって甲社は乙社に対して既払代金5億円の不当利得返還請求(民703条)ができる。よって、甲社には上記2億円の損害はない。甲社には不当利得返還請求訴訟を提起した場合の訴訟費用という「損害」が生じるにとどまる。
4 損害との因果関係もある。
5 よって甲社はCに対して訴訟費用について損害賠償責任(423条1項)を追及できる。

※他の取締役も含めて起案してみました('16/10/29)

甲社は、A、B、C、D及びEに対し、会社に対する損害賠償責任(423条1項)を追及することができるか。

1 Bについて

(1) 「任務を怠った」

ア 本件売買契約は、甲社の「取締役」であるCが乙社の代表取締役として乙社という「第三者」のために「株式会社」甲社と取引したものであり、直接取引(356条1項2号)に当たる。

同取引により後述のように甲社に損害が生じた。そして、Bは、甲社を代表して同取引を行った。よって、Bは、423条3項2号の「取締役」に当たり、同項により任務懈怠が推定される。

イ 同推定が覆されるかについて

Bは、同取引につき、甲社取締役会の承認を受けなければならない(356条1項・365条1項)。

本件では、BDは乙社の取締役を兼任しており、乙社に有利な議決をすることで個人的な利益を図る動機がある。よって、BDは、忠実義務違反をもたらすおそれがある、甲社の利益と衝突する個人的利害関係を有し、特別利害関係人(369条2項)に当たる。したがって、BDは、同取締役会の議決権を有しない(同項)ところ、賛成の議決権を行使している。以上より、同取締役会の承認決議に同項違反の瑕疵がある。同瑕疵ある決議は、一般原則により無効である。よって、Bは、同承認を受けておらず、356条1項・365条1項に違反しており、上記推定は覆らない。

(2) 「損害」

356条1項2号の趣旨は、会社の利益を図る点にある。同趣旨を実現するため、取締役会の承認を欠く直接取引は無効である。そうすると、本件売買契約は無効であり、甲社は乙社に対して既払い代金5億円の不当利得返還請求(民法703条)ができる。よって、本件土地の真価3億円との差額2億円の損害は甲社に生じない。甲社には、不当利得返還請求訴訟を提起した場合の訴訟費用という「損害」が生じるにとどまる。

(3) 同任務懈怠と同損害との間に因果関係がある。

(4) よって、甲社はBに対して同追及ができる。

2 Cについて

Cは、上述のように、356条1項の「取締役」(423条3項1号)に当たる。よって、同項によりCの任務懈怠が推定される。そして、同推定を覆す事実はない。よって、甲社はCに対して同追及ができる。

3 Dについて

Dは、同承認に賛成しており、423条3項3号の「取締役」に当たり、同項により任務懈怠が推定される。

そして、同推定を覆す事実はない。よって、甲社はDに対して同追及ができる。

4 Eについて

(1) Eは、監視義務(362条2項2号)の内容として、BDが特別利害関係人に当たることを指摘する義務を負う。Eは、同取締役会において、5億円の売却価格に難色を示したものの、同指摘をしておらず、同義務に違反する。よって、Eに任務懈怠が認められる。

(2) Eが同指摘をすれば、BDの同議決権行使はなかったといえ、同損害との間に因果関係がある。

(3) よって、甲社はEに対して同追及ができる。

5 Aについて

Aは、同取締役会開催時に入院中だったので、上記指摘をする義務を負わない。よって、Aに任務懈怠は認められない。したがって、甲社はAに対して同追及ができない。

(1270字)

 

※何が任務懈怠に当たるか(①取締役会の承認を欠くという法令違反or②売却価格の相当性を慎重に議論するという善管注意義務違反)

 が任務懈怠であれば、甲社の損害は訴訟費用のみ。

 の承認が有効であり、②が任務懈怠であれば、甲社の損害は売却価格と真価との差額2億円。

←逆に言うと、損害が確定されれば、損害と因果関係ある任務懈怠も確定される:訴訟費用が損害であれば、任務懈怠は①。2億円が損害であれば、任務懈怠は②。

=損害を意識して任務懈怠を認定する(私見)。

 

※仮に、同承認が有効であるとした場合Aの任務懈怠及び因果関係について:

Aは、同取締役会開催時に入院中だったので、同時点においては、売却価格の相当性について議論を尽くす義務を負わない。しかし、同取引後遅滞なく開催された取締役会にAが出席していることからすると、同取引の前後にはAは回復していたと認められる。そうだとすると、Aは取締役会を招集して(366条1項)、価格の相当性について議論を尽くすように求める義務が認められ、同議論を尽くしていないAには任務懈怠が認められる。Aが同義務を尽くせば、適正価格が判明する可能性がある。そして、乙社の取締役を兼任するBCDに対し、会長としての立場から、影響力を行使して、取引価格の再交渉を促すことにより、売却価格改定が可能である。よって、

任務懈怠と2億円の損害との間に因果関係が認められる(私見)。